011-二人でモンスターと戦ってみよう
テッサの街、北門から出て畑を抜けると、草原のエリアがある。
俺にとっては本日二度目の北エリアだが、今回は森へは行かず、草原を回ってモンスターとの戦闘を行う方針だ。
街道から草原に出る前に、スマホのピクチャフォルダに保存されている、ギルドで撮ったモンスター地図を確認する。
「草原に出るモンスターは……『草むらイタチ』と『男爵バッタ』か」
スマホの翻訳機能が仕事しているのか、ずいぶん判りやすい名称になっている。
森に居るムカデも『フシハネムカデ』に変わっている、というか前の名前忘れた。これは翻訳機能が記憶ごと書き換えているのか、俺の記憶力自体がダメダメなのか、判断が難しい所だ。
腰から剣を抜きつつ、ラナに話し掛ける。
「周囲に気を付けながら進もう。音とか注意してもらえると助かる」
「あわっ、わかりました!」
狐耳をピンと立てて答えるラナ。手には既に片手剣を握っている。
彼女の装備は片手剣を抜かすと、革のジャケットに布手袋、腰の大き目なポーチ以外は、どこぞの村娘といった出で立ちである。というか、実際に村娘装備から少し武装を買い足しただけなんだろう。
余裕があれば、服も何とかしたいなぁと考えながら、草原へと足を踏み入れた。
草原には時折、丈の高い草が密集している所があり、そこにモンスターがいる確率が高い、らしい。
ラナから聞いた情報である。
彼女はそういった個所を避けて採取を行っていたので、その逆を行けば、モンスターに遭遇しやすいという塩梅だ。
その密集個所に近付くと、キチキチキチ……という何かをすり合わせるような音が聞こえて来た。
ラナが音を立てないように近寄ってきて、小さな声で告げる。
「たぶん、男爵バッタの、警戒音、です」
自分から居場所をばらすなんて、ずいぶんダメなモンスターだな、と考えたが、熊よけに鈴をつける人間と似たようなもんかと思い直す。
ラナ一人だったら、この音を聞いて即座に離れていたのだろう。
だが今回はこちらが狩る側なので、この音はいい目印だ。
剣を構え、ゆっくりと音のする方へ進む。……いた。バッタだ。
体長四十センチ程のでかいバッタが羽をすり合わせてチキチキチキ……と鳴いている。お前は鈴虫か。
男爵バッタの方も俺達を確認したのか、ぱたりと鳴くのを止め、頭の先にある触角を小刻みに動かしだした。
――先制攻撃、行けるか?
即座に攻撃と判断。剣を大きく動かさずに踏み込んで、胸の辺りに真っすぐ突き込む!
ガリッ!
硬い手応え。突きを繰り出したのはマズったか。
男爵バッタは即座に羽を広げて飛び――すぐに落ちた。
地面に落ちた男爵バッタは、羽をバタつかせて暴れているが、羽のうち一枚が動いていない。足も一本切れている。どうやら先制攻撃は成功だったようだ。
姿勢を起そうともがく男爵バッタの、胸と腹を断ち切るように剣を振り下ろす。
ザン、ザン! と二撃叩き込んで切断。触角や口はまだ動いているが、もはや死に体だ。
「わぁ、すごいですぅ~」
段々動かなくなっていく男爵バッタを観察していたら、ラナがそんな事を言いながら拍手していた。
いや、この程度で喜ぶなよ。ただのでかい昆虫だぞ。あとお前も戦うんだぞ。わかっているのかそこんところ。
周囲をササっと見回して、他に敵がいない事を確認する。ついでにラナにも警戒を促しておく。
「周囲の様子はどう? 他に敵はいない?」
「えっ? あっ、はい、多分……」
「じゃあ、次はラナに戦ってもらおうか」
「はいっ! ……えっ?」
『えっ?』じゃねーよ。今回の目的は、お前の戦闘力を確認するのが主題だからな。言ってないけど。
ポシェットからスマホを取り出し、男爵バッタの死体を画面のフレームに収め、回収する。死体が光の粒に変換され、スマホに吸い込まれていく様を、ラナが口を開けたまま見つめている。
