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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第38話「二人で住むんでしょ。 」

十二月に入ると、スーパーの入口に小さなクリスマスツリーが置かれた。


その横を、凛と二人で買い物かごを持って通り過ぎた。

日曜日の午後。俺の部屋で夕飯を作るために、食材を買いに来ていた。


「鍋でよくない? あったまるし。」


「いいね。冷蔵庫に白菜、残ってたよ。」


「あれ、まだ使える?」


「昨日買ったって言ってなかった?」


そうだった。

凛に笑われながら、俺はかごに豆腐を入れた。


こういう休日が、少しずつ増えていた。

どこかへ出かける日もあれば、昼過ぎに会って、買い物をして帰るだけの日もあった。


野菜売り場を回っていると、凛が長ねぎを一本手に取った。


「もし一緒に住むなら、スーパーが近いところがいいな。」


俺は、隣を見た。


「……一緒に住む家の話?」


「うん。夏樹くん、この前言ってたでしょ。」


言った。

今すぐじゃなくていいから、考えてほしいと。


でも、凛のほうからそんなふうに話し始めるとは思っていなかった。


「近いほうが、仕事帰りに寄りやすいし。」


「うん。」


「あと、駅から家までの道が明るいところ。」


「うん。」


凛が俺を見上げた。


「聞いてる?」


「めちゃくちゃ聞いてる。今、ちょっと嬉しくて。」


「……まだ、希望を言っただけだよ。」


「その希望が聞きたかったんだって。」


凛は目を伏せて、長ねぎをかごに入れた。

その耳が、少し赤くなっていた。


◇


部屋に戻って鍋を火にかけると、窓がうっすら曇った。


俺が皿を並べている間に、凛はテーブルの上の雑誌を端へ寄せた。

二人分の場所を作るその手つきを、つい目で追っていた。


「夏樹くんは?住むところの希望。」


「凛と住めれば、どこでも。」


「通勤に二時間かかっても?」


「……それはちょっと考える。」


「ちゃんと考えて。」


即答したら、即座に言い返された。


俺は凛の向かいに座った。


「お互い、会社に行きやすいとこがいいよな。俺だけ近くても、凛が大変だったら意味ないし。」


「うん。乗り換えも少ないと嬉しい。」


「あと、キッチン。さっき二人で立ったら狭かったし。」


「夏樹くん、ずっと引き出しの前にいたから。」


「あれ、俺が邪魔だっただけ?」


凛は笑ってから、少し考えるように視線を落とした。


「それと、別々のことをしてても落ち着ける場所があるといいな。」


「別々?」


「本を読んだり、勉強したり。夏樹くんも、家で仕事の資料を見ることあるでしょ。」


「ああ、そっか。」


一緒に住むといっても、ずっと同じことをするわけじゃなかった。

俺がテレビを見たいときに、凛は静かに本を読みたいかもしれなかった。


「じゃあ、俺が話しかけすぎたら言って。」


「言われる前に気づいてくれると助かる。」


「そこは努力する。」


鍋の蓋がかたかた鳴って、俺は立ち上がった。


食べながら、今度は家賃の話になった。

スマホでいくつか見てみると、駅に近くて、広くて、新しい部屋は、当然のように高かった。


「……みんな、考えること同じなんだな。」


「便利なところに住みたいもんね。」


「俺、毎月もう少し貯金しようかな。」


凛が箸を止めた。


「無理はしないでね。」


「してない。コンビニで余計に買うの減らすとか、そのくらい。」


「それなら、私も毎月いくら残せるか考えてみる。」


「凛も?」


「二人で住むんでしょ。」


当たり前みたいに返されて、俺はスマホから顔を上げた。


凛は豆腐を小さく崩しながら続けた。


「私も準備したい。夏樹くんだけで進めないで、相談して。」


「……うん。わかった。」


頼ってほしいとは思っていた。

でも、凛は俺と一緒に考えようとしてくれていた。


そのほうが、ずっと心強かった。


クリスマスの予定も、その延長で決まった。


「二十五日、どっか食べに行かない?」


ソファに座って店を探しながら聞くと、凛が俺のスマホをのぞき込んだ。


「いいね。夏樹くん、仕事は?」


「定時で帰れるように進める。予約は、ちょっと余裕ある時間にしようと思って。」


「私もその日は早く帰れるようにしておく。」


画面に並んだ店を、一緒に見ていった。

料理の写真も値段も、店によってずいぶん違った。


「せっかくだし、こういうとこ?」


