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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第42話「これからは、二人で家まで歩ける。」

七月の終わり、俺たちは一緒に暮らし始めた。


何度か足を運んで決めた部屋には、まだ段ボールが残っていた。

それでも玄関には二人分の靴が並び、洗面台には歯ブラシが二本立っていた。


引っ越した翌朝。

食器を棚へしまっていると、隣から凛に袖を引かれた。


「夏樹くん、そのお皿は下がいい。」


「こっちのほうが入るよ?」


「入るけど、私が届かない。」


「あ。」


手を止めて、持っていた皿を一段下へ移した。


「これなら?」


「うん。毎日使うものは、そこがいいな。」


一人で住んでいた頃は、空いている場所に入れればよかった。

今は、凛にも使いやすい場所を、一緒に探していた。


◇


その日の昼は、オムライスにした。


凛が炒めたチキンライスを二枚の皿に分け、俺はボウルに卵を割った。


「卵、俺がやっていい?」


「うん。お願い。」


フライパンにバターを落とすと、甘い匂いが広がった。

溶いた卵を流し込み、端が固まり始めたところで火を弱めた。


凛が、隣から手元をのぞいた。


「前にも、二人で作ったね。」


「俺の部屋で、映画見た日?」


「うん。」


一緒に住みたいと、初めて口にした日だった。

あのときは、今すぐじゃなくていいからと、慌てて付け足した。


一枚目の卵をライスにかぶせ、もう一度フライパンを火に戻した。


「ほんとに一緒に住んでるんだな。」


「今、実感したの?」


「卵、二人分焼いてたら。」


凛は笑って、引き出しからスプーンを二本取り出した。


二枚目は、端が少し破れた。


「あー。こっち俺の。」


「ケチャップかけたら、わからないよ。」


「じゃあ、うまく隠して。」


渡したボトルを受け取って、凛は破れたところに線を引いた。

俺ももう一皿にかけて、二人でテーブルへ運んだ。


食べ終わっても、凛は鞄を持たなかった。


「午後は、本を片づけたいな。」


「俺も手伝う。」


その先の時間まで一緒なのが、まだ少し不思議だった。


◇


八月に入った休日、凛といつもの花屋へ行った。


白い壁と、深い緑色の屋根。

何度も一人でくぐった入口を、その日は凛と並んで入った。


「ここで買ってくれてたんだね。」


「うん。最初のスズランも。」


凛は店先の鉢を見てから、店内へ視線を移した。


「一度、来てみたかったの。」


店主が俺に気づき、会釈した。

それから、隣にいる凛にも柔らかく笑いかけた。


「こんにちは。」


「今日は、家に飾る花を選びたくて。」


そう伝えると、小さな花瓶に生けやすい花をいくつか見せてくれた。


凛は白い花の前で足を止めた。


「これ、きれい。」


「白いの、好き?」


「うん。でも、こっちも気になる。」


指先が向いたのは、淡い黄色の花だった。


俺が選ぶときは、凛に似合いそうだと思って白い花を頼むことが多かった。

一緒に来ると、凛自身が迷うところまで見られた。


「両方にする?」


「花瓶、小さいよ。」


「じゃあ、一本ずつ。」


凛が頷いた。

二人で選んだ花を受け取り、店を出た。


帰りの電車では、凛が包みを持っていた。

花が隣の人に触れないよう、少しだけ自分のほうへ寄せていた。


「帰ったら、水に入れようね。」


「うん。」


同じ駅で降りて、同じ改札を抜けた。

スーパーに寄り、牛乳と卵も買った。


家に着くと、凛が花瓶を洗い、俺が包みを外した。

食卓の端に置いてから、二人で少し離れて眺めた。


「ここなら、ご飯のときも見えるね。」


凛がそう言ったので、俺もそこがよくなった。


◇


友人たちには、引っ越しの報告と一緒に、婚約したことを伝えた。


六人のグループにメッセージを送る前、凛に画面を見せた。


「これでいい?」


「うん。……夏樹くん、顔が嬉しそう。」


「嬉しい報告だから。」


送信すると、美奈からすぐに電話がかかってきた。

スピーカーに切り替えた途端、「おめでとう!」という声が部屋に響いた。


引っ越し祝いの日は、その電話の中で決まった。


九月の土曜日。

玄関を開けると、田中が飲み物の袋を持ち上げた。


「重い。早く受け取れ。」


「お祝いの第一声、それ?」


「おめでとう。で、重い。」


後ろで美奈が笑っていた。

詩織は小さな箱を両手で持ち、小川は大きな袋を提げていた。


テーブルに料理を並べると、少し窮屈だった。

普段の椅子に折り畳みの椅子を足して、六人で囲んだ。


「改めて、婚約と引っ越し、おめでとう。」


詩織がグラスを上げた。

俺たちも持ち上げ、軽く合わせた。


「ありがとう。」


隣で凛も頭を下げていた。


「凛、どう?一緒に住んでみて。」


美奈に聞かれ、凛は少し考えた。


「夏樹くんが、物を高いところに置く。」


「それ、今、直してるから。」


「あと、帰ってくるとすぐわかる。」


「うるさい?」


「ただいまの声が大きい。」


田中が吹き出した。


「想像つくわ。」


「嬉しいんだって。帰ったら凛がいるの。」


口にすると、隣から膝を軽く押された。

凛の耳が赤くなっていた。


「そういうの、普通に言うよね。」


美奈が笑い、小川が料理を取りながら頷いた。


「そこは変わんないな。」


大学の頃みたいに、話があちこちへ飛んだ。

仕事のこと、最近見た映画、次に集まれる日。


空いた皿を下げに立つと、凛も腰を浮かせた。


「座ってて。まだ食べてるだろ。」


「じゃあ、あとで洗うね。」


皿を重ねて戻ってきたとき、詩織が凛に小さく笑いかけていた。

凛も笑って、グラスを持ち直した。


◇


夕方、四人を駅まで見送った。


改札の向こうで美奈が手を振り、田中がその隣で軽く片手を上げた。

小川と詩織の姿も見えなくなってから、俺たちは来た道を戻った。


風が少し涼しくなっていた。


「楽しかったね。」


「うん。また来てもらおうな。」


差し出す前に、凛の手が俺の手に触れた。

そのまま指を絡めて歩いた。


前なら、ここから凛を送っていた。

これからは、二人で家まで歩ける。


玄関を開けると、昼間の賑やかさが残っているようだった。

流しには皿が重なり、食卓には花瓶と、詩織たちが持ってきてくれた焼き菓子の箱があった。


「お茶、飲む?」


凛が靴を脱ぎながら聞いた。


「飲む。洗い物してからにしよ。」


並んで流しに立った。

凛が洗った皿を、俺が拭いた。


棚へ戻そうとして、一度手を止めた。

毎日使う皿は、下の段だった。


隣を見ると、凛が気づいて笑った。


「覚えたね。」


「毎日使ってるから。」


最後の一枚をしまい、マグカップを二つ出した。


挿絵(By みてみん)


凛はもう、時計を見て帰り支度をしなくてよかった。

俺は湯を沸かしながら、焼き菓子の箱を開ける凛に、どれを食べたいか聞いた。




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