21:異世界転生の準備をする
俺は、
ナスターシャ・フィリポヴナのいる世界に行く
と決意した。
しかし――
どうやって行くのか?
それが、最大の問題だった。
俺はチフヴィン墓地を後にし
ペテルブルクの駅へ向かった。
夜行列車に揺られ、再びモスクワへ。
そして、空港から飛行機に乗り、北京を経由し、日本へ帰国した。
再び、日本での生活が始まる。
俺は、文房具を売る仕事に戻った。
朝起き、満員電車に揺られ、会社に行き、仕事をし、家に帰る。
だが、俺の心はすでに日本にはなかった。
俺は、ナスターシャ・フィリポヴナのいる世界へ行かねばならないのだ。
俺は、新たな学習を始めた。
それは――
「異世界転生」についての研究だ。
俺はネットを漁り、なろう系小説を読み漁った。
『俺、異世界でチートスキルを手に入れた!』
『転生したら最強魔王だった件』
『追放された俺、実は伝説の勇者だった』
『異世界に飛ばされた俺が、ハーレム王になるまで』
様々な異世界転生・転移ものを片っ端から読んだ。
転生には、いくつかのパターンがあることが分かった。
・転生型 → 事故や病気で死んで、異世界で赤ん坊からやり直す
・転移型 → ある日突然、異世界に召喚される
・憑依型 → 既存のキャラやモンスターの体に入り込む
そして、異世界転生者には共通点がある。
・異世界に行くと、だいたいチート能力を持つ
・現実世界の知識で無双する
・ハーレムを築く(←これはどうでもいい)
・現実世界には戻らない
(……なるほど)
俺は、異世界転生の理論を深く研究していくうちに、ある確信に至った。
(異世界というものは、確実に存在する)
なぜなら、これほど多くの作品が異世界転生を描いているのだ。
こんなにも膨大な異世界転生の話が書かれているのなら――
「一つくらい、本当に異世界へ行った話があるはずだ」
俺は、異世界に行くための方法を探ることを決意した。
とにかく、学ぶ。
ナスターシャ・フィリポヴナのいる世界へ行くために――!!!
俺は、異世界転生の方法を徹底的に研究した。
そして、わかったことがある。
「善行を積んでいると、異世界に転生する確率が上がる」
……ならば、俺は問題ない。
・昔から、電車では老人に席を譲っている。
・年末には、赤い羽根共同募金を見かけたら必ず小銭を入れる。
(これでクリアだ)
異世界転生を果たす資格は、すでに俺の中にある。
あとは、転生した際にナスターシャの世界へ行くことを明確に指定しなければならない。
最近の異世界転生は「気がついたら転生していた」パターンが主流。
以前はトラックに轢かれるのが一般的だったが、
どうも運送業界からのクレームで減少しているようだ。
ならば――
俺は、ただ願い続ければいい。
「ナスターシャ・フィリポヴナのいる世界へ転生させてください!」
毎晩寝る前に、俺はこれを心の中で唱えた。
異世界転生ものでは、たいてい神や女神が現れ、
「チート能力を与えましょう」
とかなんとか言ってくる。
しかし、俺はチートなどいらない。
「俺は、俺の才覚でナスターシャを救う!」
そうでなければ、ナスターシャ・フィリポヴナはこう言うだろう。
「……なにそれ、ダサい」
いや、それだけでは済まない。
「チート? そんなものに頼って私を救うつもり?」
「本当に私を愛しているなら、自力でどうにかしてみせなさい」
「それができないなら、死んで」
ぐらいは平気で言うだろう。
俺は、そんな言葉を浴びる未来を想像し、全身を震わせた。
そう、俺は、己の力のみで戦うしかない。
だいたい、準備は万端だった。
・ロシア語は、なんとかマスターした。
(例文が不安なのは気のせいだ)
・ロシアの歴史も、専門書で叩き込んだ。
(キエフ大公国の公位継承の順序まで覚えてるし、ウラジーミル・モノマフの子供たちが何をやらかしたかも把握してる。ジョチ・ウルスの歴代ハンもいえる)
・柔道も習得した。
(ナスターシャを守るための力は必要だ)
・ドフトエフスキーの作品も読み込んだ。
(というか、俺の人生はすでに彼の掌の上にある)
これで、だいたい計画はまとまった。
あとは、転生の準備を整えるだけだ。
そして、俺は身辺整理を開始した。
異世界に旅立つ前に、現世の整理をする必要がある。
・ネットで見つけた退職代行の会社に依頼する
・両親に感謝の手紙を書く
・家財道具を整理する
・部屋の不要品を捨てる
俺は、慎重に身の回りを片付けていった。
――準備は万端。
これで、いつ異世界転生が始まっても大丈夫だ。
あとは、ただ待つだけ。
気がついたら、ナスターシャ・フィリポヴナのいる世界へ――!!!




