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天邪鬼な君に  作者: 森 彗子
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天邪鬼な君に 4

なんか不思議な気分で俺は全部正直に話しても良いように思ってしまった。


「あのさ、親父。

俺、間違っているってわかってるのに、恵鈴のことを…」


親父が俺の首に腕を回して抱き寄せて、大きな手で髪の毛を掻きまわした。


「わかってるよ。もう、わかってる。だから、良いよ。

言わなくても…。言えばお前はたぶん傷付くぞ?」


思いがけず優しい言葉に、俺の目尻にまた涙が浮かび上がる。

傷付く前に教えてくれるなんて。

そんなこと、俺にはできない。


親父はすごかったんだな。



「体の反応は無意識と、つまり潜在意識と繋がっている。

夢と潜在意識も繋がっているし、潜在意識のもっと奥深いところでは人類全体の潜在意識がつながっているんだとよ。

お前のその悩みは、お前だけの悩みじゃない。


夏鈴曰く、タブーを恐れるな。立ち向かえってな…。

それも、焦らず、慌てず、まずは自分の気持ちを落ち着けることが大事だ。

平常心に持っていく努力をしろ」


「平常心に持っていく…」


「感情に振り回されているうちは直観は働かないんだ。

感情を感じ尽くした後で、平常心になる。


平常心の中で選択肢を吟味して、真実を選ぶ。

お前にとっての真実は、お前が選び抜いたものを指すんだ。


つまり、お前だけがお前の人生を切り開く…。


恵鈴には恵鈴の、お前にはお前の生き方がある。


二人で悩め。お前達は双子なんだ。


お互いが必要な時もあって自然なんだ。」


「お互い必要な存在」だと言われると、

心の奥でまた初めて聞く音が聴こえた気がした。


恵鈴は俺を必要としている。

俺は恵鈴を必要としている。


それが大きな意味を持っている。



車に乗ると急に眠くなった。

助手席に座っているのに、俺はウトウトとしてしまう。


「燿馬。家に着いたら起こしてやるから、眠いなら寝てろ」


親父の声を子守歌にして、俺は目を閉じた。




昏い部屋で一人泣く恵鈴を見つけて、俺はドアを開ける。

振り向いた恵鈴の泣き顔に引き寄せられた俺は、駆け寄って抱きしめた。


抱きしめたい。

それだけでいい。

それ以上は必要ない。


俺が大事にしたいのは、恵鈴の笑顔だから。


だけど恵鈴は手を伸ばしてきて俺の頭の後ろを掴んだ。

髪を鷲掴みされて無理矢理首を捻じ曲げられ、恵鈴が俺にキスをしてきた。


こんなことされたら抵抗なんかできるかよ……。



嗚呼、やっぱり俺は。ダメな兄貴だな……


恵鈴に溺れていく俺はまた、夢の中で愛する女と結ばれていた。


家に着いた。


灯りの中に揺れるふたつの影を見て俺の心臓は高鳴った。


車から先に降りた親父が、俺を待ってくれている。

おそるおそる、自分の家に入る。


恵鈴は風呂から上がったところで、まだ髪は濡れていたけどメガネをしていなかった。

ぎこちなくソファに座ってもたれながら、クッションを抱きしめていた。


親父はキッチンにいるおふくろに直行してキスをしている。

それから二人でヒソヒソと言葉を交わすと、

お袋が料理を手に持ってダイニングテーブルに並べ出した。


「私と恵鈴はもう先に頂いたのよ」


美味しそうな夕食を見てやっと腹の虫が鳴る。

手を洗って椅子に座り食事を始めた。


お袋はマグカップをふたつもって恵鈴の隣に座ると、

恵鈴はまるで幼い頃のようにお袋の肩に頭を乗せて甘えていた。


こっちでも女同士で色々と話をしたんだろう。


恵鈴は俺を無視するように全然こっちを見ようともしないのは、いつものこと。


どうしてそうまでして目を反らす意味が今だからわかるけど、

俺は密かにずっと傷付いてきた。


視線ぐらい結ばれていたかった。


飯を食っているのに俺はまた泣きたい気分になってきた。

味が遠のいて、胸の痛みがざわつきながら全身に広がっていく。


箸を置いてため息を吐く俺に、親父は途方に暮れたような顔をした。



「重症だな」



「こっちもよ」



お袋は親父に同じトーンでつぶやいた。



俺達はどうなっていくんだろうか?


