107. 海の離宮編(19) 火
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
翌日。
離宮への襲撃について、近衛と離宮守備隊から報告が上がった。
捕らえられた侵入者は、アルマンディンの残党だった。
しかし、油田火災については知らない様子だった。
離宮襲撃と油田火災は同じ晩の出来事であったが、調べても二つを直接結びつけるものは出てこなかった。
◇
オーニチェとピレイは、王太子執務室で報告書を確認していた。
油田側の報告には、奇妙な点があった。
火災は、離宮からもはっきり見えるほど激しかった。
今もまだ一部で消火活動が続いている。
それにもかかわらず、主要設備の損傷は少なく、操業再開にもそれほど長い時間はかからない見込みだった。
さらに、火災は事故ではなく、誰かが意図的に起こした可能性が高いことも分かった。
オーニチェは報告書を机に置いた。
「破壊が目的ではなかったということか?」
ピレイは少し考えた。
「例えば……燃えているところを、見せたかったのでしょうか?」
「なぜ? 誰に?」
「そんなの、私もわかりませんよ」
「まあ、そうだよなあ。
別々の事件である可能性も考えて、調査を続けてくれ」
「承知しました」
オーニチェは報告書を閉じた。
◇
後日、油田の年一回の定期保全のため、ムーンストーンからコンミフォラ家の船がバサルクへ到着した。
その船には、イグニスの父であるコンミフォラ卿が乗っていた。
コンミフォラ卿は海上油田へ向かうと、予定されていた点検に加え、火災のあった設備も調べ始めた。
派手に燃えた割に、やはり損傷は軽かった。
外装の焦げた装置の一つを開き、内部を確認する。
透明な液体の中を、細い銀線が何本もゆるく曲がりながら伸びていた。
銀線は淡く光り、液体の中でゆっくりと揺れている。
その間を、細かな気泡が無数に立ち上っていた。
ところどころに小さなオレンジ色の宝石が埋め込まれ、銀線の淡い光を受けて、きらきらと瞬いていた。
◇
装置には、記録もきちんと残っていた。
コンミフォラ卿は順に目を通していった。
稼働記録、点検記録、認証記録。
その中に、火災直前の不審な認証が一件だけ残っていた。
油田勤務者のものではない。
詳細を確認すると、ムーンストーン軍へ納入された星の蔦で、さらにアルマンディン駐留軍の軍人に登録されたものだった。
油田では出退勤管理のために認証用の銀線が使われている。
侵入者を見つけるための設備ではないため、その軍人は気づかず銀線の近くを通り、星の蔦が自動的に反応したのだろう。
星の蔦は登録された本人以外には使えない。
つまり、火災の直前、アルマンディン駐留軍の軍人が油田にいたことになる。
アルマンディンの治安が安定すれば、駐留軍の縮小や予算の削減を求める声も出る。
反対に、脅威が周辺国にまで及んでいるとなれば、その必要性を主張しやすくなる。
それだけで、その軍人が火をつけたとは言えない。
だが、無関係とも言い切れなかった。
コンミフォラ卿は、識別情報と時刻を紙に書き写すと、紙を折り畳み、上着の内側へしまった。
コンミフォラ卿は、バサルク側への報告書には例年通り、設備の状態だけを記すことにした。