そう言えばコイツ、スマホの超機能を直に見るの初めてか。画面も音も、俺しか確認できないから、他人からは黒い石板にしか見えないんだよな。
回収できた素材は『名称未設定の脚(2)』、バッタの後脚だ。
この素材名、こちらが入力しない限り何でも『名称未設定』になるから不便なんだよな。
「は? ……えっ? うぇ? あれ? い、いま、今の、は……?」
バッタの死体があった場所とスマホとを交互に見ながらうろたえるラナ。
「この石板は、我が家に代々伝わる凄い石板だ。様々な魔法が込められている。とても貴重な物なので、くれぐれも口外しないように」
このスマホに関して、今まで考えていた設定を披露する。この世界にはアイテム収納系の魔法があるのを確認しているので、ある程度は『凄い魔法』で誤魔化すことができると見ている。
ラナは顔を上下にカクカクと動かしている。恐怖の色が見えるな。『消えた』男達の事を思い出したか? ニヤリと悪そうな笑みをしつつスマホをポシェットに仕舞う。細かい説明を求められても困るから、このぐらいが丁度いい。
「よし、じゃあ次へ行くぞ!」
何か所か密集個所を探索するも、何もなく、次に向かったのは大き目の木の下に草が密集している個所だった。
ここでようやく男爵バッタの警戒音が鳴り、手振りでラナに向かわせる。
ラナは片手剣を両手で持って、おっかなびっくり進む。男爵バッタの警戒音が鳴り止み、そこでラナは――何もしない。おい、何やってるんだ。
そう思うと同時に、男爵バッタがラナに飛び掛かった。
「きゃあぁっ!!」
しゃがむラナ。男爵バッタはその頭上を飛び越えて数メートル先に着地。うむ、敵の先制攻撃、失敗。だが、ラナは行動不能だ!
俺は素早く男爵バッタへ向かい、頭を踏みつける。方向転換中だったので、横倒しにする格好だ。バッタは縦に細長いので丁度いい形に抑え込めた。
「よし! ラナ! 今のうちだ!」
「ふぇえ……、はい」
俺の足の下で必死にもがく男爵バッタに近付いたラナは、へっぴり腰で剣を振り下ろす。
カン!
……弾かれてやんの。チカラも重さも乗ってない、見事なまでのダメっぷりだった。
「無理に切ろうとすんな。突くんだ。腹の辺り、柔らかいから!」
言われた通りラナは腹を突こうとするが、暴れる後ろ脚が邪魔して、なかなかダメージを与えられていない。
しょうがないので、足に込める力を増やし、ゆっくり頭を潰して男爵バッタの動きを抑える事で、ようやく腹を突き刺すことに成功した。
「よーし、二匹目の討伐成功だ! やったな!」
「はっ、はいっ!」
無理矢理喜ばせたが、俺としては今後の育成計画に頭を悩ませっぱなしだった。褒めて伸ばすか、叱って伸ばすか。
あとやはり武器は変えた方が良いな。今の片手剣だと敵に近付きすぎる。となるとやはり……
二匹目の男爵バッタを素材化した後は、もう引き返す事にした。
現状、ラナが戦力にならない事は分かったし、時間も夕方になりかけ。街に帰って明日に備えるのが妥当だろう。
街道まで戻った所で、スマホ内にあるバッタの脚を取り出し、素材用の袋に入れ直す。でかいバッタの、一番太い後ろ脚だから、なかなか迫力がある。
「バッタの後ろ脚なんて、何の素材になるんだろうな?」
特に答えを期待しない独り言だったが、ラナは答えを知っていた様だ。
「男爵バッタは、食用ですよ? 全身が」
…全身? えっ、脚以外も?
「そうなの?」
「はい。確かに、後ろ脚は単価が高い方ですが……」
えぇー、なにそれ。
スマホで回収した際、後ろ脚しか残らなかったから、そこしか価値が無いもんだと思っていたのに……。
「じゃあ、お金だけで言えば、全身丸ごと持って帰った方が良かったって事?」
「えっ? 脚しかないんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
……なるほど、スマホの超機能頼りはよくないな。
あと、情報交換は、とても大事だ。




