97.決断
決断
アマネは艦長室で言語変換を終えた、オムズのメッセージを開いていた。「暗黒兵器」についてようやく明らかになったのである。
「フォボスに現れた生命体は巨大な壁のような体に化身し、その滑らかな表面を使って青白い光をこの星に送った。それは強大な爆発エネルギーへと変わり、この星をアルル(地球)とルル(月)から遠く離れたここまで宇宙空間を動かしたのである。その際の爆発エネルギーは想像もつかない。そのためマルスの地表は生物が生きていられないほどの高温となった。我々は生き延びるためにマルスの地下深くに移動し、それぞれの遺伝子情報を組み直し、原始生命体に融合した。アルルの海底には、『大絶滅』を経てもなお、我らの種族は生き残っていた。役目を終え、終焉の地にいたはずの我々がなぜ、また『大絶滅』を繰り返せねばならないのだ、我らに何の罪があるというのか。その暗黒兵器『ヤタノカガミ』はマルスの上空に浮かぶフオボスから、青白い光を放っていた。それは我らオムズを見下ろし、まるで嘲 (あざ) 笑うようにさえ見えた」
アマネはメッセージの最初で「石化した女性」がオムズの女王と知った。しかし女神であるはずの『イブ』がなぜ拘束までされていたのかは、メッセージの続きを解読しなければわからなかった。
「異星人の送った悪魔は、執拗に破壊を続け、もはや我らの本体を探し当てるのは時間の問題だった。マルスに再誕した我々『ラグナ(カンブリア)族』はその際、超高温となったこの星でなお生き延びるため精神生命体となった。我々オムズはその時この悪魔に対抗できるような武器などあろうはずがなかった。あなた方が連れ去ったのはオムズのオオヒメ様だ。オオヒメ様は『ヤタノカガミ』を使うことを決めた。その力を使えばこの悪魔さえ倒す事が出来るに違いない、と。オオヒメ様は精神エネルギーを編み、この星のシードのいくつかをフオボスに送った。たちまち『ヤタノカガミ』から数本の凄まじいエネルギーがマルスに打ち込まれた。そのうちの一つが、ようやく悪魔を貫いてくれた。悪魔は粉微塵に砕け散った。そして、異星人に警告したのだ、我らのようにその地で生き延びることを選ぶべきだと」
「それが、ゴラゾムに届いたあのメッセージだったのか」
アマネは不死身の「シュラ」が破壊されたということをなかなか信じなかった一人だった。
「ルノチウムの直撃を受けたのでは、シュラとてひとたまりもあるまい、しかしそれで終わりではなかった……」
【恐るべき、悪魔がオムズに降り立ち、我らの星を蹂躙した。我らは肉体のない精神生命体。悪魔は我らの生体反応がする付近を何度も焼き払い続けた。しかし我らの依代は何人だろうと見つかるものではない。焼け残った大地をことごとくなぎ払う悪魔に対し、我らは彼の地に封印していた暗黒兵器を使い、粉々に砕いた。そして悪魔を送り込んだものに警告をした。この星に二度と現れるなと。しかし粉々になったはずの悪魔は息を吹き返し、火炎を吹き出しながら動き続ける。倒してもまた復活をする、その悪魔との戦いには際限が無いように見えた。そしてその時、この星に新しい異星人が現れた】
洞窟の壁面の文言と一致する出来事が起こったのだ。何度も蘇り何度も破壊されるシュラ、繰り返す戦いの中、カグマたちによって、ようやくシュラは破壊されフォボスに平静が戻った。
【……異星人が去り、我々が目にしたのはこの地に眠る『生命体』がよみがえった姿だった。封印していた暗黒兵器がオムズの大地を貫き、その『生命体』にもう一度生を与えたのだ。空に浮かぶ大地に封印した暗黒兵器……】
「削られていた部分は、『ヤタノカガミ』から発射されたルノチウムが石化した生命体を再び蘇らせたということに違いない。その部分を持ち去ったのは、あの男以外に考えられない……」
彼の言うあの男とは、サンドラのことだ。しかしアマネの想像とは少し違っていた。艦長室のノックと同時にメルサーの声が聞こえた。
「艦長、メルサー、レビエル両名入ります」
長いメッセージの最後の変換部分が、レビエルの手に握られていた。




