66.漂流艦
漂流艦
急ピッチで進んだエンジン換装とは違い、ベガの「艤装」は思う様にはかどらなかった。主要なパーツをキャステリアから外し、ベガから不要なものを取り外すのは手間もかかる。しかし再び外宇宙に出発するためには改良しなければ不安だった。サリナはオグマが焦らない様に、なるべく艦長室から出ない様にしていた。
「艦長、入ります」
オグマの声だ。サリナは平服のままヘルメットも外していたがオグマの入室を許可した。
「よし、入室を許可する」
オグマは認証を終え艦長室に入室すると、幾分高揚した顔で早速サリナに報告した。
「艦長、収容した5体の虫人のことですが、残念ながら3体は完全に石化してしまいました。残る2体の石化は止まりましたが回復する兆しは今のところ見られません。ただ回復液は虫人の体内に徐々に浸透しております。彼らが回復する可能性はまだ残っております、今しばらくこの星に止まり、彼らの回復を待ってはいかがでございましょう?」
「しばらくとはオグマらしくないな、いつこの星を出発つのだ」
「36時間後には必要なパーツの積み込みは完了します。あとは航行中での作業が可能です、回復液はそれまでに効き目を表すはずです」
「よし、出発はそれまで延期する。乗組員ファイルはできたのか」
「はい、古参18名、ザルバを含め収容者8名。艦長と私を加え28名です。回復の可能性の残る2体は含まれてはおりません。ただ彼らの名前は判明いたしました」
「そうか、なんという名だ」
「レガータ、そしてもう一人はデュランだとザルバが申しました。ザルバの乗っていた艦の元乗組員です」
アマネではない、サリナは少し安心して、そのファイルを受け取るとオグマにこう指示した。
「出発まで、食用キノコを甲板に上げ、少し外気に当てておけ。それから流星群を乗り切るために哨戒艇を整備しておくのだ。タキオン粒子機銃とカートリッジ弾は、キャステリアのものが使えるはずだ。オグマ、きっかり36時間後には出発する。ところでルノチウムの補給はどうなっている?」
「現在76パーセント。すでにシリウスエンジンの試運転も完了しております」
「よし、乗組員にも伝えておけ。他に気になることはないか」
オグマは一瞬迷った。些細なことだ、思い過ごしかもしれない。だがサリナはその顔色の変化を見逃さなかった。
「オグマ、あるのだな……」
「実は……」
「キャステリアの航跡レーダーに新しい反応が現れました。とても小さなものですがこの星に向かっております」
「それは不思議だな、今までレーダーに反応しなかったのか」
「おそらく隕石程度の大きさかと、その推進システムはほとんど稼働していないと思われます」
「漂流艦か、乗っているのは我らの仲間なのか」
「不明です、もしかするとルノクスの新型探査ロケットかもしれません。このままだとあと数時間でここに墜落するでしょう」
「ルノクスは母星とともに消滅したのではないのか?」
「ゴリアンクスは大爆発後にブラックホールとなりましたが、ルノクスは消滅を免れたようです。ロケットはその方向から飛来したもののようです」
「よし、そのロケットを救助する。哨戒機と救助艇を飛ばせ」
「承知しました」
オグマは一礼して部屋を出た。
「隕石程度のロケットか、緊急用の脱出カプセルだろう。あの不可解な流星群やゼロのことが何かわかるかも知れない、うううっ」
サリナは左の頭部の腫瘍が痛み始めた。その表面のヨミの紋章が緑色に光りそして細い触手が伸び始めた。
「少し成長している。このところ収まっていたというのに、外宇宙に長く居るせいだろうか……」
サリナはそう呟き艦長服に着替えた。皮の眼帯をし、ヘルメットの中に金色の長い髪を押し込んだ。彼女は電子サーベルを取ると艦橋に向かった。
一方、オグマはもう一度「ライフ・カプセル」のある船倉に降りて行った。回復液の補充のためだった。「漂流艦救助」の指揮をとるため定刻の見回りではないが、石化した仲間の様子が気になっていたのだ。
「おや、誰かいる……」
それはザルバの姿だ、彼は休憩時間だった。
「仲間の事が気になるのか、心優しい奴だ」
ザルバはカプセルに手のひらをつけて覗き込み、ようやく石化が止まった虫人を励ましていた。
「ザルバ……」
オグマは言葉を飲んだ、ザルバに呼応するかのように「ライフ・カプセル」内の虫人が彼に手のひらを重ねていた。ザルバが振り向いてオグマに礼をした。
「オグマ様、お早いお立ち寄りですね。見てください、かなり回復しています。彼らは生命力が強い、まるで今にも動きそうだ」
近寄ってカプセルを覗いたオグマは、短時間で石化がとけた虫人をまじまじと見た。もちろんまだ心臓の鼓動はしていない、もう一体にはまだ変化がなかった。
「わしにはたった今、彼が動いているように見えたが……」
「だといいですがね。デュランは歴戦の戦士ですから、これからきっと役に立つ。レガータは彼のパートナーですが、まだ今はなんとも言えません……」
「二人はお前と同じ艦にいたのか?」
「ええ、ずっと一緒ではなかったのですが付き合いは長いです」
館内に短い連絡が入った。
「艦長がお呼びです、オグマ様、ザルバ様」
「行こう、またその話を聞かせてくれザルバ」
「そうですね、また」




