第三話 『どうせ成功させるんでしょう?』
――失敗は許されない。
分かっている。
――失敗は許され――
知っている。
――失敗は――
「……そう」
誰よりも私が一番――
*
部屋に戻り、資料にあった使用人の写真を一枚ずつ見比べる……。
どの人間も私よりかなり年上だ。
私とはあまりにもかけ離れすぎている……。
変身時間にはあまり期待できそうにない。
それに、対象と仲がいいということは、バレるリスクも高いということだ。
この5日間で、変身する人物の選定と、行動パターンや性格の把握をしなければ……。
資料には簡単な性格面などのプロフィールが書いてある。
先生が話してくださった構成員が調べたのだろう……。
その構成員も、おそらく処分されているので、
礼も言えないが……。
――その中に一人、目を引く者がいた。
サイコス・ギルター(63)
執事長。
独身男性。
小柄な人物。
伯爵が生まれる前から働いている。
伯爵とは親子のように仲がよく、よく一緒に話している。
ユーモアがあり、新人にも気さく。
などなど……。
他の人物が二、三文なのに比べ、かなり長い。
この人物なら伯爵に接近しやすいかもしれない……。
それに、体格も私とそれほど離れていない。
しかし、ユーモアか……どう再現すべきか……。
――成功のために……
――先生のために……。
その瞬間。
コンコンコン。
「……?」
ノックの音が響いた。
弾むような息遣いとともに……。
誰だろうかと怪訝に思っていると、続けてノックと声が聞こえる。
「ツー」「ツー」コン「ツー」「ツー」
「ツー」コン「ツー」「ツー」
コン「ツー」コン「ツー」「ツー」
彼女か……。
開けてあげるべきだろう。
「どうぞ、入ってく――」
――ガバッ。
大きな音とともに、少女が入ってきた。
いや、女性?
正確には、少女のような女性か……。
――ルチア。
金髪碧眼の小柄な女。
性格はいい……いいのだが、めんどくさい。
開口一番。
「任務ですってね! アタシも当たり前だけど御者としてついていくわ! どうせこれから偵察しにいくんでしょう! 送っていくわよ! さあいきましょう! さあさあ! アタシのギフトでどこまででも飛ばしていくわよ!」
……うるさい、今日はこっちなのか。
なら、まだマシかもしれない……。
彼女のギフトは、『消音』。
どんな場所でも静かに移動できるというものだ。
これは彼女が御者となる馬車にも適用される。
「アタシと一緒なら話しながら楽しく移動できるし! こんな山奥にある建物からでもすばやく移動できるし! 快適なそらの――ゲフンゲフン、馬? 快適な馬の旅を約束するわよ!」
「ええ、確かにその予定ですし、申し出はありがたいのですが……」
「なぜ? わざわざあの暗号を使って?」
すると、明るい表情と自信満々なご様子で――。
「暗号ってかっこいいじゃない!
先生直伝の暗号なんてロマンの塊よ!」
――?
ロマン?
意味がわからない……。
もしや、これがユーモア!?
いや、そんなわけない。
とにかく、偵察してから判断しなければ……。
「まあいいでしょう……。
それでは行きましょうか?」
ルチアは、うんと大きく頷いた。
「どこにいくのかしら!」
「……伯爵の屋敷です」
「あら、そうだったわね!」
――大丈夫だろうか。
*
「ハイヨー、馬一号と二号! しゅっぱーつ!」
元気すぎる掛け声とともに、馬車は出発した。
人気のなさすぎる組織の拠点に相応しい山から、どんどん遠ざかっていく。
それを見ると、やはりなんだかソワソワしてしまう……。
「やっぱり緊張してるでしょー?
毎回こうなんだから! お姉さんにはお見通しだぞ?」
――余計なお世話だ。
しかし、彼女を否定してはならない。
めんどくさいことになる……。
「そう、かもしれません……」
「ほらね! でもアンタなら大丈夫よ! アンタがここへ来てしまった時からずっと見てきた私が保証するわ!」
「……ありがとうございます」
消え入りそうな声になってしまった。
「えっ? なんて?」
「……なんでもありません!」
「そう? あっ! そろそろみたいね! とりあえず適当な位置に止めるから、あとは頑張ってね!」
それから少しして、領土内の適当なところで降ろしてくれた。
「では、帰りは通信機でまた連絡す――」
「まって! 最後に一言だけ!」
「?」
「気負わずに、あなたらしく頑張りなさい!
きっと成功するんでしょう?」
……あの子の姿が重なる。
――きっと成功させるんでしょう?
――あなたなら大丈夫よ。
「どうしたの?」
「……いえ、なんでもありません。
では、行ってまいります」
それを見て、ルチアはにっこり笑い、
「でっはー! ご武運をー!」
遠ざかるたび、声が聞こえなくなっていく……。
ここからがスタートだ。




