↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/11

第4話「今、笑った。」

四月下旬。

ゴールデンウィークを目前にした金曜日、サークルの飲み会があった。

大学近くの居酒屋には三十人近く集まっていた。


「夏樹、こっち。」


田中に呼ばれ、奥のテーブルへ向かう途中。


「あ。」


店の反対側に、見覚えのある黒髪が見えた。

女子ばかりのテーブルに凛が座っていた。

隣には美奈。その向かいには水野詩織。

凛とよく一緒にいたから、何度か喋ったことがあった。

美奈と違って、結構おとなしかった。


「何見てんの?」


田中が聞いてきた。


「あそこ。凛ちゃんいる。」


「ああ、冬城さん。」


「……お前、本当に最近冬城さんばっか見てんな。」


小川がぼそっと言った。


「そう?」


「そう。」


小川はそれだけ言って、枝豆を口に放り込んだ。

俺は凛のほうを見た。

この前より飲んでいるらしく、凛の前には空いたグラスが二つ置いてあった。


しばらくすると、美奈の大きな笑い声が聞こえた。

つられてそっちを見た。

美奈が何かを話していて、詩織も笑っていた。


そして、その隣。


「……あ。」


凛も笑っていた。


いつもの無表情じゃない。

目を細めて、楽しそうに笑っている。


「ふーん。」


「何?」


「凛ちゃんって笑えるんだな。」


田中が呆れた顔をした。


「人間なんだから笑うだろ。」


「俺といるとき全然笑わない。」


「原因、お前じゃない?」


「え?」


なんだよ。


もう一度見ると、凛はまた詩織と笑っていた。


俺と喋ってるときは、嫌そうな顔するか、呆れるか、真顔で言い返してくるか。


あんな顔もするんだ。


「夏樹。」


小川に呼ばれた。


「お前、冬城さんのこと気になってんの?」


「は?なんで?」


「ずっと見てるから。」


「見える位置にいるだけだって。」


「ふーん。」


意味ありげな返事をして、小川はまた枝豆を食べ始めた。


それから一時間ほど経ったころ。


トイレへ行こうと席を立つと、凛たちのテーブルが目に入った。


さっきまでいた女子たちはいなくなり、残っていたのは凛と詩織だけだった。


その前に、知らない男が二人立っていた。


うちのサークルじゃない。

かなり酔っているらしかった。


「ねえねえ、二人だけ?」


男の一人がテーブルに手をついた。


「友人を待っていますので。」


凛が答えた。


「いいじゃん。一緒に飲もうよ。」


「結構です。」


「そんな固いこと言わないでさ。」


「嫌です。」


凛はいつも通り真顔だった。

ただ、頬は少し赤かった。

男は笑いながら凛の隣に回り込んだ。


「ちょっとくらい付き合ってよ。」


そのまま、凛の肩に腕を回した。


「――触らないでください。」


その瞬間。

俺はもう、そっちへ歩き出していた。


「お兄さん。」


男の腕を掴み、凛の肩から外した。


「嫌がってんじゃん。」


「……何、お前。彼氏?」


「違います。」


凛が即答した。


「そこ今どうでもよくない?」


「事実なので。」


こんなときまで訂正すんのかよ。


俺は男を見た。


「嫌がってるの分かんない?」


「別に嫌がってなくね?」


「嫌がっています。」


「ほら。」


「ちょっと肩組んだだけだろ。」


「その肩の持ち主が嫌だって言ってるけど。」


男が俺を睨んだ。


そのとき。


「三回目です。」


凛がスマホを手にした。


「先ほどから三回、断っています。」


「だから何?」


「それでも離れていただけないので、警察に連絡します。」


凛が画面を操作した。

110。


「ちょ、警察は大げさだろ。」


「そうでしょうか。」


凛が男を見た。


「嫌だと伝えた相手に何度も声をかけ、身体にも触れています。」


「付きまとってねえし。」


「では、なぜ三回断った相手の前にまだいるんですか?」


「…………。」


「根拠を説明してください。」


いつもの凛より、なんか圧が強い。


「いや、だから……。」


「その程度の理屈で反論するつもりですか?」


「凛。」


詩織が小声で名前を呼んだ。


「何?」


「ちょっと飲みすぎじゃない?」


「飲みすぎてない。」


即答した。


……いや、結構飲んでたよな。


「もういいって。行こうぜ。」


男二人は慌ててその場から離れていった。

凛がスマホを見た。


そして。


「……あ。」


「何?」


「まだ発信していませんでした。」


「え?」


詩織が凛のスマホを覗き込んだ。


「押す前だったんだ。」


「帰らなければ押してた。」


「だよね。」


「マジかよ。」


俺が笑うと、凛がこっちを見た。


「何がおもしろいんですか。」


「普通さ、俺が来たら『助かった。』ってなるじゃん。」


「なりません。」


「なんでだよ。」


「自分で対処しましたので。」


「でも俺、肩の腕外したじゃん。」


「それは外してもらいました。」


「じゃあ助けたじゃん。」


「一部だけです。」


「細かっ。」


俺は詩織を見た。


「詩織ちゃんは?俺、助けたよね?」


詩織は少し考えた。


「佐藤さんが来てくださって、私は安心しました。」


詩織はそう言って、少し笑った。


「ほら!」


「ですが、対処したのは凛ですね。」


「詩織ちゃんまで!」


凛の口元が、ほんの少し緩んだ。


挿絵(By みてみん)


「あ。」


「なんですか。」


「今笑った。」


凛はすぐ真顔に戻った。


「笑っていません。」


「いや、笑ったって。」


「酔っているんじゃないですか?」


「凛ちゃんのほうが飲んでるだろ。」


「私は酔っていません。」


テーブルには空になったグラスが三つあった。


俺はそれを見た。


「……何ですか。」


「いや。」


俺は笑った。


さっき美奈や詩織といるときに見せていたのとは違う。

ほんの少しだけだったけど。


俺と喋ってるときにも、こいつ笑うんだな。


なんとなく。

それがちょっと嬉しかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。