015-初ダンジョンを探索しよう 前編
左手に持つスマホを照明とし、石造りの真っ暗なダンジョンを探索する。
入り口のある部屋から奥に進む通路に入り、今の所、ルートは一本道である。
罠を警戒して慎重に進んでいるが、それらしい物は見当たらない。別に罠発見の特技とかある訳じゃ無いんだけど、避けられるものは避けるべきだろう。
スマホの光に照らされた通路に曲がり角が見えた。というタイミングで、ラナが声を上げた。
「あっ……! 奥に、何か……」
何かって何だ。奥に何かが居て、その音をキャッチしたのか?
曲がり角までだいたい七~八メートル。ここで選択です。前に進んで曲がり角から確認すべきか、待機して向こうの出方を待つか。
俺の選択は『待ち』だ。ちょっと情報が足りない。
「……ラナ、何か判るか?」
光源はスマホのみ、しかも前方の地面へ向けているので、後方のラナの方へは反射光、つまり光の照り返ししかない。そのため、なんとか顔が見える程度なのだが、狐耳がピクピク動いているのが確認できた。
「何か硬い物がぶつかる音が……けど軽そうです。ゆっくり近づいてきます……」
俺には何も聞こえない。という事は、結構な距離があるのだろうか。
「……よし、ならそこの角まで進もう」
角まで音を立てずに進み、顔とスマホだけ角から出して奥を見る。
奥に見えたのはまたもや曲がり角。右折の次に左折が来て、進行方向は変わらないが、奥を見渡せない造りになっている感じだ。
カシャン…… カシャン……
ここまで来て、ようやく俺にも音が聞こえた。確かに近づいて来ている。一定のリズムで繰り返される、乾いた音。だいぶ近いな。もうそろそろ、向こうの角から出てきそう。
来た。角から出てきたのは、白っぽくて、細くて、二足歩行の――骸骨。
「ひぅっ!?」
「……スケルトンか」
限られた光源の中、暗闇に浮かび上がるスケルトン。お化け屋敷では使い古されたシチュエーションだが、効果は抜群だ。ラナが固まってしまった。
スケルトンはまっすぐ角から出て、通路の中ほどまで来て方向転換、こちらを向いた。そこでようやくこちらに気付いたのか、顎をカタカタ鳴らしながら両手を前に出し、近付いて来る。速度は変わっていない。まだ猶予はある。
「ラナ! 行くぞ!」
固まっているラナを抱き寄せ、狐耳に直接声を流し込む。声にならない声を上げもがくラナを放ち、角から出てスケルトンと相対する。スケルトンは相変わらず、ゆっくり近づいて来ている。こちらの行動に対応する気配がない。……知能が低いのだろうか。
「っせい!」
気合一閃。前に突き出されたスケルトンの手を狙って剣を振る。バキンといい音が鳴り、指の骨が床に散らばり、腕の骨も肩から外れてしまった。うわコイツ脆いよ。
片腕が吹き飛んでも、スケルトンは気にせず近付いてくる。残った腕にも剣を叩きつけると、またもやバラバラに飛び散る。それでも近付いてくるので、腰骨を蹴りつけて床に転がすと、今度は全身がバラバラになってしまった。
「あれ? 意外と弱い?」
床に散乱する人骨を眺めながら呟く。一応、ラナに聞かせる為に声を出した。ラナもちゃんと反応している様で、槍を構えながら近付いてくる。
「き……気を付けて下さい。アンデッドのモンスターは、普通のとは違う、らしいですから……!」
ラナの言葉が終わる辺りで、床に散らばった骨が動き出す。ちょっとづつ動いて人の形を取り戻そうとしている。ううむ、勝利条件が分からん。
とりあえず、足の骨の、脛の辺りが脆そうだったので、思いっきり踏み潰してみた。細い骨がポッキリ折れたが、効果が有るのか不明である。
「えー、どうすんだこれ……。試しに頭を潰してみるか」
大きく形が残っている頭……頭蓋骨に剣を叩き込む。
ガスッ!
数センチ、頭蓋骨に剣が食い込んだ。すると、集まろうと動いていた骨が一瞬止まったのが見えた。ははーん。中枢はここなのかな?
