1. 舞踏会編① ペルラ
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
「今度の王宮の舞踏会、久しぶりにお前も来ないか」
夕食を終えたところで、ベルデが軽く言った。
ペルラは手にしていたティーカップを置き、向かいに座る兄を見た。
ペルラ・ベトーラは、ムーンストーン王国の中堅貴族、ベトーラ伯爵家の令嬢である。
幼いころに両親を亡くし、兄ベルデに育てられた。
「やっぱり行くしかないかしら?」
舞踏会は気が重い。
王宮や参加者を見るのは楽しいが、自分がその一人として参加し、よく知らない大勢の人に当たり障りなく接するのは疲れる。苦手だ。
ペルラは、今までは色々理由をつけて、ほとんど欠席していた。
ベルデもそれを知っている。
しかし、いつまでもそうしているわけにもいかなかった。
ペルラには婚約者がいない。ムーンストーンの貴族では、幼いうちに親が婚約者を決めることも多いが、両親を早く亡くしたペルラには、その機会がなかった。
そこで最近、兄のベルデが妹の結婚相手探しに本腰を入れ始めたのである。
「王宮の北の庭では、そろそろタールダダンという花が咲くそうだぞ」
「タールダダンが王宮にあるの?」
園芸好きのペルラは身を乗り出した。
ムーンストーンでは見られない花だと思っていた。十年に一度、赤い花を咲かせ、そのまま枯れてしまう。以前、本で読んでから、一度実物を見てみたいと思っていた。
「では、行きます。タールダダンを見に行くと思えば、舞踏会も頑張れそうです」
ベルデが満足そうにうなずいた。
「それは良かった」
「でも、踊りませんよ?」
ベルデは顎に手を当て、少し視線を上げた。
「うーん」
「ダンスはちょっと苦手です」
「ちょっと、ね……」
ベルデは言い淀むと、ディアバスを見た。
ディアバスはさりげなく視線をずらした。
それについては、二人ともよく知っていた。
「でも、少し会場にはいます。誰かとお話しできそうなら、話してみるわ」
「……まあ、仕方ないな」
兄妹のやり取りを聞きながら、ディアバスは机の上の皿をまとめていた。
植物にまるで興味のないベルデが、珍しい花をダシにペルラを舞踏会へ参加させる。
誰の発案かはわからないが、ベルデの兄貴も、いろいろ考えているらしい。
ディアバスは皿を洗おうと、席を立った。
「おい、ディア。待て」
ベルデに呼び止められた。
「え?」
「お前にも話がある」
「……え?」
嫌な予感がした。
「いや、違った。お願いだった」
「…………」
ディアバスは黙ってもう一回座った。
もっと嫌な予感がした。




