27.呼び戻された記憶
呼び戻された記憶
舞人はリムジンの中、ようやくアガルタ調査隊での記憶を取り戻した。それだけではない、彼が知るはずのない過去の出来事「先の大戦」その始まりについても、彼の脳裏にはまるで昨日のことのように浮かぶ。エドゥルの指により、彼の脳は新たな記憶のシナプスを作り始めていたからだった。
「……これは、これは俺の記憶なのか……」
彼は月を見上げていた。その夜はスーパー・ムーンの日だった。弾けんばかりの満月からこの地球に向けて青い月光が降り注いでいた。その月光「ルナティ86(エイトシックス)」とかつて呼ばれた光の中に「「ルノチウム」が大量に含まれていることを亜矢の父である「橘 雄馬」が最近明らかにしていのだ。
<ルノチウムはニュー・トリノを凌駕し、すべての物質を通り抜ける。それは細胞内核に置かれた「ミトコンドリア」にまで到達し、その際に数々の情報を「置き土産」として残し、やがて彼方に飛び去る。それこそが地球の生物を爆発的に進化させ、多様化させた。また同時に過去の大絶滅も幾度となく引き起こした……>
それが博士の「ルノチウムに関する考察」という論文の主旨だった。
いうまでもないが亜矢が幼少の頃、巻き込まれた「シード・モンスター」との戦いもそれが原因だった。(※「満月少女亜矢」より)
その頃地球では枯渇したエネルギーの代替として月面の「ヘリウム3」に着眼していた。それは「ジーザス・コア」と名付けられたプロジェクトへと進行していった。サンパウロ、パリ、オロスそして日本のアカデミアを核に世界政府関係者のチームが結成され、月面調査が始まる。責任者の一人として橘博士は国連から要請された。そして数度の移送実験が成功すると、新たな希望が人類にもたらされる。新しいエネルギーとして人類はついに「太陽」を手にするのだ。
しかし本格的な「ヘリウム3」の採取・移送を開始する直前に、博士は月面基地で突然消息を絶った。「ジーザス・コア」は博士の死後に暴走を始め、世界中で大規模な誘爆が始まったのである。その膨大なエネルギーは核爆発など比較にならない。それが「先の大戦の引き金」となったのである。
「あの月が地球の太古の生き物を進化させた、そして皮肉なことにそれを明らかにしようとしていた博士の命を奪ってしまった。月面のヘリウム3を地球に持ち込む際のリスクなど誰一人言い出せなかった。電気のない生活に耐えることなど最初からしようともしない。使えそうなものは何であろうとむさ掘るように使うだけだ、そしてあの太陽さえ手に入れようとした。人間はなんて愚かなことをしてしまったんだ……」
「……何をする、お前は誰だ……」
リムジンの中でマイトがうわごとを言った。
「彼は、今何を思い出しているのかしら?」
「サクヤ、気になるのか。マイトが思い出しているのはおそらく君も知っている博士の記憶だろう」
「長官は何でもご存知ですね。時々恐ろしく思えるくらい」
「はっはっは、俺もマイトと同じように選ばれたものかも知れんぞ」
「まさか」
そう答えたサクヤは、別のことを考えていた。サクヤは長官によってオロスの谷のクレバスから運び出された際、以前の記憶をほとんど失っていた。
「私がいつ作られたのかわからない。私はインセクト・ロイド。でもマイトたちとはどこか違う記憶が私には残っている、私はそれが何かに制御されているのがわかる。解除する方法については不明だけれど……」
「長官は、橘博士とお知り合いだったのですか?」
オウルを結成する際、亜矢を「知り合いの娘」とだけ紹介した長官にサクヤはずっと聞こうと思っていた。何も言わない彼にもう一度サクヤは尋ねた。
「長官もアカデミアのご出身なのですか?」
「まあ、そんなところだ。もっとも、彼と席を並べたことはない、私は工学系で新素材を研究していた、おまけにアカデミアを休学中にあの事故が起こってしまった。きっと最終学歴はアカデミア中退だろうな、彼や亜矢とは違って私は落第生。亜矢が彼の娘だと知ったのはほんの偶然からだ」
「偶然……」




