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014-ダンジョンに入ろう


 草原のど真ん中に、突如現れた扉。

 材質は木。枠があり、金属製の取っ手がある、シンプルな作りだ。


 ……なんだこれ。


「あっ、これ! ダンジョンです! ダンジョン! わたし、初めて見ました!」


 ラナが扉を指して言う。


 ダンジョン。

 こ……これが、ダンジョン、なのか……?


「この扉がダンジョン……。いや、入り口ならば、扉があるのは必然? つか、人工物じゃねーか。こんなんありかよ」


 扉にほんの少し近付き、さらに横へ進んで、扉の裏側に向かう。

 扉の裏には何もない。ホントに扉しかない。


「えー、この扉がダンジョンの、入り口って事でいいの?」

「はい! 凄いです! こんな街の近くでダンジョンなんて、聞いたことないです!」


 ラナさんテンション高いっすね。

 いやしかしこれは、何と言うか、記憶に引っかかりが、あるような、ないような……


 まあ、今は目の前の現実を考えよう。

 ダンジョンが現れた。何故、このタイミングで現れたのか。

 それは多分、先程『ダンジョンマップ機能』が解放されたから、ではないか?

 つまり、このダンジョンは、スマホこいつが呼び出したシロモノである可能性が、高い。


「ダンジョンって、街の近くには出ないもんなの?」

「はい。街とか街道とか、”魔除け”の近くには、弱いモンスターしか居なくて、もっと強いモンスターが居る所じゃないと……」

「んん? すると、ダンジョンそのものも『強いモンスター』扱い?」

「多分……」


 はっきりしないのね。

 とはいえ、それはしょうがない。本来”星無し”冒険者には無縁のモンスターなんだろうから。それでも、聞くだけ聞いた方がいいか。


「この扉自体に危険はある? 開けた瞬間は?」

「いえ、入り口に何かある、という話は、聞いた事ありません」

「このまま放置すると、どうなるの?」

「さあ……?」

「扉の中は別世界……だっけ?」

「はい! 洞窟だったり、迷宮だったり、雲の上だったり、ダンジョンによって色々あるそうです! 宝石だらけのダンジョンで、お金持ちになった冒険者もいるみたいです!」


 うむ。なるほど。ラナが聞いたのは、成功した話ばかりで、失敗談が無いな、きっと。


 さて、それでは、この目の前の扉、ダンジョンをどうするべきか。

 ――考えるまでもない。入ってみるつもりだ。


 このダンジョンに入るべきだと、状況が訴えている。お膳立てされている。露骨に誘導されている。ここで安全策に走っては、”冒険者”たる資格が無い。

 ……などと恰好良く言ってみせても、実の所、チュートリアルダンジョンだから何とかなるだろう、という無責任な考えがあるからだったりする。


「よーし、じゃあ、ちょっと入ってみるか」

「はい!」


 ラナも、槍を両手で握り、耳がピンと立って、実にやる気マンマンだ。

 俺はゆっくりと扉の前まで進む。見た目は何の変哲もない、ただの扉だ。

 扉の取っ手を掴む。金属製だが、機械的な構造は一切ない、本当に手で掴むだけの取っ手である。押すのか引くのか一瞬悩み、試しに少し引いてみたら、扉が僅かに開いた。

 俺はラナに視線を向けて頷く。ラナもこちらを見て頷く。俺は一回深呼吸をし、慎重に扉を開いた。


 ◇


「うげっ、こう来たか……」


 開いた扉から中、つまりダンジョンに侵入した俺は、内部を確認してそう愚痴をこぼした。


「わぁ……、真っ暗ですねぇ……」


 ラナが入り口から首だけ中に入って、周りをキョロキョロ見回している。

 そう、ラナの言う通り、このダンジョンは真っ暗なのだ。今現在は扉が開いているので、外の光が入って来ているが、見る限りそれ以外の光源が無いので、奥に進む為には光をなんとかしなければならない。


 入り口すぐの空間は、それなりの広さの部屋であるらしく、床および扉脇の壁は石のブロックを組んだ物で出来ている様だ。これならば、松明を燃やしても延焼の危険性はないだろう。


「でだ、ラナ、松明って持ってる?」


 俺の問いに、ラナは首を振って否定する。持ってないかー。

 初めてのダンジョンアタック、速攻で撤退の予感である。


「あっ! 何か光ってますよ!」


 ラナが何かを見つけた様だ。光っている? 光源に使える物だろうか。

 だが、周囲を見回しても、光っている何かを見つけることができなかった。


「違います、ソラさん、そこ、そこが光ってます!」


 ラナが指差す先は俺。の腰にあるポシェット。確かにそこから光が漏れている。このポシェットの中にはスマホしかない。つまり……。


 スマホを取り出すと、片面が白く発光している。いつもの画面と違って、光によって周囲が照らされている。


「明りの魔法もあるなんて、凄いですねその石板!」


 ああ、うん、そうだね。スマホって照明代わりにも使えるんだよね。


 光っている面の裏側を見ると、今まで通りの画面が目に入る。『ライト機能が解放されました!』という表示はさっさと閉じて、『マップ』機能を呼び出すと、自動的に『ダンジョンマップ』に切り替わった。


 『ダンジョンマップ』機能は、スマホの光で照らした範囲が自動的にマッピングされる、という動作になっているらしい。外でのマッピングと違って、壁の向こう側は分からないようだ。まあ、その方がダンジョン探索らしいと言えばらしいんだけど。


 しかし、これはつまり、ダンジョンアタック中の俺は、常に左手にスマホを持っている必要があるのではないだろうか?

 ラナを中衛に置いて、自分は剣での前衛をやるため、片手盾をそのうち買おうと思っていたんだが。普段とダンジョンで戦い方を変えるのは、どうなんだろう?

 ……まあ、今はいい。その辺は後回しにしよう。


「明りの問題は解決した。このまま奥に進もう」

「はい」


 入り口にいたラナが完全にダンジョンの中に入ると、扉が自動的に閉まった。

 っておいぃぃ!? 何勝手に閉まってんの!?


 思わず扉に駆け寄って、力を籠める。あ、開いた。

 全く、心臓に悪いぞ今のは。明りが無かったら確実にパニクってたわ。

 扉を開けた状態のまま、後ろに下がって離れると、また勝手に扉が閉まった。


「へぇー、ダンジョンの扉って、勝手に閉まるんですねー」


 ラナは全く危機感の無い顔で、そうのたまう。お前はもうちょっとこう、慎重さをだな。


「はあ……。まあ、いいや。進もう、進もう。警戒をしながら、慎重かつ大胆に進もう」

「???」


 入り口の時点で、割と疲れてしまった。

 今日はもう帰りたい。帰ればよかった。



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