48:無敵!ロシア文学流・悲劇的構造投げ
俺は、確かに叫んでいた。
「ナスターシャ・フィリポヴナを救う!!!!!」
だが――
次の瞬間、俺は宙を舞っていた。
「ロシア文学流・悲劇的構造投げ(Трагическая структура бросок)!!!!!!」
ドフトエフスキーの声が響く。視界が回転する。
――何が起こった???????????
地面が遠ざかり、
次の瞬間、俺の背中が石畳に叩きつけられた。
「ぐああああああ!!!!!!!」
衝撃が全身を駆け巡る。
くそっ!! 俺が……投げられた?????
ま、まさか――
……そう、俺はドフトエフスキーに投げられていたのだ。
ロシア文学の巨人が、俺を見下ろしている。
長いコートを翻しながら、
まるで運命の支配者のように立っていた。
「ふむ、君の投げはなかなか見事だったが――」
「私はロシア文学の神髄を極めた男。
投げられぬわけがない」
「そして、君は今、文学の力を思い知るのだ」
「ロシア文学流・悲劇的叙述連撃(Трагическое повествование шквал)!!!!!!」
(何だその技名は!!!!!!!!!???????)
――ズバババババババ!!!!!!!!!!!
無数の拳が俺を襲う!!!!
「ぐおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
俺は成す術なく、ボコボコにされる!!!
右から、左から、
ドフトエフスキーの“悲劇”が俺を殴りつける!!!
「うあああああ!い、痛い! 痛いぞぉぉぉ!!!!!」
ロゴージン:「……」
ナスターシャ・フィリポヴナ:「……」
野次馬:「……」
誰も助けてくれない!!!!!!
「ロシア文学流・運命無常蹴り(Бессмысленный и беспощадный пинок)!!!!!!」
「ぐあああああああああああ!!!!!!!」
俺は蹴られ、宙を舞う。
そして、またペテルブルクの石畳に叩きつけられた。
バタン。
俺は……負けた。
つ、強すぎる……!!!
この男……
フョードル・ミハイロヴィチ・ドフトエフスキー
「……見たかね?」
ドフトエフスキーは、コートを翻しながら俺を見下ろす。
「文学とは、力だ」
「ペンは剣よりも強しとは、昔から言われる言葉」
「だが、それは何も比喩ではない」
「私は、この筆で世界を作り、この言葉で運命を操る」
「そして――君の存在が、その秩序を歪めているのだ」
ドフトエフスキーは、
俺の足元に転がったナスターシャ・フィリポヴナを、
まるで舞台の配役を決めるかのように見下ろし、
ゆっくりとロゴージンの方を向いた。
「さあ、お前に返そう」
「お前は、公爵とナスターシャを争うのだ」
「それが、この物語の定めだからな」
ロゴージンの目が、ゆらりと揺れる。
ナスターシャ・フィリポヴナの顔が青ざめる。
「……な、なんだと……?」
俺は、血を吐きながら地面に手をついた。
「ちょ、ちょっと待て……
ナスターシャ・フィリポヴナは、もう俺の……!!!」
「違う」
ドフトエフスキーは、静かに俺を見た。
その瞳には、
すべての運命を見通す神のごとき威厳があった。
「君は、何者だ?」
俺は――
何者だ?
俺は、公爵か?
俺は、ロゴージンか?
俺は、トーツキイか?
違う。
俺は――
「俺は……海山商事の……山田タカシ……」
「そうだ」
ドフトエフスキーは、静かに言った。
「つまり、君は、この物語の登場人物ではない。」
「だから――」
「ここにいるべきではない」
ドフトエフスキーの言葉が、静かに響いた。
その声には、揺るぎない確信と、
まるで世界の摂理そのものを
語るかのような重みがあった。
俺は、歯を食いしばる。
「……それでも!!!」
俺は、ナスターシャ・フィリポヴナの手を取り戻すため、最後の力を振り絞って駆け出した!!!
「ナナスターシャ・フィリポヴナァァァァァァ!」
俺の叫びが、ペテルブルグの冷たい夜空に響く。
あと少し――俺の手が、彼女に届く――!!!
だが、その瞬間だった。
「ロシア文学流・無慈悲なる神の審判(Безжалостный Суд Божий)!!!!!!」
――ゴォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!
何かが、世界を揺るがした。
「ぐああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
俺の体が宙を舞った。
(な……なにが……!?)
目の前が真っ白になる。
何か見えない力に捕らえられ、全身が悲鳴を上げる。
次の瞬間――
ズドォォォォォォン!!!!!!!!!!!!
俺の体は、また石畳に叩きつけられた。
「がはっ……!!!!」
喉の奥から、熱いものが込み上げる。血だった。
血を吐いた。
視界が歪む。
「これが……ロシア文学の絶対法則だ」
ドフトエフスキーが、冷然と俺を見下ろしていた。
「君は、物語に逆らうことはできない。
世界は、既に決まっているのだから」
俺は、朦朧とする意識の中で、
それでもナスターシャ・フィリポヴナに
手を伸ばそうとする。
だが――
俺の目の前で、ナスターシャ・フィリポヴナが――
呆れた顔をしていた。
「……もう、いいわ」
その声は、あまりにも淡々としていた。
俺は、信じられなかった。
だが、ナスターシャ・フィリポヴナは
俺を振り返ることなく――
ロゴージンの手を取り、
ゆっくりと屋敷の中へと入っていった。
「ま……待て……」
俺の声は、かすれた囁きになっていた。
「ナスターシャ・フィリポヴナ……!!!」
俺の腕が、震えながら彼女に伸びる。
だが、扉が閉じられる。
ペテルブルグの冷たい夜風だけが、俺の頬を打つ。
俺は――
血にまみれ、地面に倒れたまま、
ただ、閉ざされた扉を見つめていた。




