↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/45

第43話「一緒に選べてよかった。」

一緒に暮らし始めてから、初めての秋と冬が過ぎた。


寒くなると、夕飯には鍋が増えた。

帰りが遅い日は、先に帰ったほうが湯を沸かして待っていた。


毎日使う皿をしまう場所も、凛が暖房をつけたくなる寒さも、少しずつ覚えた。

「ただいま。」と声をかけて、返事がある暮らしに慣れても、嬉しいのは変わらなかった。


その間に式場が決まり、予定表に入れていた『結婚式・希望』から、『希望』の二文字が消えた。


玄関に掛けていた冬物のコートをしまう頃、俺たちは社会人三年目に入った。


四月の朝。

靴を履いていると、凛が隣にしゃがんだ。

手には、去年から使っている仕事用の鞄があった。


「今日、少し遅くなるかも。」


「俺のほうが早かったら、飯やっとく。」


「うん。帰る前に連絡するね。」


一緒に家を出て、駅へ向かった。

今夜食べたいものを一つずつ言ってから、それぞれの電車に乗った。


九月の結婚式まで、あと五か月だった。


◇


日曜日の夜。

食卓には、式場から届いた資料が広がっていた。


凛が予定表を見ながら、眉を寄せた。


「次の打ち合わせまでに、決めること多いね。」


「うん。招待する親戚の住所、まだ父さんから返事来てない。明日もう一回聞く。」


手元のメモに書き足してから、花の写真が載った資料を開いた。


「あと、これ見てたんだけど。」


凛が顔を上げた。


「テーブルの花?」


「そう。高いと向かいの人の顔、見えにくくない? みんなにもゆっくりしゃべってほしいし、こっちの低いやつがいいなって。」


「私も、それがいいと思ってた。」


「色は? 凛、白だけより、黄色も入れたい?」


一緒に花屋へ行った日、凛が迷っていた花を思い出した。

凛は写真を見比べて、淡い黄色の入ったものを指した。


「こういうの、好き。でも、夏樹くんは?」


「俺も好き。明るい感じで。あと、料理置く場所は残したい。」


「そこも大事なんだね。」


「かなり。」


凛が笑い、候補の横に小さな丸をつけた。


挿絵(By みてみん)


