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天邪鬼な君に  作者: 森 彗子
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それは恋。きっと恋。 5

しんと静まり返ったリビングのソファで膝を抱いて項垂れた。


再び一人の時間が訪れて、私は黄昏れた。



私はこれからどうなっていくんだろう?


これが恋なら、実の兄を本気で好きになったというのなら、私は……。



わからない。




昔から肉親同士の恋愛を禁じられていることぐらい知っている。

血が濃くなると色々と問題が起きるという知識もある。


そんな知識が抑止力にすらならないなんて、軽くショックだわ。



なんでこんな気持ちになるんだろう?



なんなんだろう?




恋って何なの?




もしも、私と燿馬が他人だったら何の問題もないのに。

世界には何億人という異性がいるのに、どうして寄りにもよって燿馬なんか……。



誰にも渡せないけど、これ以上バカなことに発展させたくはない。

思春期という発情期に入った私は自分の危うさを自覚して、燿馬から離れた方が良いんだろうな。


離れるって言ったって、同じ屋根の下で暮らしている以上限界はある。



わからなくなって、私は頭を抱えた。


やっぱり、ママには相談すべきなのかもしれない。


私にはどうすることもできない。


せめてもの救いは、燿馬の方が私の気持ちに気付いていないこと。



気付かれてはいけないんだ、ということぐらいはわかる。



この独占欲が何を意味するのか。

私のこの思いはいつか消えていくものなのか。

もしも、万が一今以上の気持ちに私が耐えられなくなったら……。



「わからないよ!!」



ソファのクッションに八つ当たりしながら、私は燿馬が忘れて行ったジージャンに気付いて、気付けばそれを持ち上げて抱きしめていた。


燿馬の匂いを嗅ぐと、なんともいえない満ちていく感覚があった。

落ち着くというのだろうか。


それとも……



突然。玄関のドアが開いた音が届いてきて、私は元あった場所にジージャンを放り投げた。


取り繕うように膝を抱えて座って何食わぬ顔を作る。


パパとママと燿馬が買い出しの荷物を抱えて帰ってきた。

燿馬の様子は普段と変わらなかった。


甘党のパパが、ママが仕事で作って余ったおはぎを持ってきて嬉しそうに「食べよう」と言う。週に何度も食べているのに、ママの作ったお菓子が大好きだと顔に書いてあった。


正直、パパとママが羨ましい。

こんなに長い時間一緒に居ても、お互いに大好きを隠さずに堂々と愛し合っている。


私が目指していたはずの運命の恋はどこにあるんだろう?


その相手が燿馬ではないことはわかってる。



わかっていても、この気持ちはどうすることもできない。




皆が楽しそうに会話する中で、ふと燿馬と目が合った。


「ちずは?」

「見送ってきた」と、かなりそっけなく返事をされる。


私に隠し事なんてできなかったはずなのに、いつの間にか燿馬の心は以前のように感じ取れなくなった。それもこれも五稜郭の時から始まった。当たり前がある日突然当たり前じゃなくなるんだ。私の気持ちの整理とか関係なく、突然私を心から締め出した燿馬に超むかつく。思わずキツク睨んでしまう。


