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130. 海の離宮編(40) アルマンディン

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

その頃、ミリスはようやくアルマンディン第三港湾に到着しようとしていた。


甲板に出たミリスは、片手を手すりに置いて、遠くに広がる街を眺めた。


コバルトブルーの海。


その向こうに、橙褐色の建物が連なっている。


強い日差しを受けた街には濃い緑が茂り、色鮮やかな花があちこちに咲いていた。


思っていたより、ずっと明るい。


ミリスは目を細めた。


王都でアルマンディンの話を聞けば、出てくるのは治安や軍政の話ばかりだった。


少なくとも、こんな景色は聞いていない。


港へ近づくにつれて、街の様子もよく見えるようになった。

建物の間から、高い見張り台が突き出している。

一つではない。

港を見下ろす位置にも、街路の向こうにもある。

どの見張り台にも、ムーンストーン軍の兵士が立っていた。

埠頭にも軍服姿が多い。


やがて船が接岸すると、甲板がにわかに騒がしくなった。


第三港湾交代船団から、人と荷が次々に降ろされていく。


ミリスも船を降りた。


桟橋では、第三港湾駐留軍の武官たちが待っていた。

そのうちの一人が進み出る。


「ミリス・ヘーゼル副司令官。第三港湾への着任を歓迎いたします」


ミリスも敬礼を返した。


武官は傍らから花輪を受け取り、ミリスの首にかけた。


「……ありがとう。これから世話になる」


青い海。白い雲。ヤシの木。鮮やかな花々。


――あれ? 南国リゾートで過ごす休暇じゃないよな? 仕事だよな?


ミリスは無意識に腰の剣に触れた。


うん。間違いなく仕事だ。


「では、駐留司令官のもとへご案内いたします」


武官の声に、ミリスは顔を上げた。


「頼む」


一行は港をあとにした。


駐留司令官への挨拶。

前任者からの引き継ぎ。

施設の案内。


次々と人に会い、説明を聞き、書類に目を通した。


ようやく用意された部屋へ入れた頃には、日もだいぶ傾いていた。


晩餐会までは、まだ少し時間がある。


ミリスは少し萎れた花輪を取った。


星の蔦も外し、軽く水で洗った。

銀線とフューシャピンクの宝石が、水滴をまとってきらきらと光った。


机の上に、小さな包みと手紙が置かれていた。

自分が船で運んできた荷物ではない。

本国からの定期便で、一足先に届いていたものだった。

妹のルビーからだった。


ミリスはソファに座り、手紙の封を切った。


小包も開けてみる。


中には、王都で見慣れた菓子が入っていた。

ミリスが好きな菓子ばかりだ。

さすがルビーだ。わかってる。


一つ取って、口へ運ぶ。


「うまい」


思わず、独り言が出た。


特に今日は長い船旅を終え、上陸後は各所を歩き回った。


菓子をつまみながら、手紙を読み始める。


取り留めのない近況が続く。


『それから、近衛になるなら徒手格闘も身につけた方がよいそうなので、練習を始めました』


結構なことだ。


もう一つ菓子を取った。


『お兄様がいない間は、お兄様の部屋を使うことにしました。広くてちょうどいいです』


ミリスの部屋で拳を振るうルビーの姿が目に浮かんだ。


「あのなぁ。自分の部屋でやれよ……」


壁に穴だけは開けないでほしい。

それから飾り棚の品も壊さないでほしい。


手紙の続きを読む。


『一緒に送ったお菓子は、お部屋をお借りするほんのお礼です』


ミリスは、手にしていた菓子を見た。


「……これ、部屋代だったのか?」


そして、改めて見ると、菓子の袋の中身は、ずいぶん寂しくなっていた。


今夜は、自分の着任を歓迎する晩餐会がある。


夕食を軽く済ませる、というわけにもいかない。


ミリスは残った菓子を包み直した。


「……食べ過ぎた」


ルビーのせいだぞ。

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