47:俺は『戦国自衛隊』で歴史の理を学ぶ
「……君がいるからだよ」
その言葉が耳に入った瞬間、
好き俺の思考は一気に凍りついた。
俺が、いるから?
俺が、ここにいるせいで、
ドフトエフスキーが、ここに?
その瞬間、すべてが繋がった。
そうか……そういうことか。
俺はゆっくりと目を閉じる。
そして――理解した。
「……これが、歴史の修正力か」
そうだ。俺は昔、映画『戦国自衛隊』でこれを見た。
【映画『戦国自衛隊』――歴史の修正力とは】
1979年――日本映画史に刻まれるSF時代劇映画、
『戦国自衛隊』。
俺は大学時代、深夜の映画特集で何度も見た。
物語はこうだ。
現代の自衛隊員たちが、
突如、戦国時代へとタイムスリップする。
彼らは戦車やヘリ、現代兵器を駆使して、
戦国の世を蹂躙する。
戦国武将すら相手にならない、圧倒的な火力――。
だが……彼らがどれだけ歴史を変えようとしても、
どれだけ未来の知識と武力で戦おうとも――
最終的に、“歴史の修正力”が働くのだ。
次第に、彼らの武器は弾を尽き、燃料を失い、
現代の戦闘技術は通じなくなり、
やがて自衛隊員たちは、戦国の乱世の中で消えていく。
そう――彼らは結局何も変えられなかった。
これは単なるフィクションではない。
歴史とは、変えられないものなのだ。
どれだけ未来人が介入しようとも、
どれだけ知識や力があろうとも、
その存在は次第に歪みを生じ、
最終的には“元の歴史”に収束するようにできている。
これは『戦国自衛隊』だけじゃない。
『ターミネーター』も、
『シュタインズ・ゲート』も――
あらゆるSF作品が、この“歴史の修正力”という法則を
語っている。
唯一『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だけは
「歴史の修正力に抗う」側の物語だった。
考えてみれば、マーティは過去を変えて、
未来の状況を改善しようと奔走した。
最初は歴史がズレて「マーティが消滅しかける」危機が訪れるが、最終的には歴史を書き換え、
ビフを転落させ、
マーティの家族を幸福な未来へと導いた。
つまり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は
「歴史の修正力に逆らっても改変は可能」な作品なのだ。
俺の目指すものに近い……かもしれない。
だが、歴史改変ものの多くは、そう簡単にはいかない。
『ターミネーター』では、未来を変えようとする人間たちが機械との戦いを続けるが、結局のところ「審判の日」は回避されない。
『シュタインズ・ゲート』では、岡部がいくつもの世界線を巡りながら、過去の修正を試みるが、修正を繰り返すほどに新たな歪みが生じる。
そして、『戦国自衛隊』では、どれだけ現代兵器を持ち込もうとも、最終的には戦国時代の流れに取り込まれてしまう。
そう、歴史の修正力とは、
まるで「物語の運命」のように働くものだ。
俺がいま抗っているもの、それはまさにこの
「物語として決められた歴史」
ナスターシャ・フィリポヴナが悲劇のヒロインとして
死ぬ未来そのもの。
目の前には、
フョードル・ミハイロヴィチ・ドフトエフスキー。
ロシア文学の巨人。
そして、まぎれもなく、この世界の“神”のような存在。
そうか。俺がここに来たことで、この世界が歪み始めた。
俺は公爵を投げ、
ロゴージンを投げ、
トーツキイを投げ、
エパンチン家で居候し、
ナスターシャ・フィリポヴナを救おうとしてきた。
だが、それは“原作”にはなかったことだ。俺の存在が、この世界の物語を狂わせてしまった。
ならば――
世界は修正しようとする。
その歪みを正すために、この世界の創造主が現れたのだ。
それが――ドフトエフスキー。
「……気付いたようだね?」
ドフトエフスキーは、静かに微笑んだ。
俺は、ぎりっと奥歯を噛みしめる。
「……つまり、お前は、俺を消しに来たのか?」
「いいや」
「……は?」
「私は、ただ、この世界を“正す”ために来た」
ドフトエフスキーは、まるで天啓を告げる聖人のような穏やかな口調で言った。
「君がここに現れたことは、すでにこの世界の歴史にとって異常事態だった」
「本来、ナスターシャ・フィリポヴナは、ロゴージンと共に、あの運命を迎えるはずだった」
「それを君は変えてしまった」
俺の背筋が凍る。
そうだ。
俺は、すでに原作を変えてしまった。
ナスターシャ・フィリポヴナは、俺の腕の中にいる。
公爵は投げ飛ばした。ロゴージンも投げ飛ばした。
物語は、すでに違う道を歩み始めている。
「君は、このまま世界を変えようとしている」
「だが――それは、許されることなのか?」
俺は、ナスターシャ・フィリポヴナをぎゅっと抱き寄せる。
ナスターシャ・フィリポヴナは、
俺の胸に顔を埋めながら、かすかに震えていた。
俺は、ドフトエフスキーを見据える。
「……俺は、ナスターシャ・フィリポヴナを救う」
「歴史がどうなろうと、世界がどう歪もうと、たとえこの世界が俺を拒絶しようとも――」
俺は、力強く言い放つ。
「俺は、ナスターシャ・フィリポヴナを救う!!!」
俺は拳を握りしめた。
俺の戦いは、まだ終わっていない――!!!
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は
可能なのだ!!!!!
ドフトエフスキーは――
微笑んだ。
そして、ゆっくりと、こう言った。
「……ならば、試すがいい」
その瞬間、世界が揺れた。




