67.誤射
誤射
「艦長、オグマ、ザルバ両名入ります」
「よし」
二人は艦長室に入った。
艦長室に入った二人に、艦長の背中が言った。
「これが漂流中のカプセルロケットだ」
サリナはハニカムモニターに大きく映し出されていたロケットを見ていた。それは外宇宙から地球に帰還しようとしている「アマト」だった。ロケットを覆う丈夫な耐圧殻は、度重なる流星群との衝突により、その船体は凹凸が目視できるほど痛んでいた。
「……あんな小型のカプセルロケットで、外宇宙を航海しているとは信じがたいことです。あの痛みようでは生存者がいるとは、思われませんが……。艦長、艦に生体反応はございますか?」
「いや、ところがこれを見ろ二人とも」
「なんということだ、二人分の生体反応がある」
生体反応のスキャンデータを見てオグマが驚いた。
「さすがに映像までは送られてこないが、救援信号がずっと出されている。乗組員は二名いると」
「所属はどこのものだと申しておりますか」
「太陽系第三番惑星、地球の『アマト』だそうだ。乗っているのはマトバ・タイスケとマンジュ・コナツの二名だと言っている」
「あんなカプセルロケットの中に二名も生存者がいるとは、すぐには信じがたいですが」
ザルバは、彼自身の漂流中の過酷な体験を思い出した。
(あんなこと、もう二度と体験したくはない……)
「生体反応は冷凍カプセルの中からだ。彼らは何らかの事情で、眠ったまま自動操縦で地球に向かっている。救助信号はカプセルロケットを制御しているコンピュータからのものだ」
カザト・ベガ・サリナはこう言って話を締めくくった。
「直ちにアマトを救助し、ベガに収容いたします」
「ザルバ、頼むぞ。ルノクスのことも何か解るかもしれない」
「お任せください、カザト艦長」
ほどなく「ベガ」から救助艇が飛び立った。それを見送るサリナは「アマネ」もあのカプセルロケットのように、今も漂流を続けているかもしれないと思わずにはいられなかった。
「アマト」はオグマが想像したよりさらに一回り小さい船体だった。そして驚くべきことがあった。その船体の凹凸が目に見えて滑らかになっていく、そして救助艇が近づく頃には球体へと修復していた。
「ありえない、まるで生きているかのようだ」
「オグマ様、あのカプセルには自動修復機能でもあるのでしょうか、それとも我ら虫人の『ゴラゾーム』に似た細胞でコーティングされているのでしょうか?」
「ザルバ、あれを見ろ。アマトが動き始めた」
二人は「アマトが黒色惑星の引力に捕らえられた」と思っていたのが、実は間違いであったことに気づいた。アマトはゆっくり船体を回転させ、船首を上空に向けたのである。
「着陸するつもりか、ザルバ艦内の二人は目覚めたのか」
「いえ、全て自動プラミングの模様です。しかしあのままですと大地と衝突し、粉々になるでしょうし、何よりカプセルにはもう逆噴射用のエネルギーは残っていないはずです」
「惑星の引力により、次第に速度が速くなる。そろそろアマトに曳航用のアンカーを打ち込む用意をしろ」
「いつでも発射できます」
「よし、ザルバ。撃て、はずすなよ」
「もちろん、アンカー発射!」
アマトを安全に着陸させるためのアンカーが打ち込まれた。
「オグマ様、あれを……」
「ば、馬鹿なっ!」
アマトは複数の補助ブースターを使い直前で進路を変え「アンカー」の狙いをやり過ごした。オグマは驚いた。
「アンカーを拒否しただと……」
救助艇に警告ランプが灯った。
「ベガから緊急連絡、すぐここを離れよとの連絡です。キャステリアのタキオン粒子砲から「リノチウム」のカートリッジ弾が打ち出されたようです。このあたりを通過します、大変危険です」
「一体、キャステリアの解体班は何をやっている。味方を狙って砲撃するとは、仕方ないすぐに反転、退避する」
「許せ、地球のカプセルロケット。アマトよ」
オグマはそうザルバにも聞こえるように言った。しかし……
「オグマ様、機関に異常あり。制御不能、退避できません」
「何っ、何ということだ。このままではアマトともどもタキオン砲の直撃にあうぞ」
「着弾まであと30秒」
アマトがさらに加速し始めた。そしてついに制御不能の救助艇を抜き去ろうとした、ザルバがこう叫んだ。
「アマトから連絡、アンカーを再度発射せよ、我に続けと……」
「馬鹿な、それは確かにアマトからの連絡か」
「間違いありません、いかがいたしましょう」
「アンカーを発射しろ、ロケットを操縦しているのは「AI(人工知能)」を持つものかもしれない。カグマ博士の研究していたインセクトロイドに似たAIを持つ……」
「アンカー発射、タキオン砲の着弾まであと20秒」
連結した艦はタキオン砲の直撃を受けるとまばゆい光に包まれた。サリナはその様子を地上のベガで見続けていた。彼女の体は少し震えていた、しかし突然のことに瞬くこともできなかった。




