63:ナスターシャ・フィリポヴナ死す?
「……タカシ」
ケンジが、 真剣な表情 で俺を見つめる。
「……どうした?」
俺は、まだ虎と戦った余韻が残る体で、荒い息を吐きながら彼を見た。
「……お前、気づいてるか?」
「何がだ?」
ケンジは、静かに言った。
「原作の時間軸に戻ってる」
「………………!!」
「つまり――」
「………………まさか!!!」
ケンジは 頷いた。
「今日、ナスターシャ・フィリポヴナは、ロゴージンに殺される。」
「な、なにぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」
俺は、 全身が震えた。
(そんなこと、絶対にさせるか!!!!!!!!!!)
「俺は行く!!!!!」
俺は、 庭を飛び出そうとした。
「待て、タカシ!!!!」
将軍の声が響く。
「何か着ていけ!!!!!」
「そんな時間はない!!!!!」
俺は、 まだボロボロの道着のまま、靴も履いていない。
しかし、構わない。
――その時だった。
「これを持っていきなさい!!」
「…………?」
振り返ると、エパンチン夫人が おにぎり を差し出してきた。
「お腹がすいて倒れたら元も子もないでしょう」
「……夫人!!!!!」
俺は 感動して おにぎりを受け取った。
アグラーヤが火打ち石をカチカチやっている。
「えっと……?」
俺は思わず戸惑った。
(待て待て待て、江戸の風習か!?なぜ19世紀ロシア貴族がこんなことを……!?)
だが、突っ込んでいる暇はない。
「無事を祈ってるのよ」
アグラーヤが何気なく言う。
「出陣する者には、厄を払って送り出すものよ」
「……いや、江戸じゃなくて???」
「気にしないで」
アグラーヤは微笑む。
「あなたの旅立ちを見送るのは、これが最後かもしれないもの」
「………………」
火打ち石の音が響く。
カチ、カチ……
俺は拳を握りしめた。
目指すは――ロゴージンの屋敷!!!!!!!!!!!!
「ナスターシャ・フィリポヴナアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」




