012-ラナの武器を変えよう
テッサの街に帰る途中、スマホの素材回収機能をラナに説明した。今回判明したデメリット込みで。
モンスターの死体のうち、何が『素材』として残るのか、そしてその『素材』が実際に価値のある代物なのか。現状では不明な点が多いので、乱用は避けた方がいいと結論付けた。
「でも、死体の処理をしなくて済むのは、けっこう利点なんだよなぁ」
戦闘終了後、捌いたり埋めたりといった後始末が無くなるため、狩りの効率が上がるのは間違いないし、安全の面でも優れている。
とはいえ、それで貴重な素材部分が消えてしまっては話にならない。
「その……、貴重な部位を取ってから、素材化の魔法を使ってみるのは、どうですか?」
「あー、その手もあるか。試してないなぁ。そのうち試さないとなぁ」
結局の所、余裕を見て、試してみるしかないのだ。
日が傾く前にテッサの街に帰って来た。
冒険者ギルドの別館へ行き、素材買い取りカウンターに男爵バッタの後脚を売却する。
カウンターのおっさんは、横の秤で重さを計って、青貨三枚を差し出す。
シケた金額だが、依頼のない素材の買い取りは基本、こんな感じらしい。こうやって安値で得た素材を、後でまとめて高く売るのが、ギルドの商売だと俺は見ている。まあ、それに文句はない。人件費だって沸いてくる訳じゃないし。
「さーて、次は武器屋だな。ラナが知っている店はある?」
「武器ですか? 大通り沿いにならいくつかありますけど……」
大通り沿いに歩いて数店の武器屋、武具屋を見回り、ようやく目的のモノを発見する。
俺は壁からソレを手に取り、一通り確認した後、ラナに渡す。
「はい、次からコレ使ってみよっか」
「えっ? こ、これ……槍、ですよね?」
そう、槍だ。
しかも、柄は木製、穂先は木の葉型の鋼鉄製で、一見してただの槍に見える、正真正銘のただの槍である。
長さは丁度ラナの身長ぐらい。装飾の全くない、文句なく数打ち(量産品)の槍だ。
気になるお値段は――なんと銀貨三枚! キャー、ヤスゥイ! ステキー!
ラナ用に槍を探してみたものの、店に置かれている槍は、どれも対大型モンスターを想定しているのか、大きくて頑丈なシロモノばっかりで、女子供が使うような小型の槍が少ないのだ。
結局、歩兵用の間に合わせ品を短くした物を、ラナ用にチョイスした。
臆病なラナを、モンスターの正面に立たせて戦わせるのは、現実的ではない。ゆえに、中距離で戦える槍である。弓も考えたが、弓は”使える”ようになるまで時間がかかり過ぎる。
「本当なら、槍でなく薙刀、さらに巫女服が欲しい所だが……」
「『ナギナタ』ですか?」
「いや、今のは何でもない。忘れてくれ」
おっといかん。妄想が漏れてしまった。
狐耳に薙刀巫女服は俺のジャスティスだが、ゲームのアバター衣装ならともかく、こっちは現実なんだ。趣味装備で性能犠牲なんてやってるヒマは無い。無いんだ。だから諦めろ俺!
