第四話 『潜入準備といきまっしょい!』
しばらく歩くと屋敷が見えてきた。
さて、どう侵入しようか。
変身する対象がここから街にくるまで待機というのも無謀すぎる……。
――それならば、やはり。
「正面突破でいきますか。」
そう決めて、屋敷の扉まで歩いて行った。
ギフトは必要ないか……。
*
門番から呼ばれたので、外へ出てみると確かにエコール商会の職員がそこへいた。
灰色の髪に緑の目をしたお人形さんみたいな子だ。
まだ若い子だ。
しかし、ちゃんと黒い商会のスーツを着てビシッとしている。
――新人さんかな?
名前をきちんと名乗り、丁寧な挨拶をしてくれた。
いい子だなあ……。
頑張ってるねえ、なんて思ってしまう……。
「丁寧な挨拶ありがとうございます。
私はサイコス・ギルターと申します。」
「いやあ、こんな別嬪さんがここに一体なんのご用ですかな?」
ついつい笑顔になってしまう……。
まあ、商会からの用ならなんとなくわかるが。
「気になる噂を聞いたものですから……。
なんでも、伯爵様は素晴らしい絵をお持ちになっているとか。」
「ぜひ、鑑定をうちに任せてもらえませんか?」
――案の定だな。かわいそうだが……。
「旦那様はその絵を売却するつもりはございません。
もし、気になるのでしたら……。
5日後の展覧会に参加されてみてはいかがですかな?」
――私も気になるのになあ。
それが、どのくらいの価値なのか……とか。
そもそも、どんな絵なのだろう?……とか。
すると、残念そうな顔で。
「そうですか……。旦那様と直接話すことはできませんか?」
――うっ。
上目遣いをされてしまったー!
断れないじゃないか!
こんな孫みたいな年齢の子の頼みなど!
「……わかりました。しかし、旦那様は外出中なので、いつ頃お戻りになるか……。とりあえず、少々お待ちくだ――
そう言い終わる前に……。
「そうなのですね。それなら……。
私に、伯爵様について教えて頂けませんか?
この交渉を成功させるためにっ!」
こ、断れないじゃないかー!
「そ、それなら仕方ありません。
私の知る限りを教えましょう。
ここではなんですから……。」
言い淀んでしまう……。
――しかし、どこがいいだろうか?
私が応接室を使うわけにもいかないし……。
近くのカフェにでもいくか……。
*
――カフェにて
「ここはねぇ、私が若かりし時に色んな女の子とお茶をしていた……、由緒正しい歴史のあるカフェなんですよ。だからツケで大丈夫ですからな……? ご心配召されるな。」
そうおどけていたと思ったら……。
急に眉間に皺を寄せ、眉尻を下げる。
「申し訳ありませんねえ……。応接室を私が勝手に使うのは旦那様に悪いからね。」
そう申し訳なさそうにサイコスは謝る。
先ほどとは打って変わって屋敷の目がないからか、態度と口調が軟化している。
先ほどから思っていたが感情が顔に出やすいタイプらしい……。
ころころと、顔を変え話をしている。
しかも、人の良さそうな人物だ。
「いえいえ、無理をいってしまったのは私の方ですから。
では、伯爵様についてご教示お願いいたしますっ!」
すると、慈しむような顔で……。
「勿論。私が知ってることをすべて話しますよ。」
「えーコホン。
私が旦那様――いえ坊ちゃんと出会ったのは、坊ちゃんが生まれる少し前……。もう30年以上前になりますかな。
坊ちゃんが生まれた時からずっと一緒でした。
今こうして執事長なんぞとなるまで……。
坊ちゃんは昔から絵やら骨董品が好きだったようで、街に出ては買い集め……、街に出ては買い集め……、を繰り返しているような子でしたな。そのせいか、婚約者ももう三十路だと言うのにできなくてねえ……、
あーゴホン、それは関係ありませんでしたなあ、とにかく……、
今回の絵もそうやって手に入れたんでしょうなあ。
しかし、まったく見せてくださらなくてねえ。
なぜでしょうなあ。
それに、妙に深刻そうな顔でねえ。
もう心配で心配で……。
少し横暴にもなりましたし、この前もとてもいい子だった新人がクビにされてしまいましてねぇ。
かわいそうだったなあ。
その子、顔が真っ青でねぇ。
あーまた脱線してしまいましたな。
話は戻って……。
えーどこからでしたかな?
あっ、絵についてですが……、先ほども話した通り本当にわからないんですよ。
旦那様はなぜか覚悟を決めたように見えるし……。
よっぽどすごい絵なんでしょうな!
あなたも、ぜひ見ていってくださいな。
あっ! もし旦那様との交渉が成功したのなら、この老人のことを思って、色々教えてくださると嬉しいですがな!」
そう言ってひとしきり喋った!という達成感に満ちた顔をしたサイコスが汗を拭きながら笑顔を向けてくる。
もちろん私はにこにこと笑いながら相槌を打ち会話を記憶していた。
――用済みだな。
「あら? ごめんなさい。通話が来てしまったようで……。少し席を外しますね」
*
戻ってきた彼女は、
「残念ながら急ぎの仕事が入ったようです。
ここの近くに迎えが来てしまって……。
また後日伺わせていただきたく存じますっ!」
そう生真面目な発言をしていた。
大変なんだなあ。
頑張ってるねぇ、若者が頑張りを見ると涙がでそうになってしまう。
「あぁ待ってくだされ。そこまで送りましょう。
この辺は治安の悪いところもありますからな。」
彼女も了承してくれたので、カフェをでてしばらく歩く。
気づくと彼女がいなくなっていた。
――まさか?
迷ってしまったんだろうか?
すると、先ほど過ぎ去った路地に灰色の髪が見えた気がした。
「どうしたんだい? なにか――
ゴトっ
*
これでよし……。
なり代わりの準備は整った。
「じゃあこっちの方で死体は処理しとくからねー!」
屈託のない笑みでルチアが言う。
「にしても、びっくりしたよー!
連絡くるの早かったからさー! もっと潜入時間長いと思っちゃったよー!」
そう、先ほど通話をしていたのだ。
「では引き続き頑張ってねー!
ハイヨー馬二号、一号……?
あっ! 馬一号、二号!」
そう言い残し彼女は去っていった。
さて、旦那様のもとへ帰らなければ……。
なんてね。




