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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第40話「これからも、隣にいてほしい。」


四月最初の日曜日。

待ち合わせより一時間早く、俺はいつもの花屋に寄った。


白い壁と、深い緑色の屋根。

店先には、春の花が並んでいた。


初めてここで花を買ったときは、渡す理由さえ、うまく説明できなかった。

今日は、何のために贈るのか決めて来ていた。


「白い花を入れて、花束にしてもらえますか。」


大きすぎず、凛が持って歩きやすいものを頼んだ。

淡い色の花が重ねられていくのを見ながら、コートのポケットの中で手を握った。


伝えたいことは、何度も考えた。

スマホにも書いて、読み返した。


それなのに、包んでもらった花束を受け取った途端、最初の一言が飛んだ。


……大丈夫か、俺。


花を潰さないように持ち直して、駅へ向かった。


◇


改札から出てきた凛は、俺の手元を見て足を緩めた。


「花?」


「うん。今日は、凛に渡したくて。」


差し出すと、凛は両手で受け取った。

白い花に顔を近づけ、少し笑った。


「ありがとう。……何かの日だった?」


「四月だなと思って。」


「それは、そうだけど。」


もっともな返事に、俺も笑った。


「俺ら、初めて会ったの四月だったじゃん。」


凛が顔を上げた。


「もう三年になるんだね。」


「な。今日は、大学のほう歩いてみない?」


「うん。久しぶりに行きたい。」


空いた手をつなぎ、改札に背を向けた。


大学へ続く道には、新しい店ができていた。

よく寄ったコンビニはそのままで、凛が好きだったパンを窓越しに探した。


「あれ、まだ売ってる。」


「帰りに買う?」


「うん。明日の朝の分。」


そんな話をしながら、ゆっくり歩いた。


花束の包みが、凛の腕の中で小さく鳴った。

そのたびに、言おうとしていた言葉が頭の中を回った。


◇


大学の近くの小さな公園で、ベンチに座った。


木の枝には桜が残っていて、足元にも花びらが落ちていた。

凛は花束を膝に置き、包み紙の端を整えた。


「今日、静かだね。」


「俺?」


「うん。歩いてるときから。」


やっぱり、気づかれていた。


「……ちょっと緊張してる。」


凛がこちらを向いた。

俺は、つないでいた手を一度緩めた。

手のひらが汗ばんでいた。


「凛に、ちゃんと話したいことがあって。」


「うん。」


凛は急かさず、待ってくれた。


顔を見たら、用意していた最初の一言を思い出した。

でも、丸暗記した順番どおりに話せる気はしなかった。


「最初に会ったとき、俺、ひどいこと言ったじゃん。」


「中学生かって?」


「……はい。」


「覚えてるよ。」


即答だった。

俺は思わず頭を下げた。


「あれは、本当にごめん。」


「うん。」


凛は小さく笑った。

それから、俺の次の言葉を待つように口を閉じた。


「最初は、凛に会えるだけで嬉しくて。もっと話したいとか、好きになってほしいとか、そればっかだった。」


膝の上で、自分の指を握った。


「付き合ってからも、かっこいいとこ見せたかった。頼ってもらいたかったし。」


「うん。」


「でも、この前、仕事で失敗した話しただろ。」


凛が頷いた。


「ああいう話、前はしたくなかったんだよ。情けないし、がっかりされたら嫌だし。でも、話せてよかった。」


凛の指が、花束の上で止まった。


「今は、うまくいかなかった日にも、凛に会いたい。」


一度口にすると、その先は出てきた。


「凛が疲れた日も、会いたい。話したかったら聞きたいし、何もしゃべりたくなかったら、一緒に飯だけ食べてもいい。」


凛が、ゆっくり瞬きをした。


「俺、これからも余計なこと言うと思う。気づけなくて、言われてからわかることもあると思う。」


「……うん。」


そこは否定されなくて、少し笑った。

緊張で強張っていた肩が、ようやく下がった。


「でも、言ってもらったこと、そのままにはしたくない。凛がどうしたいか、ちゃんと聞いて、一緒に考えたい。」


今度は、自分から手を差し出した。

凛が花束を片腕で支え、空いた手を重ねてくれた。


小さな手を握って、顔を見た。


「凛。俺と結婚してください。」


口にしてから、胸が大きく鳴った。


「これからも、隣にいてほしい。」


凛の唇が、わずかに開いた。

声になるまでの間、俺はその手を握ったまま待った。


凛は一度目を伏せた。

花束の白い花を見て、息を整えるように、ゆっくり吐いた。


「……嬉しい。」


小さな声だった。


顔を上げた凛の目が、潤んでいた。

俺は何か言いかけて、飲み込んだ。

まだ、続きを話そうとしていた。


「一緒に住むところの話、したでしょ。」


「うん。」


「駅が近いとか、スーパーがあるとか。そういうの考えるのも、楽しかったけど。」


凛の指に、少し力が入った。


「この前、一緒に洗い物してたとき、こういう毎日になるのかなって思ったの。」


俺も、あの狭いキッチンを思い出した。

凛に渡された布巾と、並べた二つのマグカップ。


「疲れてても、疲れたって言えて。自分にできることがあったら、私もできて。」


「……うん。」


「私、夏樹くんと、そうやって暮らしたい。」


凛は唇を結んでから、もう一度開いた。


「かっこいいところも、好きだよ。」


不意に言われて、喉が詰まった。


「でも、失敗した日も話してほしい。私も、聞いてほしいこと、きっとあるから。」


頷くと、凛も頷いた。


「私も、これからずっと一緒にいたい。」


目が合った。

凛は、泣きそうな顔で笑った。


「はい。私でよければ、結婚してください。」


「……凛がいい。」


考えるより先に出た。


「凛と、結婚したい。」


「うん。」


返事を聞いた途端、目の前がぼやけた。


凛が俺の顔をのぞき込んだ。


挿絵(By みてみん)


「夏樹くんまで泣くの?」


「いや、ちょっと待って。今、すごい嬉しくて。」


凛は笑って、指で自分の目元を拭った。

俺も空いた手で顔を覆った。


伝えたあとに言うことは、何も考えていなかった。

ただ、握った手を離したくなかった。


◇


しばらくして、凛が花束を少し持ち上げた。


「だから、今日お花くれたんだね。」


「うん。……あと、指輪なんだけど。」


凛が俺を見た。


「一緒に選びに行きたい。凛が好きなの、贈りたいから。」


「うん。選びたい。」


凛の指には、大学生の頃に買ったペアリングがあった。

重なった手の中で、それが俺の指に触れた。


「親にも、二人で話しに行こうな。」


「うん。いつ行けるか聞いてみる。」


「俺も聞く。」


住む家も、結婚する日も、これから決めることがたくさんあった。

凛の口から次の約束が出てくるたび、少しずつ実感が湧いた。


ベンチを立つ前に、凛が花束を見下ろした。


「この花、帰ったらちゃんと飾るね。」


「うん。」


「見るたびに、今日のこと思い出せそう。」


そんなことを言うから、また顔を見られなくなった。


「……凛。」


「何?」


「もうちょっとだけ、このまま座っててもいい?」


凛は俺の手を握り直した。


「私も、そう言おうと思ってた。」


肩に、そっと重みが寄った。

俺はつないだ手を二人の間に置き、もう少しだけ、凛の隣で春の風に当たっていた。


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