42:エパンチン家、朝から大激怒
【第十五章】その夜、何があったのか
――翌朝。
俺は、清々しい気分で目を覚ました。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、
窓の外では小鳥がさえずっている。
(よし……やったぞ……!!)
ナスターシャ・フィリポヴナの破滅願望を正面から受け止め、
全力でぶつかり、全力で叫び、全力で抱きしめた。
――キスより先には、何もしていない。
だが、それで十分だった。
肉欲なんかどうでもいい。
この胸の奥に残った熱こそが、本当の「夜の証明」だ。
(……でも、叫びすぎたかもしれん)
俺とナスターシャの絶叫――
「お前を救う!!」
「私は破滅するの!!」
「させるかあああああああ!!!」
「燃え尽きたいのおおおお!!!」
が、何時間も繰り返されていたような気がする。
「……ふぅぅぅ……朝日が眩しい……」
俺は幸せな気持ちで着替え、堂々とダイニングへと向かう。
そして――
「おはようございま――」
……空気が、刺さった。
そこには、エパンチン夫人と三姉妹。
全員、全力で俺を睨んでいる。
「!?」
「ちょ、ちょっと待て待て待て!!!」
アグラーヤ:「待つも何も!!!」
アデライーダ:「昨夜の声、館中に響き渡ってたのよ!!!! 愛してるだの、燃えるだの、抱きしめるだの!!!」
アレクサンドラ:「私たち、寝不足なのよ!!!!」
エパンチン夫人:「お客様の身でありながら、何をしているのかしら!!!!」
(まじか!!!! そんなに!?!?!?)
「い、いや、でも、俺たち、夫婦だから!!!!!」
アグラーヤ:「夫婦でも限度ってものがあるのよ!!!!」
アデライーダ:「あなたたちのせいで、この家の貞操観念が完全に崩壊しそうよ!!!!」
「いや、ナスターシャ・フィリポヴナが――」
「ちょっと、それ、私のせいにしないでくれる?」
いつの間にか後ろに立っていたナスターシャ・フィリポヴナが、
完璧な無表情でピシャリと入れてきた。
(おいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!)
エパンチン夫人の怒りはもはや止まらない。
「あなた!! 本当に主人に後見人を頼んだの!?」
「いや……それは、頼んだというか……流れで……」
「もういいわ!!!!」
夫人の目がギラリと光る。
「今日からこの家で、慎ましく生活なさい!!!!!」
「し、慎ましく……??」
「このままでは、私たちがロシアの社交界で笑い者になるのよ!!!」
「と、とにかく!! 夜は!! もっと静かに!!!!」
「声を抑えるのよ!!!!!!!」
「は、はい……」
ナスターシャ・フィリポヴナが、隣で小さく笑った。
「……けど、叫んだのはほとんど、あなたでしょ?」
「ぐぅ……!!!」
(俺とナスターシャの新婚生活、 前途多難すぎる!!!!!!)