少し背伸びした店を見せると、凛は写真を眺めてから俺を見た。


「ここも素敵だけど、私はこっちが気になる。」


凛が指したのは、小さなイタリアンの店だった。

気取らない雰囲気で、二人の会社からも行きやすい場所にあった。


「このパスタ、おいしそう。」


「ほんとだ。肉もある。」


「そこは外せないんだね。」


「大事だろ。」


凛は笑って、もう一度画面を見た。


「これからの貯金もしたいけど、こういう日は二人で楽しみたいな。」


「うん。」


「毎回すごく高いところじゃなくても、一緒に選べたら嬉しい。」


俺は店のページを開いた。


「じゃあ、今年はここにしよ。」


「うん。」


予約を済ませると、凛が自分のスマホの予定表にも店の名前を入れた。


その隣で、俺は予約完了の画面をもう一度確認した。

まだ先なのに、もう楽しみだった。


◇


十二月二十五日。


俺は朝から、今日中に終わらせる仕事を確認していた。

夕方になって慌てないように、確認が必要なものは早めに聞いた。提出する資料も見直して、送信を済ませた。


定時が近づくと、つい時計を見る回数が増えた。


帰る準備を整えて、時刻が変わったところで席を立った。


「お先に失礼します!」


挨拶をして、鞄を持った。

会社を出てからは、自然と足が速くなった。


予約までには余裕があった。

でも、その前に凛に会いたかった。


駅へ向かいながら、メッセージを送った。


『今出た!』


少しして、返信が届いた。


『私も。慌てなくて大丈夫だよ。』


……なんでわかったんだろ。


俺は歩く速さを、ほんの少しだけ緩めた。


待ち合わせの場所には、俺が先に着いた。

やがて改札から出てきた凛が、俺を見つけて小さく手を上げた。


「お疲れさま。」


「凛も。ちゃんと終われた?」


「うん。夏樹くんも早かったね。」


「定時で出てきた。」


「そんなに急がなくても、間に合ったでしょ。」


「いや、早く会えるじゃん。」


凛は一度口を閉じて、マフラーに少し顔を埋めた。


「……じゃあ、行こ。」


その声が柔らかくて、朝から頑張った甲斐があったと思った。


◇


店の窓には、小さな星の飾りが下がっていた。


予約の名前を伝えると、奥の二人席へ案内された。

コートを脱いで向かい合うと、凛がほっと息をついた。


「ちゃんと来られたね。」


「うん。メリークリスマス。」


「メリークリスマス。」


運ばれてきた飲み物で乾杯した。


凛が気になっていたパスタも、俺が楽しみにしていた肉料理もおいしかった。

一口食べるたびに顔を見合わせて、ここにしてよかったなと話した。


「最近、仕事どう?」


俺が聞くと、凛は少し考えた。


「任せてもらえることは増えたけど、まだ確認してばっかり。」


「わかる。俺も一人でできたと思ったら、抜けてたりする。」


「帰ってから、あれ大丈夫だったかなって思い出すことない?」


「ある。めちゃくちゃある。」


凛は小さく笑った。

俺もつられて笑いながら、入社した頃より、こういう話が増えたことに気づいた。


デザートが来る頃には、住む場所の話になっていた。


「この辺、二人とも来やすかったね。」


凛が窓の外を見ながら言った。


「住むのにもよさそう?」


「うん。でも、駅から少し離れたところも歩いてみたい。静かかどうか、知りたいし。」


「じゃあ、今度の休みに見てみる?」


「見てみたい。あと、スーパーも。」


「そこ、大事だもんな。」


凛は頷いてから、スプーンを置いた。


挿絵(By みてみん)


「まだ決めるのは先でも、二人で見ておきたいな。」


「うん。俺も。」


すぐに部屋を借りるわけじゃなかった。

それでも、次の休日に一緒にしたいことが、また一つ増えた。


店を出ると、冷たい空気に思わず肩をすくめた。

隣で凛がマフラーを巻き直していた。


「おいしかったね。」


「な。また来たい。」


「うん。ここなら、記念日じゃなくても来られそう。」


俺は頷いた。


少し先のことも、来週のことも。

凛から聞けるのが嬉しかった。


「次に来たら、俺、あっちのパスタ食べたい。」


「夏樹くん、食べてる人の見てたでしょ。」


「ばれてた?」


「すごく見てた。」


笑いながら、駅へ向かった。


住みたい街も、必要な貯金も、まだ相談の途中だった。

帰ったら、今日話したことをスマホのメモに足しておこうと思った。


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