118. 海の離宮編(30) 雨
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
離宮は今日は雨だった。
窓ガラスに打ちつける雨で、海と空が滲んでいた。
ふいにペルラが口を開いた。
「ディアは……離宮にいたいの?」
「え?」
ペルラは皿のチーズケーキにフォークを刺した。
「ディアは本当は王宮にいたいのに、私のせいで離宮にいるんじゃない?」
チーズケーキがボロボロと崩れた。
「いや、そんなことはない……」
「だって、王宮にいた方がお父様ともお兄様とも一緒に過ごせる。
もう次いつバサルクに来れるかわからないんだよ。
バサルクの貴族と社交もできる。
朝儀にも出られるかもしれない。
先生の指導もいつでも受けられる」
ペルラはディアバスの目を見た。
「ディアは、私の面倒を見るために、ここに押し込められているんじゃないの?」
ディアバスは食べるのをやめると、ペルラの方を向いた。
「ペルラ、聞いてくれ。
俺は自分で望んで、ここにいるんだ」
ペルラはフォークを握りしめると、ディアバスに笑顔を見せた。
「私、もう元気になったよ。
だから、ディアがずっとついていなくても大丈夫だよ。
今までありがとう。
……だから、ディアも無理しなくていいんだよ」
「……俺は、いたらいけないのか?」
ディアバスは静かに言った。
「だって、私と一緒にいたら、良くないことばかり起きるじゃない?
私といたら嫌なことを思い出しちゃうんじゃない?
ディアにこれ以上迷惑をかけたくない……」
部屋に雨音だけが響いていた。
ディアバスはペルラを抱きしめた。
「迷惑だなんて、一回も思ったことない。
俺の大切なペルラ。
誰が何と言おうが、お前の隣にいたいんだ」
ディアバスはペルラの肩をつかむと、顔を覗き込んだ。
「俺のこと、『大好き』って言ってくれたよな?
俺と結婚するって言ってくれたよな?
嘘じゃないよな?」
「嘘じゃない……」
ディアバスはペルラをもう一度抱きしめた。
「じゃあ、何でだよ?
今さらお前が何を言っても、お前を離すなんてできない。
俺のせいでお前が傷ついても、お前のせいで俺に何かあっても、だから遠く離れて他人のように生きようなんて、俺には無理だ。
その方が安全でも、そんな人生を俺は望んでない。
お前を幸せにする、できる限り幸せにする、何でもする。
だから、俺と一緒に生きてくれないか?
それがダメなら、せめてそばにいさせてくれ」
ペルラが口を開いた。
「……私も……私もディアを幸せにできるかな?」
「できる、できる。
難しいことじゃない」
ディアバスはペルラの顔を見ると微笑んだ。
「難しいことじゃない?」
ペルラは怪訝な顔をした。
「どうするのか、教えてやろうか?」
「うん」
ディアバスはペルラの手を取った。
「俺の言うことを繰り返すんだ」
「うん、わかった」
「私ペルラはディアバスと死ぬまで一緒にいます」
「私ペルラはディアバスと死ぬまで一緒にいます」
ペルラは真剣に復唱した。
ディアバスは笑った。
「よし、よく言えたな!」
「え? 終わり?……あっ!? 今のは約束ってこと?」
「そうだな。
ペルラの口から聞けて、俺は本当に幸せだ」
ペルラはディアバスの胸をポカポカ叩いた。
「……ディアのバカ。もう知らない」
ペルラはそう言いながら、少し笑っていた。
ディアバスは、その顔を見て笑った。




