86.三体のシュラ
三体のシュラ
レビエルに案内され、艦底に降りた二人は奥の倉庫の扉を開けられた。
そこで二人が目にした「最初の人工生命体」は、かなり石化していたにもかかわらず十分に美しい女性と知れた。しかしアマネの言った通り彼女には頑丈な鎖が幾重にもかけられていた。
「ああ、なんて酷い……」
その鎖は彼女の逃亡を阻止するためのものか、あるいは畏怖による、拘束なのかそれは不明だった。
「お二人には、石化したインセクト・ロイドに、なぜ鎖をかけたのかお分かりでしょうか?」
「マルスの住人が石化した彼女を見つけてのち、さらに頑丈に鎖をかけて埋めたというのですね。私には想像できません」
「私はこれには、カグマの作った『シュラ』が関係すると思います。火星にはすでに先住民がいたため、シュラに当初打ち込まれていたカグマの『コマンド』が作動してしまったと聞いています」
なっぴはそうレビエルに答えた。『シュラ』は『カグマ・アグル・サクヤ』の作った惑星探査用のインセクト・ロイド=人工生命体である。
シュラの使命は『生命体のいる惑星』を探し、それらを殲滅し、母星にその位置を知らせて誘導する。『惑星探査』と言えば聞こえはいいがそれも仕方ない、当時『ムシビト』の母星『ルノクス』にも『ゴリアンクス』にも生命体絶滅の状況が迫ってきていたのだった。
(詳しくは、『なっぴの昆虫王国』を参照ください)
「何故、『シュラ』にあの様なコマンドを組み込んだのだ!」
『カグマ』は、押し黙ったままだった。ようやく目に見えてムシビトの国『ゴリアンクス』の人口にかげりが見え始めた、いち早くそれに気付いた科学者『カグマ』は王子に移住可能な星を今のうちに探査したいと進言し、三体の『探査用インセクト・ロイド』を作り、それぞれを外宇宙に向かわせたのだった。『インセクト・ロイド』には王子『ゴラゾム』の皮膚細胞を培養し装着した、ムシビトの中でゴラゾムの皮膚は比べようも無くしなやかで、丈夫だったのだ。その一体が先日母星に通信してきた事が、彼を単身外宇宙へと出立させたのだった。
(以下、『なっぴの昆虫王国 シュラ編』より)
「……愚かな異星人に告げる、この兵器は我らには通用しない。我々の星は『オムズ(=火星?)』この星の知的生命体には違いないが精神社会に生きる。見ればこの兵器は生命エネルギーに異常に反応する様にプログラミングされているが、いくら攻撃しようと我々を殲滅などできない。残念だがこの星に異星人の住む余地はない。忠告する、他の生命体を滅ぼしその星に移住をしたところで、お前たちに新しい未来を手に入れる事は出来ない……」
『カグマ』は『二号』の通信回路を通じて送られたメッセージを、ゴラゾム王子とともに聞いた。
「滅び行く生命体は、そのまま滅びてしまえというのか、断じて違う。しかし、そうは言え、他の生命体を殲滅する事は決して許されまい……。『カグマ』、別の方法が見つかるまで自重し、即刻外宇宙に向かった『シュラ』を全て回収しろ」
「しかし、『ゴラゾム』様、我々には時間はそれほど残っていないのです……」
「これは、命令だ。カグマ!」
それが『カグマ』と『ゴラゾム』が交わした最後の言葉だった。
『カグマ』は『ゴリアンクス』の王子『ゴラゾム』に一言も告げず外宇宙に向けて出発した。外宇宙航行用の宇宙船に乗り込んだ『カグマ』は母星の引力圏を離脱すると『シュラ三号』からの信号に向け、進行方向を固定し終えた。モニターに映る母星『ゴリアンクス』はここから見れば昔と変わりなく美しく輝いていた。『シュラ三号』を回収するため、辺境の銀河に向かったその船には、彼女の他に誰一人同乗者はいない。
