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天邪鬼な君に  作者: 森 彗子
17/18

天邪鬼な君に 5

*-*-* 燿馬 *-*-*


背徳感が混じった初めてのキスは、複雑だけど確かに幸せな気持ちを連れてきた。




全身の血がたぎる。

頭がぼうっとする。



愛しくて。



血縁なんてどうでもよくなる。




もう一度ひとつになりたい。



そんな願望が浮かんで、身体は臨戦態勢に入っていく。




*-*-* 恵鈴 *-*-*


柔らかくて熱い燿馬の唇に触れた途端、身体の力が抜けていくようだった。


何も考えないで

ただ、この幸せを味わわせて…。



時がまた私達を引き裂こうとする前に、

永遠に忘れられない初めてのキスを記憶に刻みたくて。



どんどん、欲張りになっていく。

それはお互いに、同じ速さで、同じだけ強く…。



もっと、もっと、燿馬を感じたい。



もっと、もっと、強く激しく燿馬と感じ合いたい。



ひとつになって、溶けたい…!!




*-*-* 燿馬 *-*-*


開いた手を、指を絡めて握り合う。



唇を重ねるだけのキスが、薄く開いたところに舌を差し込んでいくと、怯えた分身を見つけて俺は抱きしめるように絡めとった。



「んん…」



恵鈴の苦しそうな声が、俺の目を開かせる。



だけどすぐに瞼が圧し掛かってきて、俺は恵鈴をゆっくりとソファに連れて行った。



どうしておふくろは止めてくれないんだろう?



俺を信じているからだ。



わかってる。




解ってる。





わかってるよ!!




目を覚ませ!!!




広がる髪と、見上げて来るあどけない恵鈴が可愛くて見惚れた。

なんで、こんなに好きなんだろう?


そう思ったら、涙が出てくる。



恵鈴が俺の涙を指先で拭こうとしながら、自分が泣き出した。



俺達はこんなにも近くにいてものすごく遠いところにいるから。




寂しいんだ。




寂しさが全身の細胞に染みだした。



掻きむしりたくなるほど肌の下でそれは蝕む。




抱き合っても

キスしてもまだ欲しくなる。






苦しくなって、俺は天井を仰いだ。






意地悪な誰かに試されている気がする。







誰かって、誰だよ?







俺達を見て嘲笑う声が聴こえてくる、気がした。






「私から離れないで」





恵鈴が苦しそうに泣きながら言った。


幼い頃の泣き顔で、俺を睨み付けていた。


ズキズキと胸が痛む。





「五稜郭で私に言った言葉、いますぐ撤回して欲しい」




五稜郭で?





そこに行ったのは、去年の夏休みだ。





函館の街と丸い水平線を見ながら俺は…。

俺達は其々の道を探していた頃だった。


あの時は、恵鈴がいない人生を想像しようと必死だった。


俺は離れたがっていた。




甘えてばかりの体たらくがイヤになったから。

恵鈴にばかり頼りきって、あらゆることに気付かないふりをするのは

もうやめようと本気で思っていた。



*-*-* 恵鈴 *-*-*


開いた手を、指を絡めて握り合う。



唇を重ねるだけのキスが、薄く開いたところに舌を差し込まれると、躊躇いがちな私の舌をすぐに絡め取られた。

こんなキス、初めてなはずなのにどこか懐かしい気がした。



「んん…」



燿馬の苦しげな瞳が、私の両目を覗き込んでくる。

一瞬だけ迷いを感じさせて、でもすぐに蕩けた瞼がゆっくりと閉じていく。



やめないで欲しい。



このまま、私と行くところまで行って欲しい。




そう思いながら、やっぱり怖くなってくる。



私達の未来は、真っ暗だね…?





