3. 舞踏会編③ ダンスの練習
「このドレス、すてき! 似合うと思わない?」
舞踏会の身支度を終えたペルラは、大きな鏡の前で明るい声を上げた。
今日のドレスは、普段なら自分から選ばないような鮮やかなフューシャピンクだった。ペルラの濃い紫色の瞳にもよく似合っている。
淡いミントグリーンの髪は、ディアバスがいつもより丁寧に結い上げていた。
鏡の前で嬉しそうにしているペルラを、ディアバスは少し離れたところから眺めていた。
「似合う、似合う」
「本当に?」
「ああ」
というより、そのドレスを選んだのはディアバスだった。
ペルラに選ばせると、いつも地味でおとなしいドレスになる。ベルデはそれが不満だったが、自分は仕事があり店についていけない。そこで、ペルラに付き添って店に行くディアバスに指示して、舞踏会にふさわしい華やかなドレスを選ばせたのだった。
「いつもと違って、大人の女性って感じ!」
ペルラは鏡へ顔を近づけ、横を向いたり、少し顎を上げたりして、自分の姿を確かめた。
「きれいだよ」
ディアバスが言うと、ペルラがぱっと振り返った。
「ディアはセンスがいいね!
ディア、天才!」
そのまま勢いよく抱きついてくる。
「ちょっと待て!」
ディアバスは慌ててのけぞった。
「化粧が俺の黒い服につくから、やめろ」
ペルラはいたずらっぽく笑った。
ペルラは、もともと誰よりもきれいなのだ。
普段は本人がそのことに無頓着で、髪や服にもあまり手をかけようとしないだけだった。
ペルラに別に華やかなドレスなんて着せたくなかった。
それでも、そのわかりやすさが、ペルラの貴族令嬢としての幸せにつながると信じて、手を抜かずに準備した。
しかし、今純粋に喜んでいるペルラを見ると、その努力はすでに報われた気がしてしまう。
まだ舞踏会に行ってもいないのだが。
ペルラは鏡の前へ戻ると、ドレスの裾を軽く持ち上げ、その場でくるりと回った。
「ディア、踊ろうよ!」
「えっ、今? 髪が崩れるんじゃないか?」
「大丈夫。ちょっとだけよ」
「崩れたら直すのは俺なんだが……」
「久しぶりの舞踏会よ。ダンスの練習だと思って付き合って」
ペルラはもう一度くるりと回ると、笑った。
「しょうがないな」
ディアバスはペルラの手を取った。
「少しだけだぞ」
「はーい」
ペルラは楽しそうに踊った。
テンポは、ずれていた。
ディアバスは動きを合わせる。
ペルラの不思議なダンスの練習相手を、何年間もしてきた。慣れたものだ。
昔つけたダンスの教師は結局匙を投げてしまった。
ダンスの教師には、ペルラのダンスの良さがわからなかったのかもしれない。
ペルラには、今後もそのままペルラのリズムで踊ってほしい。
「何をしているんだ、おまえたちは」
扉の方から声がした。
いつの間にか、正装したベルデが立っていた。
「ダンスの練習よ」
ペルラが答える。
「今さら?
昨日やれ。
今やったら髪が崩れるだろ」
「お兄様もディアと同じことを言うのね」
ベルデは先に歩き出した。
「馬車の用意ができた。そろそろ行くぞ」
「はい」
ペルラは元気良く返事した。
ベトーラ家の馬車が王宮へ向かって走り始めると、ペルラはしばらく窓の外を眺めていた。
馬車が正面玄関へ着くころには、すでに辺りは暗くなっていた。
白い石とガラスを基調としたムーンストーン王宮は、左右非対称の曲線を重ねた、華やかな姿を夜空の下に浮かび上がらせていた。
その柱や窓枠には、細い銀線が、植物の蔓のように、幾重にも張り巡らされ、有機的な模様を描いていた。
広い車寄せには馬車が次々と到着していた。
何本かの銀線が柔らかな白い光を放ち、到着した客たちを明るく照らしていた。




