117. 海の離宮編(29) 鋏
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
誕生日会から数日。
ペルラは日を追うごとに、表情が出てきて、少しずつ色々話すようになってきていた。
ある夜、ディアバスが夕食後にお茶を飲みながら、課題の本を読んでいると、部屋がノックされた。
「ディア?」
ディアバスがドアを開けると、ペルラが立っていた。
ディアバスはペルラを招き入れた。
「どうした?」
「ディア、鋏持ってる?」
「あるけど、どうするんだ?」
ディアバスはペルラに鋏を渡した。
ペルラは下ろしていた髪を無造作に全部つかむと、はさみで切った。
「こうするのよ」
「か、髪が……」
唖然とするディアバスを前に、ペルラはキッパリと言った。
ペルラは鋏から髪の毛を払うと、ディアバスに鋏を返した。
「鋏、ありがとう。
いいのよ。見る度にあの日のことを思い出すんだもの。
すっぱり断ち切った方がいいわ!」
「……そ、そうなのか」
「私は失敗ばかりなんだもん。嫌になっちゃう。
ミリス様とも、ジュニパー殿下とも、オーニチェ殿下とも、ディアとも、うまくいかない」
「えっ? いや、俺はまだ……」
「きっとお兄様もがっかりするわ」
「兄貴は、ペルラが元気で幸せなら、気にしないよ」
「本当に?」
ペルラはディアバスの目を見た。
「……優先順位の問題だから……ペルラの方が大事だよ……」
ディアバスはいまいち歯切れが悪かった。
貴族にとって、結婚がどうでもいいとは、とても言えなかった。
「ディアは……優しいよね……」
ペルラの瞳が潤んだが、涙をこぼさないように目を見開いて耐えているようだった。
※ ep.107 「107. 海の離宮編(19) 火」を、2026年09月05日 21時00分に更新(編集)しました。