「兄妹で結ばれたとしたら、それはどんな罪になるの?」


ママに聞いたら、首を振ってすぐに答えてくれたんだ。


「罪なんてないわ。人が人を好きになることに理由も条件も関係ないもの。あなたが本気で燿馬と生きていこうと決心するなら、ママは…私はあなたを応援するよ!」


そう言って、ママは私を抱き締めた。



好きになってしまったことは罪なんかじゃないって、教えてくれた。



でもまだ、本当はとても怖い。

怖いけど、立ち止まりたくない。



燿馬から、離れたくない!



「私から離れないで」



この初恋はまるで祈りそのものだと思う。


離れたくない。

ずっと傍にいて。

私を一人にしないで。


燿馬なしでは、私は生きていても意味なんかない…。


五稜郭で見せた突然の決別宣言を思い出すと、まるで心臓を殴られたような強い痛みを覚えた。本当にショックで死ぬこともできそうな程に…。


「五稜郭で私に言った言葉、いますぐ撤回して欲しい」


必死にそれを伝える。

呪い殺される前に取り消して欲しい。


『距離を置いた方が良いと思う』って言ったことを消して!


じゃなきゃ、本当に今すぐここで死んでしまいたい。



私を一人にする燿馬なんて、大嫌い!!



「言い訳だけど、あの時の俺はただ強くなりたかったんだ。

お前がそんなに傷付くなんて思ってもみなかった…。ごめん。撤回する」


私の頬に指を触れさせて涙を拭いてくれながら言った燿馬の声が、

今までで一番優しかった。


私をこんなにも傷付けたことをわかって!

私がいようといまいと、燿馬は強くも弱くもなることを知って!


だから、自分の弱さを私のせいになどしないで欲しい…。

それはきっと誰のせいでもない。


弱さを認め自覚する者が一番賢くて強いって、お爺ちゃんが言ってたことを思い出した。

見上げると、泣き顔みたいな燿馬が切なそうに私を見下ろしてくる。


私達、今同じ気持ちで互いを欲しがっている。


身体の奥がジンジンしてきた。


もう待てない。


……私の全身全霊がそう訴えてくるようだった。



*-*-* 燿馬 *-*-*


「言い訳だけど、あの時の俺はただ強くなりたかったんだ。

お前がそんなに傷付くなんて思ってもみなかった…。ごめん。撤回する」


見上げてくる恵鈴がやたらと色っぽく見えてくる。


簡単に手を出せない妹なのに、気を抜くとすぐにも素肌に吸い付きたくてしょうがない。

そして何よりも、俺の雄が完全に起動してしまっている。



このまま動けばバレてしまう。



恵鈴がどんな顔をするのか、怖くてしょうがない。



動物園のオオカミの目を思い出した。

動物は時に親子でも兄妹でも関係なく子供を作ることがある。

ギリシャ神話に出てくる大神ゼウスだって、ありとあらゆる女に子供をはらませた。

娘だろうと、嫁の姉妹や子供だろうと、惚れたらすぐに押し倒した。


神様だって獣みたいになる。

男の中には獣が住み着いている。



それを今、自分の身で証明しているようなものだ。


アンテナのように敏感になった下半身に少しの刺激でも加わるだけで、

俺は自分がもう自分じゃなくなると確信している。



俺の中にいる狼男は早く女とヤリたいと叫んでいる。



快楽など興味ないと言っていた少し前の俺は簡単に吹き飛ばされちまう。



恵鈴はどうなんだ?



涙目で見上げる恵鈴はまるで誘っているような強い芳香を放ち出した。


ジッと俺を見る目には見たこともないほど煌いている。


万華鏡のように複雑に輝く瞳の真ん中に俺の顔がはっきりと映っていた。



「どこまで行こうか?」



*-*-* 恵鈴 *-*-*


「どこまで行こうか?」


私はつい聞いてしまう…。


始めてしまえば、私は止まらなくなる。

自分の中にこんな激しい気持ちが生まれてきたことが今はとても不思議だ。


燿馬は慎重派だから、きっとすぐに立ち止まろうとするよね?

