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26. イグニス編① 入学式の日

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

「イグニス様、カッコよかったなぁ」


ペルラは、寮の自室でニコニコしていた。


いや、ニヤニヤの間違いかもしれない。


今日の入学式で見かけた、同じ新入生のイグニス・コンミフォラ。


淡い紫色の髪に、同じ色の瞳。


すっきりとした中性的な顔立ちは、ペルラの好みにぴったりだった。


ペルラは、一目惚れしたらしい。


「あのなぁ。今日もう十回は同じセリフ聞いたぞ」


ディアバスはやや呆れ顔だった。


自分の部屋の荷解きを終え、ペルラの様子を見に来たところである。


ペルラも先ほどから荷解きをしているのだが、なかなか進んでいなかった。


「だって、本当にカッコよかったんだもん」


ペルラは荷物から服を一着取り出した。


「髪もきれいだったなあ。薄い紫色で、瞳も同じ色だった」


「……」


「スミレと同じ色だよ」


「……」


ペルラは服をハンガーに掛け、クローゼットへしまった。


次の服を取り出す。


「これが一目惚れなのね……」


ペルラはうっとりしながら、手にしていた服を胸にぎゅっと抱きしめた。


「ディアは一目惚れしたことある?」


「……ない」


「私はね……あるー!」


ペルラは、右手を握りしめ、勢いよく頭上へ突き上げた。


「……はいはい」


ペルラは次の服を取り出そうとして、ふと自分の髪に手をやった。


「そうそう。髪型も素敵だったの」


ペルラは鏡の前に行き、長いミントグリーンの髪をかき上げ、手で後ろでひとまとめにする。


「こんな感じ、こんな感じだったよ」


そのままディアバスへ顔を向けた。


「ねっ、似てるよね?」


「さあ……見てないし……」


「見てないの?」


「見てない」


「あんなにオーラあったのに?」


「はいはい、今度見ておくから」


ペルラは髪から手を離した。


「イグニス様って、婚約してらっしゃるのかしら?」


「さあ……」


ペルラの荷解きを手伝っていたディアバスの手が、一瞬だけ止まった。


「今度お兄様に聞かなきゃ!」


ディアバスは何も言わず、再び荷物を片づけ始めた。


「それにね、難しそうな本も読んでたの。化学の本かな? 数学の本かな?」


ペルラは次の服を手に取ったまま、考え込んだ。


「いや、やっぱり物理の本かも……」


「ペルラ」


「なに?」


「手を動かせ、手を」


「あ」


王立学校への入学が決まったのは、およそ一か月前のことだった。



「ディアの入学許可が出たぞ!」


夕食後、ベルデが一枚の書類を手にやってきた。


「本当?」


「ああ。これで二人揃って王立学校に入学できる」


ベルデはディアバスへ書類を差し出した。


アーバス・セルド。


そこには、ディアバスが普段使っている名前が記されていた。


「ずいぶん時間がかかりましたね」


「まあ、お前は立場が立場だからな。許可が下りてよかったよ」


ディアバスは許可証を眺めた。


「俺も学校か……」


ペルラが横から覗き込む。


「でも、お兄様。私も行くの?」


「もちろん」


「ミリス様とのお話がうまくいったら、もう学校で結婚相手を探さなくてもいいんじゃない?」


「まあ、そうだな」


ベルデは頷いた。


「ミリスとうまくいけば、婚活は必要なくなるかもしれない。でも、学校は行っておいた方がいい」


「そうなの?」


「ああ。いろんな奴に会えるし、友達もできる。勉強もできる。いい経験になるだろ」


王立学校は全寮制だった。


結局、ミリスとの縁談はまとまらなかったが、入学の話はそのまま進んだ。


入学までの一か月、必要なものを揃え、荷物をまとめ、準備は慌ただしく進んだ。


そして、今朝。


家を出ると、ペルラが先に馬車へ乗り込んだ。


ディアバスもその後に続こうとしたところで、ベルデが声をかけた。


「ディア」


「はい?」


「お前も体に気をつけろよ」


「はい」


ディアバスはうなずいた。


ベルデは笑顔のまま話を続けた。


「お前の場合、体調の方じゃないからな。分かってるな?」


「え?」


「身の安全だよ、身の安全」


「……ああ、はい」


そういうことだったか。


「あと、ペルラを頼む」


「はい」


ディアバスはもう一度うなずくと、馬車へ乗り込んだ。



「……やっぱり化学の本だった気がする」


ペルラは、先ほどから手にしていた服をまだ持っていた。


ディアバスは別の服をハンガーに掛けた。


「イグニス様、明日も会えるかなあ」


「そんなことはどうでもいいから、早く荷解きしてくれ」


「そんなことじゃないもん」


「あー、はいはい」


ペルラもようやく手にしていた服をハンガーに掛け、クローゼットへしまった。


そして次の一着を手に取る。


しばらく眺めたところで、また手が止まった。


「……ディア」


「今度は何だよ」


「イグニス様ね、すごくカッコよかったの」


「……重症だな」


ディアバスはため息をついた。

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