顔を突き合わせていかなきゃいけないのに、この重苦しい空気よ。

どこかへ消えてくれ。



恵鈴が急に立ち上がった。

そして、俺に向かって歩いてくる。


すぐ脇に恵鈴が立っている。

驚いて顔を見上げると、恵鈴が俺のほっぺたを指先でつまんでギュッと抓った。


「ってぇ!!」

「昨日のお返し」

「……」

「笑いなさいよ。あんたが天真爛漫じゃないと皆の調子が狂っちゃうでしょ?」

「俺、天真爛漫ってキャラじゃねぇし」

「天真爛漫だよ。燿馬は気分屋で、嘘吐きで、掴みどころないキャラしてるじゃない。昔から…」


頬を抓む力がぐっと強くなって、俺は恵鈴の手首を掴まえて引きはがした。


「怪力が」

「酷いよ」

「どっちがだよ?」


俺達はいつものようにそんなやりとりをして、つい微笑み合った。


「酷いのはきっと、お互い様だよね」

「…そうだな」


いつの間にか、親父は食器を下げてお袋と二人で階段を上がって行った。


どういうつもりだ?


だけど、今しかない。

言うなら今しかないんだ。


「恵鈴。あのさ…」

「燿馬。私ね…」


どちらも何かを言いかけて、止まる。


シーンとした空気が漂った。


「え、なに?」

「そっちから先に言えよ」

「なんか、気になるじゃない」

「それは俺の台詞だ」


そしてまた笑った。


「私…、つべこべ悩むよりも正直な気持ちを燿馬に伝えたいんだ」


恵鈴は澄んだ瞳でそう言いながら、俺の隣の椅子に座った。


「燿馬は?」


え?これって…告白タイム?


「俺も、伝えたい」


恵鈴が困った顔をした。


「どっちから先に言おうか?」


「一緒に、言おうか」


恵鈴ははにかんで、頷く。


見慣れた顔が今日はやたらと可愛く見えた。



理性が霞んでしまいそうだ。



「せーの」と俺達は合図を互いにすると、同じタイミングで同じ言葉を言い放った。








        「好きだよ」







*-*-* 燿馬 *-*-*



一体感がやってきた。




自然と腕を広げて、互いに抱きしめ合う。




柔らかな首筋に顔を埋めて匂いを嗅いだ。




懐かしさと愛しさで胸がいっぱいになる。




しばらく、抱きしめ合ったまま動けなかった。




今、同じ気持ちでこうして抱き合うことが俺達の限界だから。




離れたくない。




離したくない。




ずっと二人でいたい。




この世界に生まれると決めた瞬間から俺達は二人でひとつだった。




*-*-* 恵鈴 *-*-*


全身がまるで泡に包まれていくようなフワフワとした不思議な感覚になった。


この広い世界の住人が私と燿馬だけ。


あとの人達の存在は消えてしまったみたいに、どうでもよくなる。



私がイブなら、燿馬はアダムだ。



私達は始めから男と女だった。




燿馬しか見えない。



燿馬さえ居ればあとは要らない。




どうしようもなく、好き。




そう思ったら、もう「好き」が止まらなくなってしまった。



まさかとは思ったけど、でもどこかでわかってた。

燿馬も同じ気持ちになってくれることを。


だって、私たちは魂の頃は二人でひとつだったんだもの。


どうしようもなく燿馬が欲しい。




もう、この気持ちには逆らえない。




*-*-* 燿馬 *-*-*


ひとつの魂がふたつに分かれて、男と女になった。


だからこうなることはわかってた。


あの頃から、おふくろのお腹の中に飛び込む前からわかってた。



血を分けた兄妹になるけど

大人になる頃には互いに強く惹かれ合うことは

もう決まっていたことだった。



この苦悩を求めた。



どうして?




それだけが、思い出せない。




恵鈴が頭をゆっくりを動かして大きな瞳で俺を見詰めてきた。


引力が強くて吸い込まれるように唇が重なる。




*-*-* 恵鈴 *-*-*



既存の概念を気にしなければ私は躊躇いなく燿馬に抱かれたいと思っている。


パパがママを求めるように、燿馬が私を求めてくれるなら

こんなに嬉しいことなんてない。



満たされない心を抱いたまま人生を終えるなんて、そんなのはいやだ。



私は満たされたい。

燿馬を満たしたい。


恐れることをやめたら自由になれる。


だけど、この問題はそんなに簡単じゃないこともわかってる。



目の前にある燿馬の顔が、愛おしいよと言ってくれるように切なげで。


そんな風にされたらもう、胸がどんどん熱くなってしまう。


キスしたくなってしまう。


わかっていて、私は自分を止めないの。

止めたくないの。


もう、心に嘘は吐かない。


燿馬の顔が近付いてきて、私も自分から唇を重ねていった。




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