私が手を引っ張っていかないと、前にはなかなか進まない気がする…。


今までなら、それで良かった。

普通の兄妹として、お互いにブレーキ役になることに何の問題も躊躇いもなかった。


だけどもう、そんなわけにはいかないよね。


私達が一線を越えたら、

色んなことが変わってしまうかもしれないもんね?


平和が一番な燿馬にとってその激しい環境の変化は、

もしかしたら命取りになる程に辛く大変な事かもしれない。


ナイーブな燿馬には耐えられないだろうな…。


…それは、いやだ…。


守りたい。

私が、燿馬のことを今まで以上にちゃんと守りたい。



必ず守ると約束できるかな?



その約束を守るだけの力も根拠も私にあるのかな?



どう思う?



「黙ってないで、なにか言って」



気付くと私は我慢できなくて訴えかけていた。



*-*-* 燿馬 *-*-*


恵鈴はまるっきり俺と同じことを考えていた。


どこまで行くか?


そんなの、決まってる。

だけど、帰れなくなる。

戻れなくなる。


知らない世界の扉を開けたら、どんなに後悔しても戻れなくなるだろう。


だけど俺達二人なら。



誰に理解してもらえなくても、二人なら生きていけるんじゃないか?



「黙ってないで、なにか言って」と、恵鈴が俺の服を引っ張った。


両腕を突っ張ってその下で無防備な女の顔をした妹を眺めた。



『平常心でいろ』とアドバイスを受けた時の親父の声が頭の中に響いた。




「一度、落ち着こうか」


「…わかった」


露骨にがっかりした恵鈴を見て、俺はつい笑ってしまった。


「お前、今日はほんとに調子が狂うぐらい素直だな。

いつもの天邪鬼はもういなくなったのかよ?」


「天邪鬼は燿馬でしょ?

興味ないふりばっかりして、いつも自分の気持ち隠してた」


嗚呼、やっぱりバレてたんだ。さすがは恵鈴。

どんなに隠しても全部お見通し。



だけど全部って言いながらも全部じゃない。

男と女にはわかり合えない部分がある。

身体が違えば感覚も違う。


今までは性差なんか気にならなかったけど、

これからはその性差が俺達の明暗を分けるんだ。


「もう、天邪鬼な時期は卒業しなくちゃな」

「いま、同じことを思ってたよ」


恵鈴は起き上がって俺の顔に触れてきた。

こんな触れ方なんて、されたことがない。


恵鈴の細い指が俺の唇を抑える。

ペロッと舌の先でその指を舐めたら、恵鈴の顔が赤くなった。

キスしたそうな目をして、俺の口を見詰める恵鈴が可愛くて。


天邪鬼な俺達じゃなくなったら、やっぱりマズイんじゃないか?


一線を超えるかどうかの瀬戸際で、卒業式なんかした途端に俺達は、

引き返せなくなるところに進んでしまう。


一緒にもっとよく考えてからでも遅くはない。

本当に好きなら、いくらでも待てるはずだ。


「俺は男だから傷物になんかならないけどさ、

お前は女なんだ。まだ15歳だし…」


「だけど大人の分別がつくようになってからだと、

私達はきっと一線を超えられなくなる。

超えるなら、分別のない今じゃなくちゃいけないの」


そんな大胆なことを可愛い声で訴えられて、俺の中の狼男に火がついた。

全身の感覚が中心に集まっていく、熱くなった芯がビクビクと震えだす。

気を抜くとあっという間に獣になっちまいそうで、

俺はソファから降りて恵鈴から離れた。


「俺を煽るなよ!