頭蓋骨に食い込んだままの剣を振り上げ、床に叩きつける。ガスッ! ガスッ! と床に叩きつけられる頭蓋骨は切れ込みが大きくなり、ついには割れてしまった。
頭蓋骨が割れた瞬間、人の形に集まっていた他の骨はバラバラに散り、動かなくなった。これで倒した事になるのだろうか。
うん。しばらく待ってみても動かなかったので、倒したと言ってもいいだろう。
「よし、コイツは頭が弱点って事で。……しかし、アレだ。倒したはいいが、素材はどうなるんだ?」
動かなくなれば、どう見てもただの人骨である。あまり持ち歩きたくない代物だ。ラナに聞いても、素材部位は知らないと言うし。
ならばとスマホで回収してみた所、白い小石が回収された。
「……なんだこれ」
取り出してみたが、親指の先程度の白い石だ。骨とは違い、透明感がある上、みっしりと重いので、出所がさっぱり分からない。
二人して頭に疑問符を浮かべた所で、答えが降ってくる訳でもなし。ギルドに売れる事を期待して小石を仕舞い、探索を続ける事とした。
何度か曲がりくねった道を進んだ所で、初めての分かれ道に到達した。
右か、左か。さて、どうするか。
あまり深く考えずに、左を選択する。ゲームのダンジョンでも、左を選択する事が多いような記憶がある。この辺は性分だから、どのみち深い理由は無いと思う。
左に進んだ先には、小部屋があった。部屋の中には、床に散乱した骨と、中央奥に木箱が一つ。
来た。多分、お宝と罠のセットだ。
「……あの箱の中身は、何でしょうか……」
身を乗り出し、食い入るように木箱を見つめるラナ。俺を無視して箱に向かわなかった事を褒めてやるべきだろうか。
「周りの骨を見ろ。きっと襲ってくるぞ」
「えっ……罠、ですか?」
「多分な。箱に近付いたら動き出すんじゃないか?」
スマホを動かして部屋の中を改めて確認する。骨と箱以外は特にない。見た感じ、骨の中には頭蓋骨が無い。有ればあらかじめ潰しておくつもりだったんだが……。
「それじゃあ、諦めるんですか……?」
捨てられた子犬みたいな声で言うな。誰も諦めるなんて言ってないだろ。
「いや、行く。罠を承知で進むのも、冒険者の仕事だ」
「っ、はい!」
慎重に部屋の中へ踏み込む。落とし穴とか、床の仕掛けを警戒してややすり足気味だ。そのまま箱の前まで来たが、特に何も起きない。
「……動きませんね?」
「まだ箱に触ってもいないんだ。油断するなよ?」
木箱を観察する。横二十センチ、奥行き十五センチぐらいで、思ったより小さい。釣り針状の簡素な留め金があり、鍵は付いてない様だ。
木箱を剣で突っつく。……何も起きず。
木箱の留め金を外す。……何も起きず。
木箱の蓋を開く。……何も起きず。
木箱の中を覗き込む。中には布袋があった。クソが、二重包装かよ!
布袋をゆっくりと持ち上げる。ジャラリ、と中の物が鳴る。手元まで持ってきたが、中には一体何が――
カランカラン!
背後で何かが落ちた音。明りを向けると、部屋の入り口の前に、頭蓋骨が二個、落ちていた。即座に周囲の骨が頭蓋骨の元に集まってゆく。
「動いた! 動きました!」
「強制戦闘トラップか。しかも二体」
どうする? 数は互角、一対一でぶつかるか?
いや、ラナが不安だ。スケルトンに槍は相性悪そうだし。光源を俺が持ってるし。
布袋をズボンのポケットに突っ込んで、剣を抜き放つ。スケルトンはもう組み上がっている。
「俺が前に出る!」
向こうに距離を詰められる前に接近。
スケルトン達が手を前に伸ばしてくる。行動パターンは同じか? 剣を横に薙ぎ、腕を飛ばす!
ガギャッ!
左のスケルトンの腕二本にダメージを与えた所で、剣が止まる。ああ、この剣、軽いから、こういう質量攻撃苦手なんだよね。
攻撃効果確認。左のスケルトンは、右手が肘まで、左手は肩まで吹き飛ばした。右スケルトンは健在。
手首のスナップを効かせて、剣の腹で右スケルトンの手を叩く。パキン、ビシン。指の骨が欠けてゆく。
こいつら腕を前に伸ばすから邪魔なんだよな。武器の射程が長ければ、腕を無視して直接頭蓋骨にダメージを……って、あるじゃん、射程の長い武器が。
「ラナ! 槍で頭を狙ってくれ!」
「はっ、はい! ……えりゃっ! ていっ!」
俺のやや後方で構えていたラナが、右スケルトンの頭を狙って槍を繰り出す。一突き目、頭蓋骨の丸みに弾かれる。二突き目、キレイに目の穴に刺さる。
すると、途端に右スケルトンは動きを止め、首から下が崩れていった。槍に刺された頭蓋骨だけが宙に残されている。撃破か。
「よし、やったな! 残すはもう一匹――」
いつの間にか左スケルトンは、俺の左手のすぐ近くまで来ていた。スマホの明りが照らす範囲の、やや外側。奴は、再構築した右手で、俺の左手を掴み、
ドクン!
「はっ、ごぁッ!?」
――急に左手の、全身の力が
カシャン! とスマホが床に落ちる音が鳴り響いた。




