13. カシュー編① 執務室
執務室で、本日最後の書類にサインをすると、ベルデはのびをした。
「……終わった」
ようやく帰れる。
椅子の背にもたれて、軽く目を閉じる。
もう夜だ。他には夜勤の者しか残っていない。
「……いや、終わってなかったな」
ベルデはつぶやくと、身を起こした。
王都守備隊副隊長としての通常の業務は、確かに終わった。
しかし、貴族の動向を探るのも、ベルデがムーンストーン王家から任されている仕事の一つだった。
少し前、カシュー・ソルトについて調べるよう、ベルデに指示があったのだ。
ベルデは、机の引き出しを開けて、封筒を取り出した。
カシューが遊び人だという噂は、以前から耳に入っていた。
最近ではそれがさらに派手になり、とうとう婚約まで解消されたらしい。それでも懲りることなく、夜ごと遊び歩いている。
カシューとは同い年だった。
家格も同じ伯爵家で、幼いころには親に連れられた集まりで顔を合わせたこともある。
一緒に遊んだこともあるが、それも子供のころの話だ。何年もまともに話したことすらなかった。
しばらく前、ペルラを連れて行った舞踏会で久しぶりに顔を合わせた。
あのときは互いに、初対面同然の挨拶をした。
それが一度話してみれば、昔の気安さというものは案外簡単に戻るらしい。
最近では、会えば軽口を叩く程度の間柄には戻っていた。
親しい友人というほどではない。
――というか、あんな遊び人が友人でたまるか。
ベルデは封筒を開けた。
中には、報告書が一枚入っていた。
一週間前にベルデが依頼していたものだ。
いつ、どの店へ出入りしたか。
日付と店名が、上から下までビッシリ書かれていた。
――お前、俺の仕事を増やすんじゃねえよ。
ベルデはため息をついた。
予想以上に店が多い。
一晩で何店も回っている日もある。
ベルデは報告書を卓上の蝋燭で燃やした。
――仕方ない。一度、見てくるか。
ベルデは立ち上がった。




