↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~  作者: アル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/45

第27話「同じ会社に入ったら、毎日会えるじゃん。」

三月上旬。

大学三年の春休みは、思っていたほど暇ではなかった。


企業説明会。エントリーシート。適性検査の対策。

夏のインターンではまだ遠かった就職が、急に目の前まで迫っていた。


大学の合同企業説明会の日、俺たちは六人で集まった。


「田中、スーツ着ると普通の会社員だな。」


「何なら正解なんだよ。」


「小川は眠そう。」


「それはスーツ関係ない。」


隣で詩織ちゃんが笑った。

美奈は会場案内を広げ、凛と回る順番を確認していた。


「凛ちゃん、何社くらい見るの?」


「今日は四社。そのあと、キャリアセンターで相談。」


「忙しくない?」


「そのために来たんだよ。」


凛の手帳には、企業名と時間が細かく書き込まれていた。

俺のスマホにも予定は入っていたけれど、そこまできれいには整理されていなかった。


「俺のも管理してほしい。」


「自分でしてください。」


そこだけ敬語だった。


説明会が始まると、俺たちはそれぞれのブースへ向かった。


担当者に仕事の話を聞くのは、思ったより楽しかった。

居酒屋のバイトで、客に合わせておすすめを変えていると話したら、営業の仕事について詳しく教えてもらえた。


ただ、どんな人とでも話せればいい、というわけではないらしかった。


相手が何に困っているのかを聞いて、必要なものを考える。

説明を聞きながら、俺は資料の営業職という文字に丸をつけた。


途中で田中と合流すると、肩を叩かれた。


「お前、隣の人とも仲良くなってたな。」


「同じ会社気になってるらしいから。」


「初対面だろ?」


「うん。もう連絡先交換した。」


「そういうところは向いてそうだよな、営業。」


「そういうところは?」


「思ったことを全部言うところは直せ。」


それは凛にもよく言われた。




それから、予定はどんどん埋まっていった。


凛を誘った日に俺の説明会が入り、俺が空いている日は凛に予定があった。

夜なら電話できると思ったけれど、応募書類を書いているうちに日付が変わった。


『今終わった。起きてる?』


送ったメッセージには、翌朝返事が来た。


『寝てた。お疲れさま』


その頃には、俺が寝ていた。


そんなことを繰り返して、気づけば二週間、二人で出かけていなかった。


「まだ返ってこない。」


書類を見せ合うために入ったファミレスで、俺はスマホを伏せた。


田中は自分のパソコンから目を離さなかった。


「いつ送ったんだよ。」


「一時間前。」


「待てよ、それくらい。」


「待ってるじゃん。」


「五分おきに確認してるけどな。」


小川に言われ、また伸ばしかけていた手を止めた。


凛が忙しいのは分かっていた。

俺だって、すぐには返せないことがあった。


でも、分かっていることと、寂しくないことは別だった。


「会いたいものは会いたいじゃん。」


「そのまま冬城さんに言えば?」


「忙しいのに困らせたくないし。」


田中がようやく顔を上げた。


「そこは考えるようになったんだな。」


「俺のこと何だと思ってんの?」


「思ったことを全部言うやつ。」


否定できなかった。


以前、付き合っていた子に、返事が遅いと言われたことがあった。

そのときは、あとで返すんだからいいじゃん、と思っていた。


『あとで』がいつなのか分からない時間は、想像していたより長かった。





数日後、凛と大学で会えた。


キャリアセンターへ向かう途中だと聞き、俺も少し早く家を出た。

相談の時間まで、休憩スペースで一緒に昼食を食べることになった。


「凛ちゃんだ。」


「見れば分かるよ。」


「本物、久しぶり。」


「写真とは毎日会ってるの?」


「うん。」


凛は一瞬黙ってから、お茶の蓋を開けた。


「そこは否定してほしかった。」


俺は笑った。

この返しも、声も、会わないと分からない表情も、全部久しぶりだった。


凛の手元には、企業の資料があった。


「そこ受けるの?」


「うん。仕事内容が気になってるから。」


俺は横から資料をのぞいた。


挿絵(By みてみん)


「じゃあ、俺も受けようかな。」


「夏樹くんも興味あるの?」


「同じ会社に入ったら、毎日会えるじゃん。」


凛の手が止まった。


「それが理由?」


「結構大事じゃない?」


「会いたいから受けるの?」


「うん。凛ちゃんと離れたくないし。」


凛は資料を置いて、俺を見た。


「自分の将来を、私に合わせて決めないで。」


思っていたより真剣な声だった。


「……そんなにだめ?」


「私も、会えなくて平気なわけじゃないよ。」


その言葉に、顔を上げた。


「でも、仕事が合わなかったとき、私と同じ会社だからって我慢してほしくない。」


「凛ちゃんのせいになんかしないよ。」


「うん。でも、夏樹くんが何をしたいかも、大事にしてほしい。」


俺は手元の資料に目を落とした。

会社名は見たけれど、仕事内容はまだ読んでいなかった。


同じ会社でも、配属先が同じとは限らなかった。

そんなことさえ、考えていなかった。


「……営業は、ちょっと面白そうだと思った。」


「この前の説明会?」


「うん。話すだけじゃなくて、客の困ってることを考えるんだって。」


凛がうなずいた。


「その話、もう少し聞きたい。」


俺は説明会でもらった資料を鞄から出した。

丸をつけたページを開くと、凛が隣からのぞき込んだ。


ただ近くにいたくて持ち出した就職の話を、そのとき初めて、ちゃんと二人でした。




夕方、応募書類を直していると、凛からメッセージが届いた。


『もう帰った? まだ大学なら、駅まで一緒に帰らない?』


俺はすぐに返した。


『いる。どこ?』


片づけようとして、書きかけの文章が目に入った。

最後の一文だけ打ち終えて、保存した。


正門で待っていた凛が、俺を見つけて小さく手を上げた。


「お待たせ。」


「走ってきた?」


「途中から。」


「急がなくても待ってたのに。」


駅まで、十五分もかからなかった。

次に受ける説明会の話をして、夕飯を何にするか話していたら、すぐに着いてしまった。


改札の前で、俺は腕時計を見た。


「もう着いちゃった。」


「毎日通ってる道なのにね。」


「今日、短くない?」


凛が少し笑った。

それから、俺の腕元へ視線を落とした。


「時計、使ってくれてるんだね。」


「毎日。書類書くときも、説明会でも。」


「そっか。」


凛は嬉しそうに口元を緩めた。


「……今日、誘ってよかった。」


「俺も会いたかった。」


「うん。私も。」


たった十五分だった。


会えなかった二週間がなくなるわけではなかったし、明日から急に暇になるわけでもなかった。


それでも帰りの電車では、何度も凛の返事を思い出した。


会いたかったのは、俺だけじゃなかった。


家に着いて、俺はパソコンを開いた。

凛に話した営業職の募集要項を、今度は最後まで読んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。