70.再起動
再起動
「私が自己消滅したのは、アマトがスイング・バイを使ってルノクスから離脱した後の事、それは最初の銀河を超えた頃だった」
「銀河を超えた……、やはりその推進力はシリウスのものなのか?」
「さらに強力に改良されたものです」
それはルノクスでの結婚披露宴の場で虫人たちへ初めて公開された。
(以下『なっぴの昆虫王国イブ編』より)
「生まれ変わったアマトをご覧に入れましょう」
タイスケがアマトを中心に置いた会場に来賓を連れて行った。ひと回りほど大きくした球体の外観はほとんど変わっていない、ただ後部には新しい推進システムが採用されていた。
「それは、シリウス型のエンジンのもの、いつの間に……」
シルティとコオカが顔を見合わせた。
「そう、カグマ博士の開発した星間航行用のシリウス型エンジン。それに改良を加えたものだ」
「どれ位かかるの、地球に着くまで」
テンテンが尋ねた。およそ1000ゼクトロンもの距離を「レムリア」は数年かかって航行した。改良したエンジンとはいえ、やはり相応に時間はかかるだろう。タイスケはこう答えた。
「最低一年はかかるだろう、ルノクスの君たちは五年後に僕たちが地球に着いたと思ってくれ」
「五年後……」
「もう少し、この星に居たかった。でも、地球に帰らなければならないみたい」
なっぴは、皆に予知力で垣間見た地球の未来について語った。
(注)外宇宙への一年という時間はルノクスでの五年に相当する。なっぴは予知能力で真っ赤に燃える地球の未来を見てしまったのである。
「なっぴ、少し眠れよ。最初の銀河を超えたぞ」
「うん、そろそろ地球時間にシンクロするわね」
「……地球到着時刻、20××年4月16日10時28分。シンクロ完了。AIサクヤ自己消滅……」
(以上、『なっぴの昆虫王国イブ編』より)
AIサクヤは消滅した、それからのアマトが航海の途中に出会ったことについてAIサクヤは知らない。地球で待つ「セイレ」と「ミーシャ」の元に二人を送り届けるためにルノクスから送られたものがあった。巫女たちからは「七色のストール」、ラクレスとコオカからの「ペンダント」は七色に輝く小さな「虹色テントウ虫」だった。そしてAIサクヤもまた王女から送られたのだった。
(以下再び『なっぴの昆虫王国イブ編』より)
「由美子、ちゃんと渡したのか?」
「お土産は少しだけにしといたわ。はい、なっぴ」
小さな箱に押し込められたお土産がひとつなっぴに手渡された。
「私たち、いつかまた、会えるね……」
「ええ、きっと!」
「そう言えば、マイは?」
「マイ様はカグマの記憶を辿っている。虫人の記憶を伝える巫女としてサクヤの記憶を受け継いだ。ヒドランジアとして、そしてルノクスの王女としてこの星を守っていくために」
ピッカーがマイに代わりになっぴにそう伝えた。と、懐かしい声が突然響いた。
「なーんてね、なっぴ、地球でも元気にやってね。私たちはいつもあなたとともにある。ずっとこの星から二人を見ているからね」
「マイの声だ、いったいどこから?」
みんながその声の主を捜した。
「ここだよーん」
アマトの館内に新しい「ハニカムモニター」が現れた。その中にマイの姿が映し出される。
「真っ先に、マイ様はハニカムモニターを作られた。外宇宙に出るまでルノクスと交信できる、カグマ以上の科学者だ、ヒドランジア様は……」
「マイ、ありがとう。あのマイがこんな事ができるようになったのね」
「さあ、明日までルノクスの夜を楽しんでくれ。新婚さん」
「まっ、ドモンたら」
ドモンは「意味深」な言葉を残して外に出た。後に由美子が続く。なっぴも負けじと由美子に答えた。
「由美子も早くお母さんになってね」
「なっぴったら……」
再びアマトの中は静かになった。昼間用の衛星が輝きを増すのには、まだもうしばらく時間がかかる。夜用の淡い輝きの衛星「ツクヨミ」の下で、タイスケはアマトの入念なチェックを続けていた。その準備もやっと終わり、なっぴはルノクスを包み込んでいる結界を全て解き放つ、その心の準備も整った。
「なっぴ、テンテンが言ったけれど、虫人は生き残れるのか?」
寝室の中で二人は最後のルノクスの夜を迎えた。
「私にそれを聞くの、タイスケ」
涙顔を見て、タイスケは首を振った。
「ごめん、お前には解るんだな。虫人達がこのままでは済まない事が」
「それも、パピリノーラの約束。タオの示した通りの虫人の未来……」
タイスケは彼女にかける言葉を探した。そしてこう呟いた。
「もし、おまえが望むのなら、このままこの星にいたってかまわないぞ、なっぴ」
「ううん、それはできない。虫人はそんなに弱くない、それどころか彼等は強い。皆、未来を自分たちで切り開こうとしている」
「なっぴ、まるでお前は「創造主」の様なことを言う。タオはいつの間にかお前を認めてしまっていたんだな。『マンジュリカーナ』は『アマテラス』も『ツクヨミ』も扱える『タオ』の後継者だと」
「それは言い過ぎよ、私は私、神でもない。今夜はタイスケ、あなたの愛を受け入れる、ただの花嫁……」
(以上、『なっぴの昆虫王国イブ編』より)
AIサクヤはまた話し始めた。
「私は自己消滅したがそれは一旦、システムを休眠させたのにすぎない、私のエネルギーも全て外宇宙ではアマトに使うようにプログラミングされていた。そして、ルノチウムを十分に補給した時、再び私は起動し地球まで二人を見守るよう、ヒドランジア・マイ様にプログラミングされた」
「では、あなたが再起動するまでのことは、知らないということなのかしら。なぜ二人が石化をしているのかもその理由はわからないということ?」
「再起動の条件の一つに『二人に生命の危険が迫った場合』というのがあります。その危険を回避するために私は再起動したのです」
「サクヤ、その時の映像を映して見て」
「わかりました、こちらです。それ以降、たった今までこの艦内に何一つ変化はありません」
その映像はサクヤのいう通り今と全く変わらないものだった。なぜ二人が石化してしまったのか、なぜ休眠カプセルに入っているのかの手がかりはなかった。サリナはある疑問が生まれた。
「あなたは『キャステリア』がこの星にあることや、ルノチウムが残っていることを一体誰から教えてもらったのかしら?」
「私にはその記憶はありません」
「そんな馬鹿な、確かにこれがラストミッションだと私は聞いたわ」
「私は前方のルノチウムエネルギー弾を吸収しただけのことです」
「じゃあ、『キャステリア』のタキオン粒子砲を発射するようにしたのは一体誰なの?」
キャステリアのコンピュータにプログラミングしたのが誰なのか、彼女には見当もつかなかった。
「この艦を動かすのはどうしたらいい。あなたは私を知っていた、私の命令はあなたに有効なの?」
「もちろん、あなたがサリナであるならば、カグマ・アグル・サクヤの親友であるなら私はその命に従います」
サクヤはヘルメットを脱いだ。
「アマト、発進。直ちにキャステリアに向かいなさい」
「了解、発進します」
独特の振動音を残し、アマトはその球体を持ち上げるとキャステリアに向かった。それを見たベガの艦橋の人影が小さく呟いた。
「惜しいことだ、余計なことに気付かねば、もう少し長生きできただろうに……」




