38. 巡航都市プリズマ編④ 宿
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
夜。
宿へ戻ったあと、ペルラとアクアとルビーは同じ部屋へ入った。
ディアバスはアルモンドに頼んで、その隣の部屋を取っていた。
三人が部屋へ入るのを見届けて、ディアバスも自分の部屋へ戻った。ローエンと同室だ。
荷物を置いたところで、ローエンが言った。
「アーバス、飲みに行こうぜ」
「行かない」
「早いな!」
「もう夜だろ」
「だから飲みに行くんだろ」
「疲れた」
「嘘つけ。全然疲れてない顔してるぞ」
ディアバスは上着を脱いだ。
「ペルラたちもいるし」
「いるから何なんだよ」
「何かあったら困るだろ」
「何もないって」
ローエンは笑った。
「ホテルの中だぞ? しかも店はすぐ下の階。ちょっとくらいいいじゃん」
「……」
「一杯だけ! ほんとに一杯だけ!」
「お前の一杯は信用できない」
「わかった。アーバスは一杯で帰ればいいだろ。俺はもっと飲むから」
「じゃあ、そういうことで」
「よーし、決まりだ! 行こうぜ!」
店は本当にすぐ下の階にあった。
プリズマらしく、客の服装もさまざまだった。
奥では何人かが大声で笑い、別の卓では仕事帰りらしい男たちが酒を飲んでいる。
歌ったり、楽器を演奏したりしている人もいた。
時々、手拍子や拍手が起きていた。
「いいなあ、こういうの」
ローエンは上機嫌だった。
「何が?」
「旅行って感じするだろ」
「そうか?」
「するよ」
ローエンはさっそく酒を頼んだ。
「アーバスは?」
「少しだけ」
「そうこなくっちゃ」
「一杯で戻るからな」
「分かった分かった」
絶対に分かっていない。
しばらくして、ディアバスは店の入口近くを見た。
「……ガレナ?」
一人の男が振り返った。
私服だった。
だが、見間違えるはずもない。
「アーバス?」
ガレナも驚いた顔をした。
「久しぶりだな」
「ああ」
「どうしてここに?」
「今はプリズマにいる」
「王都守備隊は?」
「辞めた。今はプリズマ軍にいる」
ディアバスは少し驚いた。
「プリズマ軍に?」
ガレナはうなずいた。
「傭兵として雇われてる」
「傭兵か。いつまでいるんだ?」
「まだ決めてない」
「そうか」
ガレナはディアバスの向かいにいるローエンを見た。
「ああ、こいつはローエン。同じ学校の」
「ローエンです。よろしく!」
「ガレナだ」
「ガレナ! 飲んでる?」
「まあ……少し」
「じゃあ一緒に飲もうぜ!」
「え?」
ガレナがディアバスを見る。
ディアバスもローエンを見る。
「いきなり誘うなよ」
「いいじゃん。アーバスの知り合いなら俺の知り合いだろ」
「どういう理屈だよ」
ガレナは少し考えた。
「……まあ、一杯くらいなら」
「ほら!」
「何が、ほら、だよ」
ローエンは嬉しそうに席を詰めた。
ガレナも座る。
そこからは、ほとんどローエンが喋っていた。
学校のこと。
プリズマへ来てから見たもの。
今日食べたもの。
やがてディアバスは立ち上がった。
「俺、もう戻る」
「え? もう?」
「一杯って言っただろ」
「まだ早いって!」
「ペルラたちの近くにいないと」
「同じホテルの中じゃん」
「お前は好きなだけ飲んでろ」
「じゃあ、俺はこれからガレナと飲みまーす!」
ローエンはガレナの肩を軽く叩いた。
「なっ? 俺たちもう友達だよな?」
「あっ? え、そうだな……」
「かんぱーい!」
ガレナは流されるまま杯を持ち上げた。
ディアバスは二人を見た。
「ガレナ、無理するなよ。程々でいいからな」
「分かった」
「あと、泊まってる部屋は上の階の二〇七だ」
「……」
ディアバスは店を出た。




