14. カシュー編② カシュー邸
それから数日、ベルデはいくつかの店を回り、帳簿を確認した。
カシューが噂通り遊び歩いていることは、すぐに分かった。
だが、それだけではなかった。
カシュー本人の行動と、店に残された記録が一致しない。
別の店にいるはずの時間に、別の場所でカシュー名義の支払いがある。
誰かが、カシューの遊興費に別の支払いを混ぜているらしい。
問題は、カシュー本人がそれを知っているかどうかだった。
翌日の昼。
ベルデはソルト伯爵家の王都屋敷を訪れていた。
今日は制服ではない。
玄関で名を告げる。
「ベトーラ伯爵が来たと伝えてくれ」
使用人が困ったような顔をした。
「申し訳ございません。カシュー様は、まだお休みでして」
ベルデは一瞬黙った。
「……まだ?」
もう昼である。
「昨夜、お戻りが遅かったもので」
ベルデはため息をついた。
自分は昨夜、ほとんど寝ていない。
朝から通常の仕事を片づけ、ようやく時間を作ってここまで来た。
その寝不足の原因の一端である男は、まだ寝ている。
「……起こしてくれ」
「ですが……」
「ベトーラ伯爵が起きろと言っていると伝えてくれ」
「……かしこまりました」
しばらくして、ようやくカシューが姿を現した。
「……何だよ、ベルデ」
一応着替えてはいるものの、襟元はきちんと留められていない。いつもは整えている髪も、今日はまだ少し乱れていた。
眠たげに目を細めながら、片手で髪を掻き上げる。
昨夜遅くまで遊んでいた人間とは思えないほど、顔だけは相変わらず整っている。
ベルデは呆れた。
「もう昼だぞ」
「昨日遅かったんだよ」
「らしいな」
「だから眠いんだよ」
「知らん。座れ」
「俺の家なんだけど」
カシューは文句を言いながら、長椅子へ身体を沈めた。
ベルデは、同じ時刻に複数の店の会計がついていた日を狙って、カシューに質問したが、カシューは自分がどこの店に行ったか覚えていないらしい。
「お前、自分がどこで何してるかくらい覚えとけよ」
ベルデは出されたお茶を飲んだ。
「毎回覚えてる奴いる?」
カシューはあくびをした。
「じゃあ、最後、この日は?」
「ああ。その日は王都にいない」
カシューは即答した。
「確かか?」
ベルデが思わず身を乗り出す。
「確かだよ。父上と領地に帰ってた。親戚が集まる日だったから」
これで一つ、確かになった。
王都にすらいなかった男が、王都の店で金を使ったことになっている。
カシューの放蕩だけでは説明できない。
「そうか、そうか。
うん、ありがとう」
ベルデは笑顔でうなずくと、立ち上がった。
「邪魔したな、悪い。
さあ、好きなだけ寝てくれ!」
「おいおい、何なんだよ、さっきから」
カシューも立ち上がった。
二人で玄関に向かう。
「……もしかして、これって仕事?」
ベルデはニヤッと笑った。
「俺は噂話が大好きな人間なんだ」
「何だよ、それ」
カシューが思わず吹き出した。
「そういう奴、いるだろ?」
ベルデは玄関のドアに手をかけた。
「それから、自分が使った金額くらい、これからは確認しろよ。
じゃあな」
ベルデはソルト邸を出た。




