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ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


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第37話「この先も一緒にいたいって思ってる。」

十一月に入ると、日が暮れるのが一気に早くなった。

凛が来たときには明るかった窓の外も、夕飯を食べ終える頃にはすっかり暗くなっていた。


洗った皿を水切りかごに置くと、隣から凛が布巾を差し出した。


「はい。」


「ありがと。あと、それで最後。」


二人分の食器は、二人で片づければすぐだった。

俺が手を拭いている間に、凛は使った布巾を広げて干していた。


そういう何気ない動きを見るたびに、先日、自分が口にしたことを思い出した。


一緒に住まないか。


今すぐじゃなくていいから、考えてほしい。

そう伝えたのは俺だった。


だから、返事を急かすつもりはなかった。

ただ、凛がこの部屋にいる時間が増えるたびに、期待まで増えてしまうのは止められなかった。


ソファに戻って、二人で温かいお茶を飲んだ。

凛は両手でマグカップを包んだまま、しばらく湯気を見ていた。


「夏樹くん。」


「ん?」


「この前の、一緒に住む話なんだけど。」


背筋が、勝手に伸びた。


「うん。」


凛がこちらを向いた。

俺も持っていたカップをテーブルに置いた。


「私も、一緒に暮らしたいと思ってる。」


「……ほんと?」


「うん。」


口元が緩みかけたところで、凛が続けた。


「でも、その前に話しておきたいことがあるの。」


俺は姿勢を戻して、頷いた。


「聞く。」


凛は言葉を選ぶように、一度視線を落とした。


「一緒に暮らすことと、結婚することって、同じじゃないでしょ。」


「うん。」


「夏樹くんが、結婚をどう考えてるのかも知っておきたい。」


結婚。


その言葉を凛の口から聞いて、少しだけ息を止めた。

考えたことがなかったからじゃなかった。

俺も考えていたことを、凛が先に言葉にしたからだった。


「今すぐ決めてほしいって意味じゃないよ。」


凛は俺の顔を見て、そう付け足した。


「ただ、私は一緒に住んだら、その先のことも考えると思うから。そこが違ったままだと、あとで困る気がして。」


「……うん。」


「夏樹くん?」


「ごめん。今、ちゃんと言おうとしてる。」


凛はそれ以上言わず、待ってくれた。


思ったことをそのまま口にするのは、昔から得意だった。

それで何度も凛に怒られたくせに、肝心なところでは言葉がすぐに出てこなかった。


俺は膝の上で手を組んでから、凛を見た。


「俺も、凛との結婚は考えてる。」


凛の指が、カップの持ち手から少し離れた。


「一緒に住みたいって言う前から。」


「……そうだったの?」


「うん。でも、凛には言ってなかった。」


これから先のことを考えたとき、そこに凛がいた。

仕事から帰る場所も、休みの日に買い物へ行く相手も、何かあったときに最初に話したい人も。


それが自分にとってどういう意味なのかは、もうわかっていた。


「この先も一緒にいたいって思ってる。結婚も、そのつもりで考えてる。」


凛は黙って聞いていた。

俺は、そこで言葉を切らずに続けた。


「ただ、いつとか、どういう順番でとか、そこまでちゃんと考えられてなかった。一緒に住めたら嬉しいって、そっちが先に口から出た。」


「夏樹くんらしいね。」


「……はい。」


挿絵(By みてみん)


凛が少し笑った。

その顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。


「でも、聞けてよかった。」


「不安にさせた?」


「不安というか……気になってた。私だけ先のことまで考えてたら、どうしようって。」


「俺も考えてた。そこは、一緒。」


そう言うと、凛は小さく頷いた。

それからカップをテーブルに置いて、空いた両手を膝に重ねた。


「私も、夏樹くんとの結婚を考えてるよ。」


今度こそ、口元が緩んだ。


「そっか。」


「うん。」


「……そっか。」


「二回言ってる。」


「嬉しくて、今それしか出てこない。」


凛は困ったように笑ってから、少し俯いた。

その耳が赤くなっているのに気づいたけれど、今日は指摘しなかった。


しばらくして、凛が顔を上げた。


「だから、一緒に暮らす話も、ちゃんと考えたい。」


「うん。」


「お互いの通勤とか、お金のこととか。家族にも話したいし。」


「俺、今の部屋に来てもらうことばっか考えてた。」


「ここだと、私の通勤は少し遠くなるね。」


「あ、そっか。」


一緒にいられる時間が増える。

俺が想像していたのは、そこまでだった。


でも凛は、ここから毎朝仕事へ行くことまで考えていた。

嬉しい場面だけじゃなくて、その続きも。


「場所も、二人で考えよう。凛だけ大変になるのは嫌だし。」


「夏樹くんもね。」


「俺も?」


「一緒に決めるんだから。」


その言い方が、妙に嬉しかった。

俺の部屋に凛を呼ぶ話が、少しずつ二人の暮らしの話になっていた。


「引っ越す時期は、まだ決めなくてもいい?」


凛が尋ねた。


「もちろん。今日決めなきゃいけないことじゃないし。」


「うん。少しずつ話したい。」


「じゃあ、気になることがあったら、その都度言って。」


「夏樹くんも、思いつきだけで進めないでね。」


「そこは信用ないんだ。」


「実績があるから。」


言い返せなかった。


俺が黙ると、凛は楽しそうに笑った。

こういうときの凛には、相変わらず勝てなかった。




帰る時間が近づいて、凛が鞄を持った。

俺も駅まで送るために、上着を羽織った。


玄関で靴を履きながら、凛がこちらを振り向いた。


「今日、話せてよかった。」


「俺も。切り出してくれてありがと。」


「ちょっと緊張した。」


「全然そう見えなかった。」


「夏樹くんがわかりやすすぎるんだよ。」


どうやら俺の緊張は、最初からばれていたらしかった。


ドアを開けると、冷たい空気が入ってきた。

凛がコートの前を合わせるのを待って、俺も外に出た。


引っ越す日は決まらなかった。

住む場所も、何も。


それでも、隣を歩く凛を見て、話す前よりずっと近いところに未来がある気がした。


結婚を考えている。

今日は、その気持ちを伝えた。


いつか、俺のほうからちゃんと尋ねたいことがあった。

そのときは凛が切り出してくれるのを待たずに、自分から言おうと思っていた。


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