65:究極!師弟の涙と愛
「バカ弟子がああああ!!! 文学の意味もわからぬ愚か者よぉおお!!!」
ドフトエフスキーの怒声が、夜のペテルブルグに響き渡る。
……え? 俺、いつからコイツの弟子になった??????
その瞬間、脳裏に “ありもしない記憶” が流れ込んできた。
――俺とドフトエフスキーの修行の日々。
ちょっと待て、そんなのあったっけ???
いや、あるわけがない。
いや、でも……確かにあったような気がする……?????
違う、そんなはずはない!
でも……思い出せる!!!
あの冬の日、ペテルブルグの吹雪の中――
「お前にロシア文学の拳を叩き込んでやる」
ドフトエフスキーがそう言ったのは、俺がペテルブルグに来たばかりの頃だった。
「いや、俺、柔道とロシア語を鍛えに……」
「バカ弟子があああ!!! そんな浅薄な考えでナスターシャ・フィリポヴナを救えると思うな!!!」
ドゴォ!!!!!!!!
ドフトエフスキーの拳が俺の鳩尾にめり込む。
「ぐふっ!!! い、いった……!!!」
俺は吹っ飛び、雪の中に倒れ込んだ。
「まずは貴様に、“絶望の書”を授けよう」
そう言ってドフトエフスキーが俺に投げつけたのは、分厚いハードカバーの本――『カラマーゾフの兄弟』。
「読め」
「分厚すぎるんですけど!!!???」
「読め!!! 魂を込めて読め!!!!!」
「うぅ……」
俺は震える手でページをめくった。
修行はそこから始まった。
【地獄の修行メニュー】
・夜な夜なロシア文学を読まされる(分厚い! 長い! 難しい!)
・意味のわからない哲学を延々と叩き込まれる(悪魔は存在するのか? 知るか!)
・拳で語れとか言われて、正拳突きを何千回もやらされる(いや、文学どこいった!?)
・泣きながら**『悪霊』**を音読(長すぎる!)
・ひたすらドフトエフスキーに投げられ続ける日々(これもう修行じゃなくてただの虐待では?)
しかし――
そんな地獄のような日々の中にも、不思議と温かい時間があった。
雪の降る夜、二人で屋台のピロシキを分け合ったこともある。
「お前がここに来た理由を、俺はまだ認めたわけではない」
そう言いながら、ドフトエフスキーは熱々のピロシキを俺に手渡した。
「でも……お前がナスターシャ・フィリポヴナを救おうとする気持ち、それだけは理解できる」
あの時の、ドフトエフスキーの横顔は、なぜか寂しそうだった。
ある日、俺が『白痴』を読み終わり、泣いていたとき――
「……」
彼は何も言わずに、そっと酒を注いでくれた。
「お前がどういう結末を望もうが、お前の自由だ」
「師匠……」
「だが、その結末を生み出せるだけの力があるのか?」
「……わからない」
「ならば、鍛えろ」
そんな日々を、俺たちは共に過ごしたんだ――!!!
俺は今、目の前で拳を構えるドフトエフスキーを見つめる。
(……なんか、すごい修行してた気がする……)
「覚悟しろ、バカ弟子がああああああ!!!!!」
「いくぞ、師匠おぉおおおおおおおおおお!!!!!!」




