137. ムーンストーン編④ アクア&ローエン邸
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
庭に面したテラスのテーブルには、四人分の茶器が並んでいた。
数段下がった先には、低い生垣で区切られた花壇が整然と並び、その間を細い小径が通っていた。
ペルラとディアバスは、アクアとローエンの結婚祝いを持って二人の家を訪れていた。
四人はすでに王立学校の課程を終え、それぞれの生活を始めている。
学校では親しく過ごしていたが、アクアとローエンは、地方の無名男爵アーバス・セルドがバサルク王国第二王子ディアバス・バサルクだとは知らない。
「遅くなってごめんね。結婚おめでとう」
「ありがとう!」
アクアが嬉しそうに祝いを受け取った。
「結婚式にも出られなくてごめんね」
「それは気にしないで。なんかバサルクで体調を崩したって聞いたよ。遠いところまで行って、大変だったね」
「うん。ちょっとね」
ローエンは花が満開の庭を眺めながら、ゆっくりとお茶を飲んだ。
「やっぱりムーンストーンが一番だよ」
アクアもうなずいた。
「そうそう」
ディアバスは黙ってカップを口に運んだ。
少なくとも、ペルラがバサルクで大変だったことは否定できなかった。
しばらく近況を話したあと、ペルラはカップを置いた。
「それでね。今日はもう一つ話があるの」
「何?」
「私たち、結婚式をすることになったの」
アクアが目を丸くした。
「えっ、本当に?」
「うん」
「おお!」
ローエンがディアバスを見た。
「ついにか!」
「うん」
「おめでとう!」
「ありがとう」
「おめでとう、ペルラ。アーバスも」
「ありがとう」
ペルラが嬉しそうに笑った。
アクアは改めて二人を見比べた。
「二人、結ばれるんじゃないかとは思ってたけど……本当に結婚するのね」
「思ってたのね?」
ペルラは少し恥ずかしそうに笑った。
「だって、アーバス、ずっとペルラのこと大事にしてたでしょう。ペルラもアーバスのこと頼りにしてたし」
アクアはそこで少し言葉を止めた。
「でも、正式に結婚するとは思わなかったな」
「俺も」
ローエンも頷く。
「……まあ、そうだよな」
ディアバスは苦笑した。
ムーンストーン貴族社交界の常識からすれば、ペルラとディアバスが一緒に暮らしていることと、結婚式でお披露目をして正式な夫婦となることは別なのだろう。
それは自分でもよく分かっている。
アーバス・セルドは、地方の無名の男爵にすぎない。
身分だけを見れば、伯爵令嬢のペルラとは不釣り合いだった。
アクアはペルラに尋ねた。
「やっぱり、遠縁だから?」
ペルラは困ったように笑った。
「まあ、そんな感じかな」
「そうなのね。でもよかった。バサルクに行ってる間、アーバスとは遠距離恋愛だったの?」
「え、えぇ……」
同じ王宮にいたので遠距離ではないが、会いたくても会えない時期は確かにあった。
「愛だね!」
ローエンが楽しそうに笑った。
「まあ、結ばれると思ってたけどな」
「そうね」
アクアも笑った。
テーブルの上には、小さな菓子がきれいに盛りつけられている。ペルラが一つ手に取った。
「しかし、ずっとアーバスっていい男がいたのにな」
ローエンが続けた。
「あやうくバサルクのよく知らない王族と結婚させられるところだったんだから、危なかったな」
よく知らない王族。
ディアバスにとっては実の兄である。
バサルク自体も、ムーンストーン貴族にとっては遠い辺境の小国だ。ローエンの反応も無理はない。
「でも王太子妃候補だったんでしょう?」
アクアがさらりと言った。
「それなら仕方ないわ」
「それもそうだな」
ローエンはあっさり頷いた。
「まあ、王族なんて面倒そうだしな。アーバスでよかったじゃないか。なっ? アーバス」
ローエンはアーバスの背中をぽんと叩いた。
「そうだな……うん、ありがとう」
ディアバスが隣を見ると、ペルラも曖昧に笑っていた。
ローエンもアクアも心から祝福してくれている。
それだけは、よく分かった。
「それでね」
ペルラが二人を見た。
「二人とも、私たちの結婚式に来てくれる?」
「もちろん!」
「行く行く」
「ありがとう!」
ペルラが嬉しそうに笑った。




