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28:俺は投げることでしか語れない男だ

会場の静寂を破るように


ナスターシャ・フィリポヴナが口を開いた。


その声は、冷たく、どこか呆れを含んでいた。


「……いや、あんた誰?」


――うわああああああああ!!!!


俺の中で、何かが弾け飛んだ。


この瞬間、今までの壮大な計画、努力、決意が、一瞬にして霧散する。


ナスターシャ・フィリポヴナが俺を知らない。


当たり前だ。なぜなら、俺はこの世界の住人ではない。

原作にも登場していない。

そもそも、この世界に突然現れた謎の男なのだ。


「……いや、えっと……」


言葉が詰まる。頭が真っ白になる。


周囲の貴族たちの視線が突き刺さる。


ムイシュキン(多分)はまだ床に転がっている。

ロゴージン(多分)も呻きながら体を起こしている。

トーツキイ(多分)は気絶している。


……完全にカオスな状況だ。


俺は、ナスターシャを見つめる。


彼女は、相変わらず美しく、儚く、そして、俺に対して完全に警戒していた。

このままではマズい。


俺は、必死に言葉を探し――


「俺は……その……ナスターシャ・フィリポヴナを救うために来た者だ!!!」


俺の叫びが、夜会の会場に響き渡る。

ナスターシャ・フィリポヴナは、驚いたように目を見開く。


(よし、少しは動揺させたか!?)


しかし――

次の瞬間、彼女はフッと笑った。


その笑みには、侮蔑と諦めが混じっていた。


「……ふふっ。まるで、公爵みたいね」


心臓が止まるかと思った。


(ムイシュキン扱い……!?)


だが、それもそうだ。

俺はナスターシャの前で、意味不明な暴れ方をし、彼女を救うなどと叫んでいる。


(……いや、待て)


ここで動揺している場合じゃない。俺は、彼女に認められなければならない。


俺は、ナスターシャ・フィリポヴナの前に一歩踏み出し、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて言った。


「俺は公爵じゃない」

「お前を救うのは、俺だ!!!」


夜会の会場が、再び静まり返った――!!!


ダメだ。


俺は、言葉では彼女に伝えられない。

ロシア語を学び続けたとはいえ、所詮は後天的な習得。

俺がどれだけ努力しようとも、俺のロシア語は、ナスターシャの心を震わせることはできない。


母国語の壁は、超えられない。


ならば――

俺の態度で示すしかない!!!!


(どうやって!?)


焦るな。俺は、これまでの経験を振り返れ。


そう、クレムリンで。

あのスキンヘッドの強いヤツ(誰だか知らない)と、

俺は言葉を超えて心で語り合ったではないか!!

ならば、今ここでも――


俺は、ナスターシャ・フィリポヴナと、魂で会話する!!


その手段はただ一つ――!!!


俺は、静かに息を吸い、両手を構えた。


そして――

ナスターシャ・フィリポヴナを投げる!!!!!!


決死の一本背負い!!!


会場がどよめく。


ナスターシャ・フィリポヴナが一瞬、目を見開いた。


だが、その次の瞬間――

俺の腕が、彼女の華奢な身体を掴んだ!!!


(……軽い!!!)


貴族たちの悲鳴が響き渡る。


「キャアアアアアア!!!」

「な、何をするの!??」

「……また、投げた!!!?」


俺は、迷わなかった。


――クレムリンでの死闘、

――ロシアの寒風に鍛えたこの身体、

――すべては、ナスターシャ・フィリポヴナを救うため!!!


全身全霊を込めて、彼女を一本背負い!!!!


ズシャアアアアアアアアアッ!!!!


ナスターシャ・フィリポヴナの優雅なドレスが、宙を舞い、そして美しい弧を描き――

床に柔らかく着地!!!!


……しなかった。


ドサァッ!!!!


「……っっっっ!!!」


ナスターシャが、倒れた。


会場が、一瞬、完全な静寂に包まれる。


俺は、息を切らしながら、彼女を見下ろした。


床に倒れたナスターシャ・フィリポヴナが、ゆっくりと顔を上げる。


俺を見つめる彼女の瞳。


そこには――

これまで見たこともないほどの、強烈な怒りが宿っていた。


(……やっちまった!?)


次の瞬間――

ナスターシャ・フィリポヴナは立ち上がり、俺の顔面めがけて思い切りビンタを叩き込んできた!!!!


バチィィィィィィンッッッッ!!!!


「……お前、正気なの!?!?」


俺の脳が揺れた。俺の魂が、震えた。


しかし――

俺は、確信した。


(……通じた!!!!!!)


ナスターシャ・フィリポヴナとの、魂の対話は成立したのだ!!!!!!!


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