122. 海の離宮編(33) 謁見
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ミリスは、バサルク王宮を歩いていた。
バサルク王宮は、入り組んだ樹間の回廊が続いていた。
頭上を覆うのは、何重にも重なる太い枝と、濃い葉だった。
昼間だというのに、王宮の中は薄暗い。
一定の間隔で置かれた火皿に、炎が揺れている。
視線を上げれば、少し離れた向こうの回廊にも灯火が並んでいた。
王宮のあちこちに、大小の火が連なっていた。
王宮内には、香煙が漂っていた。
ひとつの香炉を通り過ぎる前に、次の煙が重なった。
甘く重い香りが、喉の奥にまとわりつくほど濃い。
白い香煙は薄暗い回廊を流れ、灯火を受けて形を変え、渦を巻きながら、ゆっくり立ち昇っていった。
いくつもの回廊を渡り、階段を上るうちに、ミリスは王宮のかなり高いところまで来ていた。
謁見の間へ近づくにつれ、あたりはさらに暗くなっていった。
昼の光もほとんど届かない回廊で、濃い香煙の向こうに、紫を帯びた青い炎が一定の間隔で揺れていた。
行き止まりで、案内役が足を止め、ミリスに一礼して手で扉を示した。
近衛がミリスの顔を確認してから、大きな扉を左右に開く。
ミリスは一礼して、謁見の間に足を踏み入れた。
◇
金と水晶を連ねた細い簾が、幾重にも垂れていた。
小さな金の粒と透明な水晶の粒が、数えきれないほど縦に連なり、光を拾って煌めいている。
無数の金と水晶は、光を細かな粒に砕き、揺れる輝きの幕をつくっていた。
外から入る風が、正面の金と水晶の簾を揺らしていた。
謁見の間は広く、天井は高かった。
左右は壁がなく幅広い外廊へ続き、その向こうには空と熱帯雨林がどこまでも続いていた。
大きな火皿には炎が揺れ、香炉から上る薄い煙が、光と風の中をゆっくりと昇っていた。
金と水晶の簾の向こう。
正面の階段の上に、広い壇がある。
壇上に、バサルクの伝統衣装に身を包んだ王族が静かに座っていた。
風に簾が揺れるたび、金の光の粒がその輪郭を縁取り、水晶の煌めきが衣装の上を淡く渡る。
ペルラ・ベトーラが微笑んでいた。
金と水晶で隙間なく飾られた頭飾りは、額の上から左右へ大きく張り出していた。何本もの簪から飾りが幾重にも垂れ下がっている。
ムーンストーン王都で見慣れた、気さくな令嬢の面影は、そこにはなかった。
その傍らには、見覚えのある黒髪の男がいた。
ディアバス・バサルク第二王子殿下であった。
ムーンストーンで見た男爵、アーバス・セルドとはまるで違う姿だった。
背を伸ばし、前を見据えている。
頭上には金と水晶で作られた冠が輝き、深い色の衣は金と宝石で飾られていた。
壇上には、もう一人いた。
あの方が、おそらくオーニチェ王太子殿下だろう。
壇の下には、数名の重臣が控えていた。
ミリスは定められた位置まで進んだ。
深く頭を下げる。
「ミリス・ヘーゼル。遠路、ご苦労だった」
壇上から声が響いた。




