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Scrambled Egg  作者: 読まれる前提
《たまごの殻》

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33章 《BLACKOUT》

証拠は、真実を証明するものだと思っていた。


残された記録が、事実を語り、

それを見れば誰もが同じ結論に辿り着くと。


だが、この場所では違う。


証拠は消える。

改ざんされる。

そして、最初から存在しなかったことにされる。


残るのは、真実ではない。


残せるだけの力を持った者の意思だけだ。

昨夜は、泣きすぎた。


鏡の中の目は、まだ少し腫れている。


久しぶりに、一人で眠った。


部屋は静かだった。


隣にいるはずの人は、もういない。


悠輝は――いない。


胸の奥が少しだけ痛む。


それでも、莉花はゆっくり息を吐いた。


負けない。


勝つ。


すべてを終わらせて。


それから――


悠輝にも、許してもらう。



日山ホールディングス役員会議。


当日、百四十三名[委任状五十八名]の役員が入った大会議場は、ざわついていた。


ざわめきは声にならず、低く重く、天井の高い空間に滞留している。


名を呼ぶ声も、笑い声もない。


代わりに、視線だけが忙しく行き交っていた。


「……本当らしいな」


「会長、勇退だって」


「今日、正式発表か?」


噂は断片的で、どれも確証がない。


だが、誰もが同じ一点を見ていた。


――会長の椅子。


名誉職とはいえ、

そこは日山ホールディングスにおける最高位。


その不在は、権力の空白を意味する。


莉花は静かに席に着いていた。


背筋は伸び、表情も変わらない。


心の中だけが、静かに燃えていた。



定刻。


「それでは、定刻となりましたので

日山ホールディングス役員会を開始します」


役員会は、淡々と始まった。


まず告げられたのは本日の最重要議題。


日山ホールディングス会長

藤堂高虎の勇退。


続いて人事。


会長の指名、役員了承により


西條慎一

日山ホールディングス社長に就任。


そして――


藤堂高雄。


日山商事社長へ推薦。


拍手は控えめだった。


だが票は固まっている。


――裏金ルートで。


高虎は最後にもう一度口を開いた。


「もう一つ、決めておきたいことがある」


会議場が静まる。


「日山ホールディングス特別対策室」


「その室長を、藤堂莉花に任せる」


小さなどよめきが走る。


高虎は続ける。


「特別対策室の下に

各子会社の監査役を常設する」


「各子会社社長は事業方針を提案し

日山ホールディングス役員会議にて議決、実行する」


誰かが眉をひそめる。


「行政は、この役員会だ」


「力は分けるが

責任は分散させない」


莉花は理解していた。


不十分だ。


それでも。


一人に権力を集めるよりは

まだ未来が残る。


莉花は、ゆっくり立ち上がった。


——椅子のきしむ音だけが、やけに大きく響いた。


誰も、すぐには口を開かない。


視線が、一斉に集まる。


莉花は、その中心で、静かに言った。


「特別対策室 室長に任命されました、藤堂莉花です」


(拍手)


「着任早々ですが――」

「一点、報告があります」


「日山商事における不正の証拠を提示します」


会議場の空気が変わる。


「これは、藤堂高雄社長と、

逮捕された野崎副社長のやり取りです」


ざわめきが広がる。


莉花は端末を接続した。


次の瞬間――


正面の大型モニターにメールが映し出された。



件名:例の件について

差出人:藤堂 高雄

宛先:野崎 副社長


倉橋の動きが不穏です。

内通の形跡については、すでに確認済みです。


荒木を「処分した」という判断についても、

個人の裁量なのか

それとも組織としての関与があったのか。


記録を洗えば、いずれ明らかになるでしょう。


藤堂



会議場がざわめく。


だが画面は止まらない。


次のメール。



件名:確認

差出人:吉野

宛先:野崎


私を使ったことをすべて公開します。

証拠は残しています。


もう疲れました。

これで終わりにしましょう。


吉野



三通目。



件名:共有

差出人:倉橋

宛先:野崎


荒木の件についても

当時の判断経緯が整理されないまま

一人歩きしている印象を受けています。


今は余計な誤解を広げるべきではない。


倉橋



誰かが息を呑む。


その瞬間だった。


画面が揺れる。


文字が歪む。


そして――


ブラックアウト。


光が、消えた。


数秒後。


何事もなかったかのように

議題画面へ戻る。


サーバー上の証拠は消えていた。


完全に。


最初から存在しなかったかのように。


会議場は沈黙した。


その中心で。


藤堂高雄がゆっくり立ち上がった。


「おまえだったのか」

低い声だった。


「……」


「だが残念だったな」


会議場を見渡す。


「証拠というものは」


「……」


「残らなければ意味がない」


ざわめきが広がる。


その背後で。


黒いスーツの女が一歩前に出た。


その指が、まだタブレットから離れていなかった。


無表情。


冷たい目。


莉花の呼吸が止まる。


「……紗希?」


莉花の脳裏に

シンディーの言葉が蘇る。


――掃除屋。


莉花の声が震えた。


「……なんで」


「紗希が」


一歩、前に出る。


「掃除屋?」


沈黙。


紗希は何も言わない。


莉花の目が変わる。


「……そう」


低く吐き出す。


「全部あんたが消したのね」


さらに一歩近づく。


「ずっと」


「味方のふりして」


声が震える。


「私の隣にいたの?」


一拍。


そして吐き捨てた。


「最低」


沈黙。


紗希は答えない。


ただ、


藤堂高雄の半歩後ろに立つ。


完全に。


敵として。


その瞬間。


莉花の頭の中で、何かが切れた。


「……お父さん」


会議場が静まる。


莉花は高雄を見た。


真っ直ぐに。


「あなたは」


「ここまでやるのね」


高雄は微笑む。


「ビジネスだ」


「家族だろうと

例外はない」


「それだけだ」


莉花の拳が震える。


「紗希まで使って?」


高雄は肩をすくめた。


「才能は使うものだ」


沈黙。


莉花はゆっくり息を吸う。


そして言った。


「わかった」


静かな声だった。


「もういい」


高雄を見据える。


「藤堂高雄」


視線が紗希へ向く。


「紗希」


「……」


「二人とも」


「私が倒す」


会議場の空気が凍った。


高雄は楽しそうに笑う。


「面白い」


「やってみろ」


莉花は目を逸らさない。


低く言う。


「やるわ」


「……」


「必ず」



私は――


負けない。


どんな手を使っても、

あなたを

倒す。


この瞬間、

私の中で何かが壊れた。


いや――


正しくは、

最初から壊れていたものに、

ようやく気づいただけかもしれない。


世界は、最初からこうだった。


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