133. 【閑話】弁当
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ディアバスがアデュラリア家騎士団に勤め始めて、しばらく経った頃。
ペルラとディアバスは、ベトーラ伯爵邸を出て、騎士団近くの家で暮らし始めていた。
その日、ベルデは二人の新居を訪れ、居間に入るなり、ディアバスを睨んだ。
「おい! 変な噂を立てるのはやめろ」
ディアバスは首をかしげた。
「何の話ですか?」
「ペルラが無名貴族の夫に不満を持っていて、大貴族のイグニス・コンミフォラ様と実は付き合ってるんじゃないかって、噂になってるぞ」
「ええ!?」
「お前の評判なんてどうでもいいが、ペルラとベトーラ家とコンミフォラ家を巻き込むな」
「いや、俺のせいじゃないですよ!」
ディアバスは訴えた。
「この前、仕事に行く時に弁当を忘れたんです」
「ディアのせいじゃねーか」
「まだ途中ですって!」
ディアバスは慌てて続けた。
「それで、ペルラが騎士団まで届けてくれたんですけど、その時イグニス様の馬車で来たんです。
たまたまイグニス様がうちの薬草畑の様子を見に来ていて、歩くより早いしラクだからって馬車を貸してくれたらしいんですよ」
コンミフォラ家の馬車は大きい。
しかも側面には大きく家紋が入っている。
「……お前のせいじゃねーか」
ベルデはディアバスをジロリと見た。
「弁当を忘れたのはお前だろ」
「それはそうですけど」
ベルデは腕を組んだ。
「弁当忘れたら、その辺の庭の草でも食っとけ」
「いや、騎士団の制服を着てる間は、そういう行動はちょっと……」
ベルデの眉が上がった。
「なんだ? アデュラリア家騎士団に入ったからって、急に気取りやがって」
「急に絡まないでくださいよ!」
「大貴族様がよォ」
「気取ってるんじゃなくて、騎士団の規律でそういうのはダメなんですよ!」
「王都守備隊なんて、鶏飼ってる班もいるぞ。あいつら、昼飯に産みたての卵食べてたぞ」
ディアバスは目を丸くした。
「なんで?」
「知らん。王都守備隊は、お前んところの騎士団と違って、いろんなヤツがいるの」
「だからって、おかしいでしょ」
ベルデは話を打ち切るように手を振った。
「とにかく、仕事に行く時は弁当を忘れるな」
「はい。すみません」
「忘れた時は仕事に行くな」
ディアバスは顔を上げた。
「……いやいや、食堂でよくないですか?」
ベルデは険しい顔になった。
「お前、ペルラが丹精込めて作った弁当を無駄にする気か?」
ディアバスは静かに言った。
「……弁当作ってるの、俺ですけど」
「……ま、そうだよな」
ベルデは黙った。




