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終末の白百合駅~陰キャな私が一人で廃駅を直していたら、なぜか美少女たちが住み着いて離れてくれない~  作者: すかいはい
第1部 廃駅に、最初の住人。

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第1駅 廃駅に、明かりが点いた。

 駅を直そうと思ったのは、人が来ないと思ったからだった。


 黒瀬《くろせ》千景《ちかげ》は、そんな理由で白百合《しらゆり》駅に住みつくことにした。


 世界が滅びてから、十七年。


 正確には、世界そのものが滅びたわけではない。人も生きている。町も、ところどころ残っている。


 けれど、昔のようには動かない。


 電気は貴重で、水道は止まり、通信網は途切れ、道路には雑草が生えている。


 そして、鉄道も。かつて人を運んでいた線路は、土砂と草に埋もれていた。


 そのうちの一つが、白百合駅だった。


 かつてはこの駅も地方都市と農村を繋ぐハブだったらしい。だが、それももう十七年前の話だ。


 千景は天井を見上げた。


「見事なものだなぁ……」


 穴がある。


 昨日まで二つだったのに、今日は三つになっていた。


 雨が降れば、屋根の穴から水が落ちる。


 風が吹けば、窓枠が鳴る。


 電気はない。


 水道もない。


 風呂もない。


 食事は保存食。


 人もいない。


「……うん。最高だ!」


 千景は満足そうに頷《うなず》いた。


「完璧……!」


 ここなら、誰にも会わなくて済む。


 それが何よりよかった。


 人と話すのは苦手だ。何を言えばいいのか分からない。


 見つめられると処理能力が落ちるし、話しかけられると正しい答えを探して硬直してしまう。


 だから、一人でいるのが楽だった。


 白百合駅は、その条件を完璧に満たしている。少なくとも、今までは。


「……さて。最低限の設備だけでも使えるようにするか」


 千景は工具箱を持ち上げた。


 今日の仕事は、旧駅務室の整理だった。


 母親から残された古い端末が一台ある。


 壊れているように見えたが、内部の構造は千景にも覚えがあった。


 昔、母が使っていたものと同じ型だ。


 ――黒瀬《くろせ》美津子《みつこ》。


 千景の母親は、旧鉄道設備の技術者だった。


 もういない。


 残されたのは、いくつかの工具と端末と、古い知識だけだった。


「たぶんここかなぁ」


 千景は端末の側面を外した。


 古びた配線を一本、予備電源用の端子に接続する。


 それから、奥に隠れていた小さなスイッチを押した。


 ――カチ。


 何も起こらない。


「やっぱり駄目か。そりゃあ簡単にはいかないよな。となると――」


 一度、手を離す。


 その時だった。


 端末の奥で、小さな電子音が鳴った。


 ――ピ。


 千景が顔を上げる。


「おっ?」


 さらにもう一度、音が鳴る。


 ――ピ、ピ。


 暗い画面に、白い線が走った。


《SYSTEM START》


「……え?」


 千景は思わず端末に顔を近づけた。


 画面に文字が流れる。


《駅務システムを起動します》


《管理者認証を確認》


《駅務管理者――黒瀬千景》


「……わ、私!?」


《認証しました》


 その直後、駅舎のどこかで低い機械音がした。


 ゴウン、と。長い間、眠っていた何かが、ゆっくりと目を覚ますような音だった。


 天井。壁。床。


 古びた配線の奥を、電気が走っていく。


 そして、駅務室の天井に、パッと白い明かりが点《つ》いた。


「おお……」


 千景は、しばらく何も言えなかった。


 たった一つ。天井の古い照明が、点いただけだった。


 それだけなのに暗闇の中では、眩しく光り輝いているように感じられた。


《駅務支援システム、再起動》


《YURI(ユリ)-OS(オーエス)、オンライン接続失敗。スタンドアローンモードで起動します》


 端末の横。何もなかった空間に、小さなホログラムが浮かんだ。


 駅員の制服を着た、少女の人影。


 輪郭は少し崩れている。顔も時々ちらついている。けれど、確かに人の形をしていた。


『おかえりなさいませ、駅務管理者様!』

「……え、駅務管理者様!? 私が!?」


 千景は、ひとしきり驚いたあとで黙り込む。ただ、返事をしないのもなんとなく失礼な気がした。


「……た、ただいま~」


 自分でも驚くほど、弱々しい声が出た。


 YURI-OSが少しだけ首を傾げる。


『音声認識を確認しました。おかえりなさいませ、駅務管理者様!』

「えっ。おかえりなさいませって、さっきも言わなかった……?」

『言ってましたね……すみません……』


 ホログラムの少女が項垂《うなだ》れる。


「落ち込むモーションあるんだ!? ポンコツなのか高性能なのか分からん奴だな……」


 千景は、ほんの少しだけ口元を緩めた。


 その瞬間、遠くで別の明かりが点いた。


 駅舎の廊下。続いて待合室。そして、入口の照明まで。


 全てではない。ほんの一部だけだ。


 けれど、十七年間ずっと暗かった白百合駅に、確かに明かりが戻っていた。


「……電気、使えるんだ」

『非常用電源が稼働しています!』

「どのくらい保《も》つの?」

『現在の負荷状況では、長時間の継続使用は推奨されません』

「やっぱ私みたいな陰キャに明るい光は似合わないってことか……」


 千景は真顔でそんな自虐をした。


『駅務管理者様が陰キャで根暗でコミュ障なのは関係ありませんよ!』

「そこまでは言ってなかったよね!? 何だ、このAI……!?」


 大袈裟にため息をつく千景。けれど、少しだけ、嬉しくもあった。

 

 こんなに大きな明かりを手にしたのは、滅びた世界で生きてきて初めてだ。


「これだけ明るいのに私一人で使うなんて少しもったいないかな……?」


 そう呟いてから千景は慌ててその思考を打ち消した。


 何をおかしなことを考えているのだろう。自分はこの駅でたった一人、自由気ままに生きていくのだ。確かにこの明かりだって他の誰かと分け合うことはできるかもしれない。だが、そんなつもりは一切、これっぽちも、全くと言っていいほどない。


 千景は、ぎこちない笑みを浮かべる。


「そうだ! この駅も、この明かりも! 永遠に私だけのものだ……!」


 ――しかし、その明かりを。


 駅から少し離れた道を歩いていた少女が見つけた。


「……え?」


 少女――白石《しらいし》ひよりは、足を止めた。


 荒れた街道。崩れた建物。灰色の空。


 いつもの景色の向こうに、ぽつりと光が見える。


「明かり……?」


 この辺りに、電気が点く場所なんてなかったはずだ。


 ひよりは目を細めた。


 間違いない。明かりだ。それも、人工的な。


 古い駅舎。ずっと廃墟だった、駅。


 確か、昔の名前は白百合駅といったか。


「……もしかして、人がいる?」


 少しだけ胸が高鳴る。


 ひよりは荷車を引き直した。中には野菜の種、保存食、水筒、それから古い農具が入っている。


 次の行き先は決めていた。集落を移動し、物々交換をしたり畑仕事の手伝いをさせてもらわなければ、ひよりは生きていけなくなる。現に、水筒の中の飲み水だってもう残り少ない。


 けれど――どうしてもあの明かりが気になった。


「ちょっとだけ。……ちょっとだけ見ていこう」


 そう言って、少女は白百合駅へ向かった。

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