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46:謎の男。その名はフョードル

ペテルブルクの街角。


夜の闇が湿った霧を纏いながら広がる中、

俺は息を切らせながら駆けていた。


この数カ月で、何度繰り返しただろうか。

そして、行き先は決まっている。


今日は、おそらくロゴージンの屋敷。


あの狂気じみた男が、この世界で唯一、

ナスターシャを俺と同じくらい愛している男が、

またしても彼女を奪い去ろうとしている。


ここ数カ月の間、

俺は何度もロゴージンの屋敷のドアを蹴破っている。


そして、ロゴージンを投げ、

ナスターシャ・フィリポヴナを取り戻しているのだ。


と、今日は今まさに二人で

門をくぐろうとしているところを見つける。

ちゃっかり、手を繋いでいる!!!!!


許せん!!!!!


「ロゴージィィィィィィィィィィィン!!!!!!」


俺がロゴージンの襟を捉える。


ロゴージンは巨体を揺らしながら、石畳に倒れ込んだ。


ナスターシャ・フィリポヴナの腕を強く掴んでいた手が、ゆっくりと離れる。



ナスターシャ・フィリポヴナが

この世の不幸をすべて背負ったような顔をしている。

構わない。


それでも、俺はナスターシャ・フィリポヴナを救わねばならぬ、


いつものように、彼女を引き寄せる。


しかし――

今日は違った。


「……さて、そろそろよろしいかな?」


その声は、異様に穏やかだった。


俺は反射的に振り向く。そこには――


黒いコートを纏い、

シルクハットを被った異様な雰囲気を放つ男が

立っていた。


「……誰だ、お前は?」


「おやおや、これはまた乱暴なことをなさる。

あまり文学的ではないな、タカシ・ヤマダ君」 


「……は?」


ロゴージンすら起き上がることができずにいる中、

この男だけが、

まるで舞台の幕が開くのを待っていたかのように、

優雅に立っていた。


「自己紹介をしよう」


男は、軽く帽子のつばを持ち上げ、微笑んだ。


「私は――

フョードル・ミハイロヴィチ・ドフトエフスキー」


「…………」

「……………………」


「は?????????????????????」


「いやいやいやいやいやいやいや」


俺は、あまりの衝撃に、一瞬、思考が止まった。


いや、待て。


フョードル・ミハイロヴィチ・ドフトエフスキー???


あの、『白痴』を書いた、あの、ロシア文学の巨人、

あの……


「いや、なんで本人がいるんだ」

「ふむ。予想通りの反応だな」

「いや、予想するな」


俺は頭を抱えた。

いや、もう、情報量が多すぎる。


ロゴージン投げ飛ばしたり、ナスターシャを助けたりするのは、ある意味慣れた。


しかし……


「なんでお前が現れるんだ????」

「……君がいるからだよ」


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