69.恩人
恩人
アマトの中は思った以上に広かった。彼女は背後に続くはずの二人の気配がないことに気づいた。館内への入り口はサリナに続くものの侵入を拒み、瞬時に閉じたのである。艦外の二人は慌てた。
「アマトよ、わしたちは味方だ。ここを開けてくれ」
しかしオグマの声も届かず、閉じた入り口は開くことはなかった。
「どうやら、我々はアマトに入ることができないようです。仕方ありません、オグマ様、一度ベガに戻りましょう」
(サリナ様どうかご無事で……)
オグマはザルバの言葉に頷き、仕方なくベガに向かった。
アマトの中央、一段高い場所にコックピットがあった。もちろんそこに座る者は誰もいない。サリナは別室を探そうと階段を降りかけた時、コックピットで点滅する緑のインジケーターに気がついた。
「これは、航跡レーダーのスイッチ、これを再生しろというの?」
彼女は手のひらを半球型の航跡レーダーに当てた。ハニカムモニターと連動し、そこに人影が映し出された。
「ようこそ、カザト・ベガ・サリナ」
アマトを操縦していたと思われるAI(人工知能)の音声が流れた。
「なぜ、私の名前を。あなたは……」
その少女の姿に彼女はまったく見覚えがなかった。実は今まで彼女はアマトの声の主はゴリアンクスの天才科学者、幼馴染の「サクヤ」ではないのかと思っていた。彼女はもう一度少女の名を尋ねた。
「あなたは誰?」
「私は『インセクトロイド・サクヤ』に移植されたカグマ博士の記憶を持つAIです。ルノクスの女王『ヒドランジア・マイ』様により、虫人とルノクスの恩人である『的場太輔、万寿小夏』のお二人を無事地球に送るためにアマトに組み込まれたのです」
サリナは操縦席に腰をかけるとAIサクヤに尋ねた。
「じゃあ、サクヤはすでにこの世にはいないのね。アマトの二人がルノクスの恩人だというのは、ルノクスはゴリアンクスと共に消滅したのではないということなの?」
「一つずつお答えしましょう」
AIサクヤは虫人が移住するために、「カグマ・アグル・サクヤ」が惑星探査用のインセクトロイドを三体作りあげそれに「シュラ」と名付けたこと、その初期コマンドが「探査する惑星に先住民がいる場合は、それを殲滅せよ」というものだったため、シュラの一体が火星を滅ぼしてしまったことを知り、ゴラゾム王の命によりコマンドを書き換えるため外宇宙に向かったこと、シュラを回収する途中「神の子」マルマがルノクスのイブ「リリナ」に似せて作った最初のインセクトロイドを発見したこと、ゴリアンクスに戻った時、すでに虫人は母星には誰一人いなかったこと、死期の迫ったカグマはその「魂のないインセクトロイド」に自分の脳を移植しサクヤと名付けたことをサリナに告げた。そして続けてルノクスの恩人についての話を始めた。
「地球に移住した虫人たちとともに、消滅を免れていたルノクスに到着し、そして再度新たな生命を吹き込んだのが、このアマトに乗って地球からやってきた二人だったのです」
一度は消えたルノクスの「星の生命」を奥義「ツクヨミ」を使い、再び与えてくれたのがマンジュリカーナこと「万寿小夏」であり、元は地球の「深海探査」用に開発したアマトを改良し、外宇宙の航行までも可能にしたのが「的場太輔」だとAIサクヤは続けた。
「今二人はどこにいるの」
「後方の休眠カプセルの中です。私が眠らせました」
「あなたが?」
「二人は大変危険な状態でした……」
それを聞くと、サリナは隣の部屋に二つ並ぶ休眠カプセルに近づき、その中をそっと覗いてみた。
「ああっ!」
彼女は思わず驚きの声をあげた。カプセルの中には膝を抱えた状態のまま、石化している男女がいたのである。
「サクヤ、二人はなぜ石化しているの、あなたがいながら……」
その問いにサクヤはすぐに答えられなかった。
「私が再起動したのは、二人が生命の危機に陥ったからなのです」
サクヤはその時の様子を再び椅子に座ったサリナに話し始めた。