「どうやら『シュラ一号』は、起動プログラムが故障したらしい。二号は既に破壊された。三号は『5番惑星』で起動した様だ、生命体は検出されていないようだが一刻を争う。『シュラ』を止めれるのは、私しかいない……」
そしてカグマが再びゴラゾムの姿を見るのは、すでに誰一人残っていない兄弟星「ルノクス」でのことだった。
「ルノクスにはまだ、ホストコンピュータを起動出来るエネルギーが残っているのか」
原色に点灯する起動コマンドを見て、宇宙船の搭乗者は半ば驚きの声をあげた。『ゴラゾム』のメッセージをダウンロードしたところで、母星『ゴリアンクス』のコンピュータは、やっとその使命を終えた。そのメモリーを再生するために、宇宙船は兄弟星の王宮の庭に降りた。その宇宙船の搭乗者こそ、『ゴリアンクス』の最高の科学者『カグマ』だった。
メッセージが王宮に流れ、三次元映像システムが起動した。映し出されたのは疲れた表情の『ゴラゾム』だった。『カグマ』は、静かにそれを見つめていた。
「……『カグマ』、すまない。おまえの言う通り、時間はなかった。おまえのあとを追うように『ゴリアンクス』から多くの者が移住先を探しに旅立った。『ジガ』『ベガ』は艦隊までも率いて……。だが誰一人戻ってこなかった、とうとう我々の人口は半減した。それでもおまえが戻ってくればと国民たちは望みをつないでいた。しかし『ゴリアンクス』だけではない『ルノクス』でも同様に原因不明の人口減少は止まらない。『ルノクス』の王も女王も、わしの父もおまえの母もすでに没した。先王は私にこの星を捨て、旅立てと告げた。おまえの創った最高の宇宙船『キャステリア』に、われら生き残りの虫人は全て乗り込みこの星を出立する。リカーナとともにあの『禁呪』を使う。もはや『ゴリアンクス』も『ルノクス』もない。おまえが『シュラ』に与えたコマンドが間違っていたのか、あるいは仕方のなかった事なのか、今のわしには断言する自信もない。ただおまえがこの星にいてくれたら、きっと良い方法を考えたに違いないだろう。『カグマ』おまえは宇宙一の科学者だ、そのことは断言しよう。我々は今より外宇宙に向けて出発する、我らの航跡を見る事ができたら必ずそこへ向かってくるのだ。わしはその日をいつまでも待っている……」
(以上、『なっぴの昆虫王国 シュラ編』より)
「その時の凄まじさが後世にまで伝わったのでしょう。私はマルマに火星が燃え上がるのを地球にいてさえも確認できたと聞きました。石化したインセクロイドを見つけた時、あるいは『シュラ』と『サクヤ』のことを同一視したものかもしれません。異星人の破壊的兵器に違いがないのですから」
「石化していてもなお、畏怖されていたということか」
「そう、タイスケ。それにこの鎖はそれほど古くない、最近かけられたもののようね」
「最近だって、そんな馬鹿なことってあるかい。火星には生命体は存在していないっていう報告があったばかりだぞ」
「いえ、奥様の言う通りです。マトバ博士」
その声に振り返ると、アマネが後ろに立っていた。
「お見せしたいのはこれです」
彼は箱から赤い輝きを放つ石を二人に見せた。
「……これは、ヨミの残した『赤い翡翠』じゃないか」
「ううん、タイスケ。これは石化とともに浄化されつつある、どっちかって言うと『ナツメの石』ね」
「何とも驚きました、虫人のこと以外でもあなたは何でも知っているのですね。リカーナによく似ている……」
「だって、私マンジュリカーナだもの。ねっ、タイスケ」
「マナの力がまだ十分には戻っていないけれどな」
二人の会話を聞き、アマネはこう話した。
「ぜひとも、お願いしたきことがございます。マンジュリカーナ様」




