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105/144

105. 海の離宮編(17) 音

※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。

ディアバスはもう一度部屋を見回した。


もう剣の音はしなかった。


侵入してきた男達は次々に守備隊に連れて行かれていた。


「ペルラ」


ディアバスはソファの陰へ駆け寄った。


ペルラは座り込んだまま、動かなかった。


「もう大丈夫だ」


ディアバスはペルラの前に膝をついた。


「終わった。もう誰も来ない」


ペルラの顔と手に乾いた血が付いていた。


長い髪の片側が、ザックリ切られていた。


ディアバスは布を水で濡らして、ペルラの顔を拭いた。


「どこが痛い?」


ペルラは返事をせず、何度も周囲を見回した。


ドアを見て、窓を見て、またドアを見る。


「大丈夫だ。もう来ない」


ディアバスは、震えるペルラの手を取った。


「ペルラ?」


ペルラがようやく口を開いた。


「王妃様のティアラ……」


「ティアラ?」


「見つからなかった……」


ペルラの目から涙がこぼれた。


「私、なくしたのかな……」


「ペルラ」


「ディアとオーニチェ様のお母様の、大切なものなのに」


ディアバスはペルラの肩を抱いた。


「ティアラはいい。

ペルラが生きているだけで十分だ」


「でも……」


「大丈夫だ。今はもう考えなくていい」


ディアバスはペルラを抱きしめた。

ペルラの体は固かった。


その時、遠くで低い音が響いた。

腹の底まで伝わるような、鈍い音だった。


少し遅れて、窓ガラスの残った部分が細かく震えた。

すでにヒビの入っていたガラスが、音を立てて砕け落ちた。


ディアバスが顔を上げた。


ペルラも窓の方を見た。


暗い海の向こうで、大きな炎が夜空へ噴き上がっていた。

海上油田の一角が、赤橙色の強い光に包まれていた。

炎は風に煽られ、何度も高く、太く燃え上がった。

そのたび、暗い海面が赤く照らされ、波の上に長い光が揺れた。

黒煙が高く立ち上り、その下では炎が絶えず明滅していた。


もう一度、低い音が響いた。


「あれは……海上油田か?」


近衛の一人が窓へ駆け寄った。


「確認しろ!」


「油田側へ連絡を。王宮にも追加報告を出せ!」


近衛と離宮守備隊が慌ただしく動き始めた。


ディアバスはペルラを見た。


ペルラは瞬きもせず、燃える油田を見つめていた。

揺れる赤い光が、その頬をかすかに照らしていた。

涙が止まっていた。


「ペルラ」


返事はなかった。


「見るな」


ディアバスはペルラの顔を自分の胸元へ向けた。


また低い音が響いた。


「ここから出よう」


ディアバスはペルラを抱き上げた。

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