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約束の地  作者: 黒瀬新吉
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98.オオヒメ

オオヒメ


オムズのイブには性別も実体もなかった、だがそれはルノクスを離れたマルマが連れて来たスカーレットによって大きく変わる。スカーレットとは、虫人の生殺与奪を司るイブ『リリナ・スカーレット・サクヤ』に似せて『神の子』マルマが生んだ最初の生命体のことである。その生命体は、のちにインセクトロイドと称される。


(以下、『なっぴの昆虫王国 イブ編』より)


マルマとリリナによって新たな命が生まれた。しかしそれは感情のない、生き物に過ぎなかった。マルマは、次の瞬間、力尽き倒れ込むリリナを見た。リリナを抱き起こしマルマは言った。

「大丈夫か、リリナ」

「既に申し上げたでしょう、思い残すものはありません。それよりご覧なさい、まだこの子には「感情」らしきものがない。でもやがてはそれも芽生えることでしょう。その日までこの宇宙をさまようことになるかもしれません。いつかこの子が目覚め、本当の女神になる時、その時はマルマ、あなたの『不老不死』の力だけではない、私の『再誕』の力さえ自在に使う、女神として現れることに……」


(以上、『なっぴの昆虫王国 イブ編』より)


「スカーレットよ、なぜ、私に微笑んでくれないのだ……」


辺境の星でマルマはそう言いながら、それでも何年も待ち続けた。だがリリナがマルマに告げた『奇蹟』は起こらなかった。リリナはルノクスのイブ、虫人を生み続けるイブには特定の夫を持つことは許されなかった。王の死とともに彼女の過去の記憶は涙とともに消え去る。その涙をヒドラは糧としていた。リリナを忠実に再現したスカーレットが、マルマに対して特別な感情を持つはずはない。それでも彼女は宇宙をさまよううちに少しずつ変わっていった。しかしある日を境として、抜け殻のようになる、虫人達の総意がスカーレットを欲したからだった。彼女にようやく芽生えた感情はリカーナの娘『マンジュ』の元へと、引き寄せられるように消えてしまった。新天地に向かう虫人たちには新しいイブが必要だったのである。マンジュに『生殺与奪』の力を与えることをルノクスの虫人たちは求めたのだった。


そしてとうとうマルマは、『抜け殻』に変わったスカーレットに別れを告げた。やがて不老不死の体のスカーレットは、石化しマルスの礎となる。その石化した姿を見るものは、マルスにオムズが生まれるまでの長い間現れなかった。オムズの長『イセハヤ』は、石化した女性を発見した時、彼らのイブ『オオヒメ』がその女性に吸い込まれる様に融合したことをアマネ達に伝えた。スカーレットの抜け殻にオムズのイブ『オオヒメ』が取り込まれた理由については、『イセハヤ』にもよくわからなかった。


「オオヒメはイブとして存在する為に、スカーレットの体を欲したのかもしれない、オオヒメは彼女の肉体を持つやいなや、その悪魔に対峙した。その手には、光り輝く(じょう)を握っていた。彼女は『ヤタノカガミ』から発射される光の槍を(じょう)の指し示す方向へと上手く導き、ついにはその悪魔を貫いた。しかし悪魔(シュラ)を破壊したのもつかの間、不死の悪魔(シュラ)は何度も再生し、マルスにその姿を見せつける。そしてついにオオヒメも深く傷ついてしまった。我々にはもう打つ手はない。その時、お前たちと同じような虫人がこのマルスに降りてきた。悪魔と寸分違わぬ力を持つ『それ』は虫人の作ったものだろう、悪魔と『それ』は互いが混じり合うように絡まりついに消滅した。それを確認すると虫人は傷付いたオオヒメを抱きかかえ『あなたがリリナの代わりを務めるには、まだ荷が重すぎる』と言った。その虫人はオオヒメをスカーレットの体から解放すると消滅した『それ』の代わりに、再び抜け殻にもどったスカーレットを連れて行った。間も無く我らはその虫人が『オオヒメには、まだイブとしての役目は荷が重い』と言ったことが真実だったことを知ることになった」


カグマはそのインセクトロイドこそ、マルマがルノクスのイブ、リリナを元に生み出したと伝え聞いていた。スカーレットを回収した後、彼女の脳を移植されたスカーレットは『サクヤ』として誕生する。そしてサクヤはアガルタの海底で休眠していたシュラを破壊するため、ヒドラの精『ナナ』と地球へと向かったのである。

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