35. 巡航都市プリズマ編① 出発
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
プリズマへの研修旅行を翌日に控え、ペルラとディアバスは王立学校の寮から自宅へ戻っていた。
巡航都市プリズマ。
巨大な船がまるごと一つの都市であった。
世界の海を巡るプリズマが、数年ぶりにムーンストーン王国の領海へ入った。それに合わせて、王立学校では希望者の研修旅行が行われることになったのだ。
ベルデは先ほどから、旅先で気をつけることを細々とペルラに言い聞かせていた。
「いいか、ペルラ。プリズマはムーンストーンじゃない。外国なんだからな」
「まあ、お兄様は心配性ね! 外国も同じ人間が暮らしていますわ」
「……」
ベルデは、出発の朝、中央駅まで見送りに行くつもりだったらしい。
ところが仕事で呼び出され、行けなくなってしまったという。
「ああ、やっぱり駅までは行きたかった。お前、列車に乗るのも初めてだろう」
「大丈夫よ、お兄様。
確か、えーと、そう、二番線か十二番線から乗りますの」
ベルデが黙った。
ディアバスも固まった。
「ペルラ。二番線と十二番線じゃ全然違うだろ」
「ちょっと似ているんですもの……」
ペルラは視線を逸らした。
「……」
ベルデは額を押さえた。
すぐ顔を上げる。
「ディアバス!」
「十二番線ですから、ご心配なく」
「……ペルラを頼んだぞ」
「はい」
ベルデは深いため息をついた。
「お兄様」
「ん?」
ペルラが満面の笑みで言った。
「お土産楽しみにしていてくださいね」
そのとき、ベルデは寒気を感じた。
「なんか寒い……風邪か? 俺はもう寝る。ペルラとディアも早く寝ろよ」
ベルデは寝室に消えて行った。
◇
翌朝。
王都中央駅は、ペルラが想像していたよりずっと広かった。
十二番線に着くと、準備万端のアクアがすでに待っていた。
ペルラとアクアが話していると、やがて、ルビーが兄ミリスとともにホームへ姿を見せた。
互いに朝の挨拶を交わしたあと、ミリスがペルラに声をかけた。
「ペルラ様」
ミリスがお菓子の小さな包みを差し出した。
「よろしければ、道中で召し上がってください。苺がお好きだと伺いましたので」
「まあ、おいしそう! ありがとうございます」
ペルラの顔が明るくなる。
ディアバスは隣で黙っていた。
――ペルラは、苺に限らず果物なら何でも喜んで食べるけどな。
ミリスはアクアとルビーにも渡した。
ルビーは受け取るなり包みを開けて、食べ始めた。
「うん、おいしい」
「えっ、もう食べるのか……」
ミリスは妹にやや驚いた後、アーバスことディアバスを見た。
「ああ……、アーバス様も行かれるのでしたね」
「はい」
ミリスは笑顔でもう一つ包みを出した。
「これ、どうぞ。お気をつけて」
「……お気遣い、ありがとうございます」
ディアバスは丁寧に礼を言うと受け取った。
ミリスはすぐにペルラへ向き直った。
「帰ってきたら、ぜひプリズマの話を聞かせてください」
――プリズマの土産話なら妹に聞け。
ディアバスの内心をよそに、ペルラは一瞬考えてにこやかに答えた。
「ええ。またお会いしたときに」
ミリスは微笑んだ。