「で、でもわたし、槍なんて、使った事ないですよ……!」
「いや、それでも今の剣よりはるかにマシだから。マジで」
「そんな……」
「お前槍の利点判ってないな? ”遠くから突く”だけでも凄く強いんだぞ?」
射程距離というのは、戦闘において圧倒的なアドバンテージを誇る。それに今はパーティーだからな。槍の欠点である、近接戦闘の弱さをカバーできる仲間がいる。武器のチョイスとしては問題ない。
購入した槍を魔法の小袋に入れる。不慣れな槍を街中で持たせるのは普通に危ないからだ。
店を出ると、もうすっかり夕方だった。街を歩く同業者が増えている。
これは、早めに宿を確保する必要があるな。
◇
――薄暗い宿の一室。
「そっ、ソラさん……! それ以上はっ!」
「ククク……そう怖がるな、ラナ。お前がおとなしくしていれば、俺だって手荒な事はしない」
「あっ、やっ、そこはっ!」
「ほう……お前のここは、こうなっているのか」
「そんなっ……それ、以上は、触ら、ないで……!」
「そう言われてもな。……お前の、この”耳”が、こんな構造になっていたとは……」
二人一部屋の安宿を確保した俺達は、夕食後、お楽しみタイムに入っていた。
お楽しみタイムと言っても、楽しんでいるのは俺だけだ。何故なら、俺がラナの狐耳を存分に撫で回しているだけだからだ。
ラナはこういう事に免疫が無いらしく、さっきっから過敏に反応しっぱなしだ。
さて、問題の狐耳だが、触診の結果、耳の基部は普通の人間と同じく、頭の両サイドにある事が分かった。耳の穴は真っすぐ横に抜けるのではなく、上に伸びており、結果、頭の上に耳が出来る形となっている。
確か、人間の耳が頭の横にあるのは、脳が大きくなって、上にあった耳が横に押しやられた結果、だったハズだ。
となると、この狐耳含む獣耳は、いかようにして耳の位置を維持できたのか。
解剖すれば分かるかもしれないが……さすがに俺もそこまで悪趣味じゃない。手触りからして、頭蓋骨の側面がやや凹んでおり、そこに耳の穴が通っている雰囲気ではあるが……。
耳の穴が側頭部に沿って上に伸びている関係上、耳の穴全体が長くなっており、その周辺の神経も過敏になっている傾向があると思われる。
また、こうやって観察していくと、妙にもみあげ周辺の髪の量が多い事に気付く。これは耳の基部を髪で覆い隠して、防護する役目を負っているのではないだろうか。
この『獣耳問題』は、獣人の登場するファンタジー物において、常に話題の上がる問題である。物語中にまったく描写をせず、スルーする作品もあるが、逆に拘って設定を詰める作品もある。その設定は、
・頭の上の獣耳は、頭の上に実際に生えている。
・頭の上の獣耳はフェイクで、ちゃんと人間の耳がある。
・人間の耳と同じ位置に、獣の耳が生えている。
等がある。
頭の上に獣耳が実際に生えているパターンが一番多いが、そこに生物的な解釈を持ち込む作品はあまりない。そのため、『獣人の頭が悪いのは、耳が上にあるせいで頭蓋骨に大穴があり、脳の容量が少ないから』というモノもまである。
今回、俺が確認した獣耳の構造は、この分野における一つの回答ではないか、と考える事ができるだろう。
おっと、ラナが涙目で震えている。
純粋な学術的興味で始めた事だが、我を忘れて触りまくってしまった。
「いやぁ、スマン、スマン。こういう耳をじっくり見る機会なんて、なかなか無いもんでな……」
「はぅぅ……」
ラナは、耳をぺったりと倒し、手で押さえてうずくまってしまった。こうなってしまっては打つ手はない。時間を置いて回復を待つのみである。
それにまだ狙っているパーツがあるのだ。御尻尾様が。
とはいえ、こちらは難易度が高いので、ゆっくりやっていこうと考えている。
二段ベッドの上に上がって寝転ぶ。ここの部屋は狭い。部屋の半分がベッドで潰れており、残り半分は扉の幅しかない。本当に寝るだけの宿だ。だからこそ、冒険者にとっては安くて助かる宿となる。
明日の予定を考える。朝イチでギルドに行き、街周辺でこなせる依頼を受け、ラナの槍を修練しながら、モンスターを狩る。
スマホのチュートリアルを確認。
『パーティーでモンスターと戦おう!(2/5)』
おそらく明日中にはクリア出来るだろう。
クリアして次に何が出るのか。いつまで続くのか。
記憶も目的意識も薄い俺にとって、このスマホによる指示は生きる目的そのものだ。いや、それは言い過ぎか。選択肢のうち一番上にあって、他の理由がないのなら選ばれる、ぐらいかな。
ともかく、冒険者として生きることを誘導された以上、今後もモンスターとの戦いが続くことは間違いない。
出来れば、死なない程度にやっていきたいものだ。