「あとさ。全部は難しくても、俺たちの席の前に置く花とか、ブーケトスの花は、いつもの花屋でお願いできないかな。」


凛がペンを止めた。


「最初に、スズランを買ってくれたお店?」


「うん。結婚式の花も、あそこで選べたら嬉しいなって。凛はどう?」


「……私も、お願いしたい。今度は、二人で相談に行きたいな。」


「じゃあ、まず式場に聞いてみる。持ち込めるかとか、費用とか。」


「お花屋さんにも、引き受けてもらえるか聞かないとね。」


俺は確認することをメモに足した。


初めてあの店に入ったときは、凛に花を渡す理由を探していた。

今度は隣に凛がいて、二人の結婚式のために選ぼうとしていた。


ページをめくると、追加料金の一覧があった。

二人で予算のメモと見比べ、聞きたいことを書き出した。


途中で、凛が時計を見た。


「あ、もうこんな時間。明日の準備もしなきゃ。」


まだ、招待状の見本が残っていた。


「今日はここまでにしよ。返事、来週で大丈夫だし。」


「でも、平日だとまた忙しくなるかも。」


「じゃあ、土曜の午前中は? 俺、その時間空けとく。」


凛も予定表を確かめて頷いた。


俺は二人の予定に『招待状を選ぶ』と入れた。

式場への確認も忘れないよう、自分の予定に書き足した。


招待状の見本を重ねていると、凛が一枚に手を止めた。


「これもきれいだよね。さっきは、こっちがいいと思ったんだけど。」


「凛でも、そんな迷うんだ。」


口にしてから、凛を見た。


「……ごめん。こういうの、すぐ決められると思ってた。」


「調べるけど、迷うよ。初めてだし。」


凛の前には、何度か消した跡のあるメモがあった。


「うん。俺も迷ってる。二つまでしか絞れなかった。」


「どれ?」


候補を並べると、凛は俺の隣へ椅子を寄せた。


「こっちは、花の色と合いそうだと思って。もう一個は、文字が読みやすかった。」


「ほんとだ。おじいちゃんたちにも、こっちのほうが読みやすそう。」


二人で見比べてから、候補の二枚をいちばん上に重ねた。


続きは土曜日。

そう決めて、今度こそ資料を片づけた。


◇


六月の土曜日、久しぶりに六人で昼飯を食べた。


店に最後に入ってきたのは、田中と美奈だった。


「二人、一緒だったんだ。」


凛が声をかけると、美奈が田中の隣に座った。


「駅で待ち合わせたの。私が出口間違えちゃって、この人に迎えに来てもらった。」


「反対側にいるって言われたとき、帰ろうかと思ったわ。」


「でも、来てくれたじゃん。」


美奈が笑うと、田中は何も言わず、水の入ったグラスを持った。


俺はちょっとだけ、口元を押さえた。


料理が揃ったところで、結婚式の話になった。


「九月、楽しみだね。」


詩織の言葉に、凛も嬉しそうに頷いた。


「うん。準備してたら、あっという間に近づいてきた。」


「夏樹、ちゃんとやってる?」


田中に聞かれ、俺は顔を上げた。


「やってるよ。昨日も席、考えてた。」


「お前、しゃべりたい相手、全員隣に置こうとしてない?」


「……最初ちょっと。」


小川が笑い、凛まで頷いた。


「六人で同じテーブルに座りたいって言ってた。」


「それ、主役が来ちゃうじゃん。」


美奈に言われて、俺も笑った。


詩織が小川のほうを見たのは、そのあとだった。


「私たちも、この前、住む場所の話をしたんだ。」


思わず、「じゃあ、次は」と言いかけて、口を閉じた。

まずは、二人がどんな話をしたのか聞きたかった。


小川が、詩織を見てから続けた。


「詩織、今は仕事が忙しいから、引っ越しはもう少し落ち着いてからがいいって。」


「うん。今の仕事は続けたいし、一緒に住むために通勤が大変になるのも、違うかなと思って。」


「俺も今の部屋、更新まで時間あるし。その間に見てみようって話してる。」


「そっか。二人とも通いやすい場所、あるといいな。」


俺が言うと、詩織は頷いた。


「うん。まず、お互いの譲れないところから。」


「詩織、本置く場所は絶対いるって。」


「小川くんも、机は大きいのがいいって言ってたでしょ。」


二人は顔を見合わせて笑った。


俺たちが部屋を探していたときとは、条件も、決めたい時期も違った。

小川がスマホで見せてくれた沿線を、みんなでのぞき込んだ。


食後、店を出たところで、美奈が田中の袖を引いた。


「ねえ、このあと時間ある?」


「あるけど。」


「駅の向こうに、行きたい店あるんだ。一緒に行かない?」


「何の店?」


「服。……田中に、どっちが似合うか見てほしくて。」


田中が一度、美奈を見た。


「俺でいいの?」


「田中がいいから誘ってるんだけど。」


いつもより少し早口だった。


田中は目をそらしてから、「じゃあ、行くか。」と答えた。


聞こえなかったふりをして凛を見ると、凛も俺を見上げていた。

二人で、少しだけ笑った。


◇


九月に入ると、式場との連絡も増えた。


花の持ち込みについては、式場に確認したうえで、いつもの花屋にも二人で相談に行っていた。

俺たちの席の前に飾る花と、ブーケトス用の小さな花束を、お願いできることになった。


白に淡い黄色を合わせた花。

店主に見せてもらった写真を、凛は帰りの電車でも眺めていた。


楽しみが増える一方で、仕事の提出期限が重なる週もあった。


朝のうちに、先輩に確認したいところをまとめて聞いた。

返事が必要なものは早めに送り、夕方には資料を見直せるように進めた。


それでも帰りが遅くなる日はあった。

わかった時点で凛に連絡し、その夜にできない確認は、いつならできるかも伝えた。


「あとでやる。」と言ったままにして、凛に何度も聞かせたくはなかった。


水曜日の夜、帰宅すると、凛がノートパソコンを開いていた。


「ただいま。席次表の名前、確認してる?」


「うん。あと少し。」


買ってきた弁当を置いて手を洗い、凛の隣に座った。


「俺のほうの分、親にも確認してもらった。直すの、一か所あったから一緒に見ていい?」


「お願い。」


画面と返信を照らし合わせた。

名前の漢字を直し、ほかに間違いがないか、もう一度目を通した。


確認が終わると、凛が肩を回した。


「終わった……。」


「飯にしよ。」


弁当の袋を引き寄せると、凛が中をのぞいた。


「私の好きなやつ。」


「最後の一個だった。」


弁当を温める間に、資料を端へ寄せた。

凛が箸を出し、俺が麦茶を注いだ。


食べ始めてしばらくして、凛が言った。


「準備、大変だけど、楽しかったね。」


「まだ終わってないよ。」


「うん。でも、一緒に選べてよかった。」


俺は箸を止めた。


「俺も。花屋で相談してるとき、凛、すごい真剣だったよな。」


「夏樹くんも、写真何回も見比べてたでしょ。」


「どっちもよかったから。」


「迷ったね。」


「うん。でも、決めたほう、早く見たい。」


凛が頷いた。

当日、あの花が俺たちの前に飾られるところを想像すると、少し落ち着かなくなった。


「料理も楽しみだね。」


「試食、おいしかったな。」


すぐに返したら、凛が笑った。

俺も笑って、残っていた一口を食べた。


片づけのあと、凛が予定表を開いた。

何も入っていなかった二〇二八年の九月には、もういくつも予定が並んでいた。


その中の、交際記念日。


「もうすぐだね。」


凛が画面に指を添えた。


「うん。」


去年、この日を予定表に入れたときは、まだ別々の家に帰っていた。

今は同じ家で、並んでその日を待っていた。


俺は、凛の手を握った。


「当日、いっぱい楽しもうな。」


「夏樹くん、泣いててもご飯は食べてね。」


「そこ、心配されてんの?」


「楽しみにしてたのに、食べられなかったら残念でしょ。」


「……確かに。」


泣かないとは、言えなかった。


笑った凛の指が、俺の手を握り返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。