肩をすくめて困ったポーズをする燿馬は、まるで「俺が何をしたんだよ?」と訴えているようだった。


私一人がこんなに悩んでいるのに、コイツは呑気なものだなと思うと無性に噛みつきたくなる。


「ねぇ、パパ。男の人って、女心わからないものなの?」


意地悪な質問をパパにしてしまった。

勢い任せの言動を自分で制御できなくなっていく怖さを薄っすら感じつつ、私の暴走は加速していく。


パパは慌てて口の中のものを飲み込んだ。


「ざっくりし過ぎな質問の気もするが…、確かに男と女の思考回路は違う気がするな。いきなりわかれって言っても厳しいぞ。物事に対する感覚がまず違うからな」


正論だと思う。だけど私の中で暴れたくなった悪魔が動き出す。

ママがわかりやすく話してくる内容が全然頭に入って来ない。

ママを見ながらおはぎを食べている燿馬を観察して、私の中の悪魔が毒吐いた。


「じゃあ、セックスのときも会話は重要っていうこと?」


家族全員が、同時に飲み物を吹き出しそうになった。

ママがゲホゲホと苦しそうに咳き込んで、パパは慌ててママの背中を叩いている。

燿馬はそんなママ達と私を交互に見てから、信じられないものを見るような目で私を睨んできた。


でもすぐ、パパが視界に入ってきて心配そうに聞いてきた。


「お前、彼氏でも出来たのか?」


彼氏、というワードから急速に連想ゲームが始まる。


彼氏、デート、キス、それから初体験。

そして、私が今好きな人はそこにいる間抜け面の兄。好きになってはいけない存在。


だけど妄想の力は私の予想を超えた。


朝から繰り返し見た官能シーンが脳内スクリーンに再生されたと思ったら。

主演はどういうわけか、自分と燿馬だった。


バカらしいけど、笑えない。そんな愚かな自分が恥ずかしくて惨めになる。



「今の、忘れて!」と、私は叫んで自分の部屋に逃げ込んだ。



自爆プレイ。



自己嫌悪。




置きっぱなしの携帯端末にメッセージが届いていた。

開けるとちずからで、「私、自分の気持ちがわからなくなったよ」と書いてあった。


私のせいだ。


ちずが普通の子で良かった。



燿馬から手を引いてくれると本当に助かる。

だけど、それじゃあまりにも私は自分勝手な気がしてきた。


せっかく燿馬との学園ライフを期待して通ってくるちずに悪い事をしたような気分が半端ない。


相反する気持ちがせめぎ合うことを葛藤すると呼ぶ。

私は今猛烈に葛藤している。


このままだと自分を大嫌いになりそうだから、私は思案した。

男装した私を見せてみよう、となぜかそんな考えが良いアイデアに思えた。


以前、えっちゃんにもらったかつらは偶然にも燿馬の髪型に近いカタチだった。

ワイシャツを着てかつらをつけて、カメラの角度次第では燿馬に似せることができるような気がして、良い角度を探していると時間を忘れてしまったんだ。


夕飯まで一時間ちょいかかる。

そう思ってスタートし、上からの角度で襟を立てるとシャツの反射で顔の余計な影が消えて、燿馬に似てる気がしてシャッターを切った。


数枚の画像を見詰めながら、私は紛れもなく燿馬と兄妹なのだと実感していた。

目、鼻、口、眉毛。

すごく似てる。


二人で並んだ撮った写真は沢山あったけれど、顔以外の全部を隠せば私達の顔は良く似ていた。


似ているけれど、違っていて。


そのわずかな差に、私と燿馬が独立した個別の人間なんだという実感を味わいたくて。



違いを探すために今度はカメラの傾きを変えていく。



私が女で、アイツは男で。その違いを決定的にしているのは、身体だ。



私はシャツのボタンを外して胸をはだけさせた。私が紛れもなく女だという証拠だと主張する胸は、もしかしたらママのよりも大きいかもしれない。なんてことを思って、鏡に映る自分をボーっと眺めていた。


ふいに気配を感じた。

燿馬がここにやって来るという予感。


そう思って振り向くより少し早くドアが開いて、

燿馬がすごく驚いた顔をして私を見ていた。


身体が勝手に動いて、逃げ出そうとする前に捕獲すると室内に引き込んだ。


押し倒した時の間抜けな顔が私見上げて不思議そうに黙ったまま。


「殺す!」と心にもないことを言って、

外したかつらを燿馬の顔に叩きつけてしまう私。


自分でもなにがしたいのかもう良くわからなかった。


「いってぇ!!」

「声を出すな!」


燿馬になりきった私は、兄の口を両手で塞いだ。

手に触れた唇の感触に身体が沸騰したみたいに熱くなる。

燿馬に跨って首に手をかけて締めようとしたけど、頭のどこかで「もういい加減にしないと取り返しがつかないぞ」と叫ぶ私がいるにはいたけど、無力だった。


抵抗する燿馬の力に形勢逆転。簡単に優位を奪われた。

上下入れ替わった私達は、お互いの鼓動が聞こえてしまう距離で手を掴み合い、向き合った。


いっそこのまま目を閉じて抱きしめられたい気もしたけど、そんなことは不可能。


わかってる。


「あ、ごめん。やりすぎた」

「どけよ!」


万歳のポーズをして離れた燿馬に聞かれた。


「で?結局、俺どうすればお前の気が済むわけ?」


その質問に胸が高鳴ってしまう。

私は燿馬にただ、抱き締めて欲しい。


一瞬でその答えに辿り着いてしまった。




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