まだ扱い慣れてないのに、そんなこと言われたら

お前を滅茶苦茶に傷付けるかもしれないんだよ?」


*-*-* 恵鈴 *-*-*


「一度、落ち着こうか」


まどろんだ目が急に吹っ切れたようにしっかりした。

燿馬が深呼吸をして、落ち着こうと努力しているのが伝わってくる。


自分を見失いそうなほど気持ちが昂って暴走したくないのは、私も同じ。


同じように私も深呼吸をした。


「…わかった」


絞り出した返事に、燿馬が無邪気な笑みを浮かべる。

そんな表情さえも、今は胸が締め付けられてしまう。


「お前、今日はほんとに調子が狂うぐらい素直だな。

いつもの天邪鬼はもういなくなったのかよ?」


天邪鬼?


あまり読書をしない燿馬がその単語を知っているなんて、意外だった。


「天邪鬼は燿馬でしょ?

興味ないふりばっかりして、いつも自分の気持ち隠してた」


私なんて、ここ最近だけの話だけど、天邪鬼なら絶対に燿馬の方が上な気がする。


私にでさえ本音を滅多に言ってきてくれたことはなかったじゃない。

そっけない振りが演技じゃなくて、どんな時も燿馬はママ意外の誰にも心を開放しないままずっとやってきたじゃない。壁を作って、誰にも踏み込ませない徹底した拒絶感を捨てたのは、蛹が羽化するように急に大人びてきたのは、高校生になって変わったからだ。

私と距離を置いた途端、なぜか燿馬の周りに人が群がり始めた。


私が傍にいたら、燿馬は誰とも関わろうとしないで生きていたのかな?


「もう、天邪鬼な時期は卒業しなくちゃな」


とっくに卒業してる燿馬は、まるでパパのような優しい瞳で私を見詰めてきた。

それがこんなにも嬉しいから、私はもう自分に正直になって良いと心から思う。


「いま、同じことを思ってたよ」


突き放されて初めて気付いた燿馬への特別な気持ち。


……素直に全部ぶつけたら、あなたは答えてくれるの?


私が手を伸ばした先に、温かい肌がある。

私を見つめ返す意志の籠った強い眼差しがある。


心と心が通じ合っているって、こういうこと?


燿馬の唇にもう一度触れたら、ピンク色の舌でペロリと指先を舐められた。


ゾクリ!!


指先から全身へと、一瞬で熱い波動が広がった。


ダメだよ、燿馬…。



私のハートに火を付けたら、簡単には消えなくなっちゃうよ?



今、私達を止められる人なんていないんだ。


自分達で決められるんだ。



身も心もこんなにあなたが欲しいけど、やっぱり怖い。



その先に何があるかなんて、想像できなさ過ぎてとても怖い…



怖い…


怖い……




「俺は男だから傷物になんかならないけどさ、

お前は女なんだ。まだ15歳だし…」と、燿馬は冷静に言う。


すごいよ、燿馬。

すごく頼もしいよ。


そう思うのに、今すぐ燿馬とどうにかなりたいもう一人の私が勝手なことを口走った。


「だけど大人の分別がつくようになってからだと、

私達はきっと一線を超えられなくなる。

超えるなら、分別のない今じゃなくちゃいけないの!」


燿馬とならどうなってもいい。

なにが待っているとしても、燿馬と二人なら怖くない。


そんな想いをぶつけたら、燿馬は飛び上がるようにして立ち上がり、逃げるように床に転がった。様子がおかしい。


「俺を煽るなよ!

まだ扱い慣れてないのに、そんなこと言われたら

お前を滅茶苦茶に傷付けるかもしれないんだよ?」


絞り出す声が震えていた。燿馬は三角座りになって貝のように身体を閉ざそうとする。

その必死さから、私は気付いてしまった。


理性と欲望が戦っている燿馬はとても魅力的で。


素直な身体の反応を確かめたくなって、いけないと思いながらも私は燿馬に抱き着いて絡みつく。熱くなった身体を押し付けて、燿馬の理性を壊したくなる。


怯えるような顔に私から近付くと、燿馬は顔を背けてしまった。


逃がしたくないけど、追い詰めたくもなくて。


私はもう動けなくなる……



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