2. 舞踏会編② 〜ディアバス〜
「お前も、ペルラの結婚相手探しに協力してくれ」
ベルデはディアバスに言った。
「俺には人脈も伝手もないですが」
「そんなことは知っている。そうじゃなくて」
ベルデはペルラを指した。
「ペルラのサポートだ」
「サポート?」
「朝ちゃんと起きるとか」
「それ、いつもと同じじゃないですか」
「髪をちゃんと整えるとか、面倒くさがらずに舞踏会用のドレスを着るとか、ダンスの練習をするとか、約束の時間に遅れないとか、会場で迷子にならないとか、相手探しに向かない話題で盛り上がらないとか――」
「待ってください。なんか多くないですか?」
「大事なことだろ」
「ペルラに言ってくださいよ」
ベルデは黙った。
「……言った」
「え?」
「もう何回も言った」
ディアバスはペルラを見た。
ペルラは視線を合わせず、静かに茶を飲んでいた。
「俺にはお前が必要なんだ」
ベルデはディアバスを見つめると、両手をガッチリ握った。
ムーンストーン王立軍王都守備隊副隊長は、無駄に迫力があった。
「え、ちょっと……」
ディアバスは思わず後退りしたが、後ろには壁があった。
「ペルラを頼んだぞ!」
ベルデはディアバスの手をブンブン振った。
「痛い痛い。兄貴は握力加減しろ!」
ディアバスはベルデを押し戻した。
王都守備隊に勤めるベルデは仕事で家を空けることが多く、昔からずっと、家のことやペルラの世話をディアバスに任せてきた。
ペルラは大事だし、心配でもある。
朝ちゃんと起きるよう声をかけるのも、髪を整えるのも、今さらどうということはない。
ただ、結婚相手探しの手伝いまで自分の役目になるとは思っていなかった。
「しょうがないなぁ」
ディアバスはペルラを見た。
ペルラはディアバスと目が合うと、小さくニコッとした。
「王宮でも、よろしくね」
「はいはい」
ディアバスの本名は、ディアバス・バサルク、バサルク王国の第二王子である。
三歳で人質としてムーンストーンへ送られた。
先代のベトーラ伯爵は、同年代の子供がいるという理由で、ディアバスを移送中に何となく世話するはめになり、ムーンストーン王都到着時にそのまま正式に養育先に決まってしまった。以来、ベトーラ家で暮らしている。
ディアバスは、ベルデが王宮行事に参加するのに付き添い、ほぼ毎月王宮に行っていた。人質としての顔見せである。
舞踏会や王宮に慣れていると言えなくもない。
しかし、ディアバスはこの国でアーバス・セルドという偽名を使っている。
セルド男爵は、ベトーラ家の遠縁の、地方の無名な貧乏貴族で、縁を頼ってベトーラ家に身を寄せている――それが、ムーンストーン王家がディアバスに準備した名前と身分だった。
王都の貴族社交界において、身分も低く、金もないアーバス・セルドなど、空気に等しい。ベルデが皆と話している間、いつも壁際に静かに一人で立っていたが、周囲の貴族に、興味を持たれたことはなかった。親族よりむしろ従者だと誤解されているのかもしれない。
家でのサポートはともかく、会場での社交のサポートには自信も経験もないが、できる範囲でペルラとベルデに協力するしかない。
ペルラが誰かと出会い、そして結婚する。
喜ばなくてはいけない。
ディアバスは、自分のカップの底に残った澱を見つめた。




